第12話 人外
見た目は完全に人の姿をしている。
ロロが一度見せてくれたイオナの母の姿のままだが、実際に相対したキメラは白いドレスのような服を纏っている。
よく見ると露出した肩とドレスが結合しているこのに気づいた。
(服のように見えるがロロのように肉体を変化させて、ドレスのように見せているだけか?)
冷静によく見ると、人間ではあり得ない姿をした異質な存在。
赤い瞳がアロットを見つめている。
拘束魔術の範囲に入れば動きを封じられる。あとは仕留めるのは難しい話ではない。
ゆっくりと、警戒をしつつ、一歩一歩距離を縮めていく。
先に動いたのは────
「!?」
キメラの方だった。
「""■■■""」
「何!?」
キメラがアロットに向けて手を翳すと炎の槍が周囲に展開され、アロット目掛けて放たれる。
咄嗟に魔力障壁を纏って防御姿勢に入ろうとしてが、すぐ傍を飛んでいたロロを掴んで横に飛ぶ。
木の陰に隠れ、身を隠しながら一度様子を伺う。
「""炎槍""だと? 何故魔導師団の魔術が使えるんだ?」
ただ魔術を使うのならばそこまで驚きはしなかったが、魔導師団だけに伝えられる魔術が使えるのは話が変わってくる。
そして何より、キメラは言葉を喋った。
(聞いたことのない言語だった。だが、間違いなく聞こえた。『イサリオ』と……)
リヴァイアサンの時と同じだ。
聞いたことのない言葉のはずなのに意味が分かる。
「……もう少し調べる必要があるな」
ラディアメルクに突如現れたリヴァイアサンと、死者を生き返らせようとして造られたキメラ。
何故その二体に共通する点があるのか。イオナの父親が最期に気づいたことと関係があるように思えた。
「全く、いつもこうだな俺は」
魔術を習得するのも、頭で理解するだけではなく身体で受ける必要がある。
核心を得るために自ら体感しないといけないこの体質に呆れてしまう。
無茶をすればフェリシアに怒られる。
そう思った時、掴んでいたロロが液状に溶け出す。
アロットの手からすり抜けると、再び白い子竜の姿に変わる。
「なんでもアリか?」
返事の代わりに小さく火を吹いた。
ロロはドラゴンやヴェーラのような単純に魔力を炎に変換して出力することは出来るが、それを槍や矢のような形にして放つ魔術は使えない。
「なら、あれはなんだ?」
複雑な魔術を使うキメラ。
それが単なる生命の合成によって出来たものとは思えなかった。
気になるが足を止めて考えこんでいる暇はない。
アロットはロロに指示を出す。
その時だった。
「""■■■■■■""」
アロットの周囲に風が舞う。
無数の風の刃により対象を囲み全方位から斬りつける風の攻撃魔術。
「ちっ!」
アロットは急いでその場から離れると、体勢を立て直してキメラを視認する。
赤い瞳が、悪魔のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「……お前は誰だ?」
別の人格が乗り移っているような違和感。
自分たちと同じ魔術を使いながら、言語の異なる生物。
アロットは障壁を身に纏い、正面から突撃する。
「面識はないが、それ以上その身体で好き勝手されたら不愉快だ」
木々の隙間を駆け抜ける。
「""■■■""」
風の刃が飛来する。
障壁を纏ったアロットにとっては大した脅威にもならない。
片手で弾いて見せると、キメラは危機感を覚えたのか距離を取ろうとする。
その頭上からロロが奇襲をかける。
ロロの体当たりを察知し、キメラは後方へ跳ばずに立ち止まる。
アシストにより、今度はアロットの魔術の間合いにはいる。
「動くな」
懺陥虚賜・クサリバネ。
詠唱も名唱も破棄した最速の拘束魔術がキメラを捕える。
重力を纏った不可視の拘束に、キメラが膝から崩れ落ちる。
そこへアロットは拳を叩つけようと迫る。
(竜人拳で仕留める!)
リヴァイアサンから模倣した斬撃は、最初に使ったのが強化魔術による強化状態だった。そのせいか通常時の出力が安定せずにいた。
仕留めるには竜人拳の方が確実だった。
「""■■■■■""」
キメラの魔術の名唱。
瞬間、縛られていたはずのキメラが立ち上がる。
「なにっ!?」
振り抜いた拳を紙一重で躱される。
(拘束魔術の手応えはまだある。ということは、俺の拘束よりも強い力で動いている)
分析し、アロットは気づいた。
身体強化の魔術を使ったのだ。
このモンスターは魔導師団の魔術だけではなく、身体強化の魔術を使う。
アロットの拘束を受けても動けるほどの、強力な身体強化の魔術。
そんなものが使えるとしたら、無力な騎士でも剣を振って強引にモンスターを討伐させる随行魔導師くらいだ。
「お前は……まさか……」
リヴァイアサンの前例を思い出した。
あの巨大なモンスターはラディアメルクの前管理者であるウィルの魔術を使い、さらには召喚魔術に、ミーアの姉の通信魔術を使っていた。
奪い取った魔術。
(イルミーナの話では、前回の随行魔導師は白き異形化した騎士に殺された)
だが、目の前のキメラは手慣れたように魔導師の魔術を使う。
「……死体漁りか。どこまで人の尊厳を奪うつもりだ?」
もし本当にこのキメラにも魔術を奪う能力があるとしたら……。
焦る気持ちに、フェリシアと別れたのを少し後悔した。
キメラは更に後方へ跳び、アロットから距離を取ろうとする。
そこへ再びロロが上空から奇襲をかけようとする。
「──! 待て!」
「""■■""」
アロットの声にロロはキメラへの奇襲を止めて急旋回。
両手を広げたキメラは足元から二本の岩の剣を召喚する。
キメラの左右からせり上がった岩剣はそのまま白く細い腕を斬り落とした。
(自切っ──!?)
切断面からはモンスター特有の黒い血が流れる。
ぼとり、と。地面に落ちた白い腕がロロのように溶け出して姿を変えた。
片方はロロと同じような子竜に、もう片方は───
「白い……蝙蝠?」
数匹の白い蝙蝠と化してアロットに襲い掛かる。
子竜の方はロロを追いかけ分断されてしまうが、この程度は脅威にはならない。
だが、視界を覆われキメラの姿を見失いそうになる。
「くそっ! 逃がすわけには──」
逃げられる。アロットはそう思っていたが、キメラの魔力が大きく振れたの察知した。
逃げる為ではない。より強力な魔術を放つための目くらまし。
「""■■■■■""」
炎の熱閃がアロットへと襲い掛かった。




