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神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第5章 隠れ家
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第2話 隠れ家

 木々の間を抜けると急に視界が開いた。

 石造りの二階建ての家と小さな畑のある民家のような建物が現れ、アロットとフェリシアは目を丸くした。


「こんなところに人が住んでいるんですか?」

「みたいだな。というかあの女はどこに行った?」

「すみません。見失いました」

「いや、俺も悪い」


 白い女を追いかけていたはずだがいつの間にか見失ってしまった。

 その代わりに二人の視界に現れたのはグランクレイグの建築魔術を感じ取れる一軒家。


「この家の住人なんでしょうか」

「どうだろうな。そもそもこの家に人が住んでいるのかどうか。住んでるとしてもなんでこんなところに住んでいるのか」


 警戒しながら周囲を見渡す。

 小さな畑は背の低い雑草が生い茂っており、今は使われていないのがわかる。

 家の方は所々に小さなヒビが入っており、魔術による定期的な修繕がされていない状態にも見えるが、この程度のヒビはまだ許容範囲なので何とも言えない。

 仮に今は人が住んでいなくとも最近まで住んでいた可能性が高い。


「それにしても別荘か? こんなところに」

「とりあえずノックしてみますか」

「そうだな」


 フェリシアが玄関の扉に近づく


「……まるで幽霊屋敷だな」


 ぽつりと、家を見上げてアロットが呟いた。

 フェリシアが扉を叩く音が………………一向に聞こえてこない。


「フェリシア?」

「やっぱりアロットくんが開けてくれませんか?」

「は?」

「魔術で鍵が掛かっています」

「んなわけ」

「鍵が掛かっています」

「魔術なら無効化出来るだろ」

「先生」

「わかったよ」


 幽霊屋敷。という言葉に臆したのだ。

 そういえば幽霊の類が苦手なのを忘れていた。

 抜刀状態でも苦手なものは苦手なようで、仕方なくアロットが扉をノックした。


「…………反応がないな」


 やはりこの家には誰も住んでいないのだろう。

 試しに扉に手をかけると鍵は掛かっていなかった。


「か、勝手に入っていいんでしょうか?」

「良くはないな。さっきの女がいるなら話を聞きたいところだが」

「もしかしたら、さっきの女の人が……ゆ、幽霊……だったんじゃ……」

「その可能性も無きにしもあらずか」

「せ、先生!!」

「服が伸びる」


 必死に引き止めとようと裾を引っ張れながら、アロットは中の様子を確認する。

 内装は至って普通の家。左側はテーブルと椅子が置かれたリビングで、右側はキッチンになっている。

 真っ直ぐ進めば二階につながる階段があり、整理されているところを見るに誰か暮らしている可能性が高い。


「おきゃくさんですか?」

「ひゃあ!?」


 不意に背後から声が聞こえてきてフェリシアが飛び上がる。

 何故背後を警戒していないのかと怒る前に、アロットは振り返って声の主を確認した。

 長い白い髪に紫の瞳をした小柄な女の子が立っている。

 腕の中には小さな兎を抱きかかえ、アロット達を見上げて首を傾げていた。


「ここの家の住人か?」

「うん。おにいさん、だあれ?」

「魔導師だ。こっちが騎士で、俺が随行魔導師のアロットだ」

「フェリシア……ブレイクハートです」


 息を整えながら名乗るフェリシアを見て目を細める。

 ここまで情けない名乗りは初めだ。


「いおな。イオナ・メルクェル」

「すまないイオナ、勝手に中を覗いてしまって」

「ううん。ふたりはなにしにきたの? ""きし""ってなに? まどうし……魔導師?」

「騎士を聞いたことないか?」

「うん。でも、魔導師はわかる」


 騎士を聞いたことがない。別にあり得なくもないことだ。

 特にイオナは見たところまだ十歳前後か。こんな辺境では二十年に一度あるかないかの巡礼の旅を知らなくても無理はない。


「騎士は……そうだな。殆ど魔導師と変わらないと思ってくれていい。基本的にやることは人助けだ」

「ひとだすけ……」

「ざっくりしすぎてませんか?」

「間違いではないだろ。そうだイオナ、さっき髪の長い女性を見たんだが心当たりはないか」

「っ……それは……」


 森の中で遭遇した白い女について問うも、イオナは俯いて言葉を濁す。

 何か知っているように見えるが、それについて隠しているような気がした。

 アロットと目を合わせないようにしてはいるが、イオナの容姿はあの白い女に似ていることに気づく。


(赤い瞳……)


 ふと、イオナの腕の中に抱かれた小さな兎に目が映る。

 つぶらな赤い瞳と目が合うと、兎の方も顔をそむけてしまった。

 どこか違和感を覚える白い兎の姿と俯いたイオナの姿にアロットは腕を組んで思案する。


「イオナさんはここで暮らしているんですか?」

「うん」

「一人でですか?」

「ううん。いまは、""ろろ""がいる」

「ロロ?」

「このこ」


 抱きかかえていた兎を見せてくる。

 そこで兎の違和感にやっと気づいた。

 毛皮がない。遠目からではやけに毛並みが綺麗で艶があるものに見えていたが、そもそもその身体には毛が生えていないのだ。

 艶やかな白い体表は、まるで何かが兎のフリをしているような違和感を覗かせる。


(この生き物はなんだ?)


 アロットが目を細めるとロロと呼ばれた兎がイオナの腕から飛び降りた。

 慌てて身を隠すように家の中に入って走り去っていく。


「ふたりも、なかにはいる?」

「いいんですか?」

「うん。はじめての、おきゃくさん」

「じゃあ、お世話になりますか? アロットくん」

「ん、ああ。そうだな」


 フェリシアから提案は少し意外に思えたが、おそらく森で見かけた白い女が幽霊だと思って怯えている。

 二人の間をイオナが抜けて家の中に先に入ると、振り返って改めて向かい入れようとする。


「いらっしゃい。ふたりとも」


 その顔が少し元気がないように見えた。

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