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神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第4章 南方魔術都市ラディアメルク
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第15話 解放

 影の群れが黒い巨人の魔術であるならば、アロットも模倣することが可能だろうが、アロットの模倣は完璧ではない。

 ガーゴイルから模倣した竜人拳は、アロットの戦闘スタイルに合っていたからこそのものだ。


(ここで召喚魔術を模倣出来たとしても、脆い影の劣化になるだけか)


 烏合の衆を真似たところでアロットにこの規模の召喚魔術を出来るとは思えなかった。

 何より召喚魔術について学んだことがない。

 今は影の軍勢を薙ぎ払いながら前に進む中、度々影の攻撃を掠めるが魔力障壁のおかげで大した傷はない。


(それよりもさっきの斬撃らしきものはなんだ?)


 クウィンの氷の防壁を両断した斬撃のような魔術。

 あれが風刃(ファゼス)のようなものであれば、あの規模と威力の風の魔術ならば、少なからず風の余波がアロットにも感じられたはずだ。

 速すぎるとかではない。あの氷の防壁に斬撃を発生させたような魔術。

 あれだけ綺麗に切れているのに後衛に控えている魔導師たちへの影響は、現状は報告されていない。


「いや、最悪の場合もありえるか」


 甚大な被害を受けている可能性もなきにしもあらず。

 状況を確認したいが、アロットの通信魔術はミーア限定。それも、ミーア側から通信が繋がってようやく成り立つ。


(気にしていてもしょうがない)


 改めて目の前の敵に集中する。

 影の群れは最初の頃よりも減っている。

 側面から攻めるフェリシアの方を優先しているのもあるが、先程の斬撃の魔術の影響もあるかもしれない。

 今一番懸念すべきは…………。


斬撃(アレ)がフェリシアに飛ぶことだ」


 アロットは大きく旗を振りかぶる。

 魔力を旗に纏わせ、竜人拳と同様に地面に叩きつけ衝撃を拡散させようとする。

 ──そこへ更に魔術を重ねる。クウィンの魔術から得た氷の魔術の感覚。


(あの時受けたのは熱を急激に奪ったような冷気の拡散……っ)


 アロットの模倣には魔術に対する理解度も必要になる。

 結局のところ身体に受けた感覚から解釈を導いてるだけに過ぎず、模倣とは言いつつもアロット独自の魔術になる。

 拘束魔術も竜人拳もどちらもアロットが扱いやすいようにアレンジしているとは言うが、殆ど自然にそうなっていった部分が大きい。

 ならば氷の魔術はどうするか……。


「""竜人拳──""」


 拳に込めた魔力を利用し、強引に魔術の出力を上げる。


「""霧粧氷(むしょうひょう)""!」


 振り上げた旗を豪快に砂の地面に叩きつける。

 インパクトと同時に魔力を拡散させる一撃に、ヴェルナトでも既に体験していた温度を奪う感覚を乗せる。

 衝撃の拡散と同時に急激な温度低下。

 周囲の影の軍勢を一掃し、同時にアロットを中心に氷の花が咲いた。

 だが、本命はこれではない。


「……いけるか?」


 凍った旗を引き抜く。

 ぶっつけ本番にしてはいい出来栄えをしていた。

 旗の先端には氷の刃が付き、簡易的な槍を造って見せた。

 そして、周囲に広がった氷は影の軍勢が一時的に近づけないようにする為のもの。

 アロットは氷の槍を構える。

 黒い巨人の頭部に狙いを定めた──投擲の構え。


「""リアライズ""」


 更にエリオットから得た身体強化の魔術を掛けることで準備は整った。

 フェリシアが接近するまでに気を引く必要がある。

 当たらなくても脅威になればそれでいい。

 自身の潜在能力を解放する魔術。

 強化魔術を加えた肉体で全力で槍を投擲する。


「飛んでけ──ッ!」


 アロットは普段から拘束魔術によって鍛錬を行っているおかげか、自分の力を解き放つ感覚は掴んでいる。

 その感覚を自分の内部へと解釈を広げ、強化魔術を限界まで引き出す。

 自分の中のより深い──深淵へと手を伸ばしていた。


 内側から込み上げてくるナニカが血を巡った。

 自分が自分じゃなくなるような感覚に脊髄が騒めいた。


 それでも、アロットは全神経を槍の投擲に集中。

 放たれた槍は低い弾道で黒い巨人目掛けて飛んでいく。

 強化魔術の反動により頭の中が真っ白になっていく感覚、酩酊状態に似た浮遊感に襲われながらアロットは倒れこんだ。


「くそっ!」


 それでも顔を上げる。

 槍は──黒い巨人の左腕を貫いた。

 狙いは逸れたが巨人の左腕の付け根──肩と呼べる部分があるのかは知らないが、肉をえぐり取った風穴。巨躯の腕が皮一枚を残して宙ぶらりんになっていた。

 確かな手応えを感じ、拳を握りしめ身体を持ち上げる。

 膝で立ち、状況を確認する。


「やっ────」


 致命傷を与えたと錯覚した。

 その時だった。


《──────》


 声が聞こえた。

 ミーアの通信ではない。

 それでも確かに脳内に声が響いた。

 誰のかはわからない。だが、アロットはその言葉の方が気になった。


「…………『復讐』?」


 聞こえた言葉は自分たちが使う言語とは異なるはずなのに、確かにその言葉の意味は理解できた。

 だからこそ、状況を理解するのに一手遅れた。

 

 既に黒い巨人はアロットの方を向いていた。

 

 アロットは反射的に腕を交差し防御を固めた。

 黒い巨人は再び額に赤い瞳を開眼する。


(しまった……!)


 斬撃が、アロットの胸を切り裂いた。

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