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神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第5章 隠れ家
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第14話 少女

 広い草原の中央に少女が立っていた。

 風に靡く金色の髪と空よりも淡い蒼の瞳をした少女が、白いワンピース姿で立っていた。


「ここは……どこだ?」


 草原を見渡してアロットは呟いた。

 なだらかな草原は東西南北どこを見渡しても何も見当たらない。

 そんな場所がこの大陸にあっただろうか。

 周囲に……森も、山すら見えない広大な起伏のない草原がある場所など、あるわけがないはずだった。


「アロットくん」


 少女が、確かにアロットの名前を呼んだ。

 その顔はフェリシアに似ているが……違う。


「お前は……誰だ?」


 ここがどこなのかと言うよりも、目の前の少女が誰なのかが重要だ。

 本能的にそう思って問いを投げるが、少女は黙って笑みを浮かべるだけだった。

 フェリシアに似ているが、フェリシアと比べると少し子供っぽく見える。

 こちらの少女の方が十二歳という年齢に近い幼さを感じた。


「多分、こうしてお話が出来るならきっとすぐに思い出すよ」

「思い出す?」

「うん。それがあなたにとって良いことなのか、それとも悪いことなのかはわからないけど」


 まるで過去に出会っているかのような言い方で語りかけ、アロットに少しずつ近づいてくる。

 近づかれてその身長差がはっきりとわかり、やはりフェリシアとは違うのを確信した。

 いや、目の前の少女が誰なのかは気づいているはずだ。

 その名前も知っているはずだ。


「……もしかしたら、アロットくんは気づいてるんじゃないかな」

「…………」

「アロットくん、お願いがあるの」

「なんだ?」


 少女は笑顔を見せて見上げてくる。

 その愛くるしい笑顔は、どこか無理をしているように見えた。


「私を──────」


 告げられた言葉は、草原を撫でる風にかき消された。





 目を覚ますと、見覚えのある天井が視界に広がっていた。

 体を起こし窓の外を眺めると、見覚えのある庭とその先には森が広がっている。

 イオナの家の二階。昨夜世話になったベッドの上でアロットは背伸びをした。


「あの魔術の反動……前よりも強くなってないか?」


 キメラを倒して家まで戻ってきた後、糸が切れた人形のようにアロットはベッドの上に倒れて眠り込んだ。

 まだ少しぼーっとするのは強化魔術(リアライズ)の影響か、それともさっきの夢の影響か。

 魔力を全力で使い切った影響もあるだろう。


「俺は、あの子を知っている」


 頭を押さえ、記憶を辿るように目を閉じる。

 それでも奥深くに杭が刺さったような違和感が残っている。

 原因は既にわかっている。間違いなくこれは記憶の封印魔術だ


魔王(マグナギウス)……」


 全てを知る者、全てを隠した者。

 身体に刻まれた魔術の痕跡から、あの男を一刻も早く問い詰めたい衝動に駆られる。


(男……というのも、思い出してるな)


 まだ魔王(マグナギウス)の顔は思い出せないが、その背格好はぼんやりと思い出してきた。

 ふと、視界の端──窓の向こうに煙が立ち上っているのが見えた。

 ベッドから降りると窓の外を見る。


「イオナ?」


 イオナが何かを燃やしている。

 一先ず外に出て確認しようとしたところで、部屋の扉が開いた。


「そろそろ起きましたか? ……アロット君?」


 部屋をのぞき込むフェリシアの顔見てアロットは固まる。

 やはり夢に出てきた少女と似ているが違う。


「アロット君?」

「いや、なんでもない。少し寝ぼけてるだけだ」

「また強化魔術を使ったんですか?」

「それはそうなんだが。状況的に仕方がなかった……はずだ」

「別に怒ってはいませんけど、もう少し使い勝手が良くならないんですか? 使うたびにへとへとになっているような」

「それは……そうだな」


 当然の指摘をされてアロットは何も言い返せなかった。

 もう少し強化魔術(リアライズ)を使いやすく改良しないとまた倒れる可能性がある。


(そもそも『潜在能力の覚醒』というのがあまりよくないんだろう)


 エリオットの話では本来使われない力を強制的に解放させる魔術という話だ。

 負荷が高いのは体が急な覚醒に驚いてしまっているかもしれない。

 と、冷静に分析したところでフェリシアの指先から赤い血が滲んでいることに気づいた。


「それ、どうしたんだ?」

「あ、これは……えへへ」

「えへへ。じゃないんだが」


 少し照れた顔でフェリシアが指を差し、すかさず治癒魔術で傷を塞ぐ。

 ついでに魔術の運用にはなにも影響はないことを確認する。

 イオナから高度な治癒を受けたが、アロットの治癒能力が上がっているようには見えない。


「剣を触っていたら少し切ってしまって」

「なんで今更そんなミスするんだ」

「あはは……」


 困ったようにフェリシアが笑う。

 何かを隠している。そういう表情だ。


「おい、こら」

「いや、違うんです」

「何が違うんだ」

「…………また、折れてしまって」

「は?」


 フェリシアが申し訳なさそうに折れた剣を差しだしてくる。

 ヴェルナトの時と同じく、刀身が真ん中から真っ二つに折れていた。


「あーあ……」

「わざとじゃないですよ!」

「わかってるっての。逆にわざと剣を折るとかどういう状況だよ」


 折れた剣を確認すると、その断面を見てアロットは目を見開いた。

 まるで虫にでも食われたように中が空洞になっている。

 ヴェルナトでエリオットから報告を受けたのと同じ現状だ。


(……おかしくはない、か)


 魔力を断つ力。

 この剣も魔術によって造られているのだから、影響を受けてしまうのも不思議な話ではない。


「とりあえずこれは俺には直せない」

「すみません」

「謝ることじゃない。むしろ、随行魔導師の俺は直せなきゃいけないんだけどな」


 しかし、剣がこのザマならアロットは少し気になることがあった。


「ちなみに服は大丈夫なのか? 下着はちゃんとつけてるか?」

「はい!? 急になんですか!? へ、変態さんですか!!」

「いや、当然の疑問だが」

「ちゃんと付けてますよ! 私のことを何だと思ってるんですか!!」


 顔を真っ赤にしてフェリシアが怒る。

 どうやら服は大丈夫なようだが、冷静に考えれば魔術の水で喉を潤せるのだから、魔を断つ力がコントロールはされていることはわかる。


「剣のこともあるし、一旦ローインクレーだな。どうせ行くつもりだったが」

「……イオナはどうするんですか?」

「連れていく」

「それは…………」

「安心しろ、捕まえるつもりはない。少なくとも俺はな」


 フェリシアのイオナの呼び方が変わっていることに気づいた。

 何か二人で話していたのだろう。


「ただ、少なからず禁術に関わっていたんだ。何かしらの罰は受けるだろう」

「なんとかしてください」

「ま、イオナと話し合って考えるさ」


 頭を掻いて一先ず庭に居るイオナと話をすることにした。

 

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