第15話 遺跡
四人は扉の中に入る。
部屋には明かりもなく真っ暗であり、ヴェーラが火の蝶を召喚しようとした。
「『光あれ』だったわね」
「イルミーナさんのことですか?」
ふっ、と。部屋の中に明かりが灯る。
「え?」
周囲に光源は見当たらないが、明らかに部屋が明るくなっていた。
何かが光っているようだが、その何かがわからない。
「エリオは扉の解析は出来た?」
「それが……出来ませんでした。それと……」
「何?」
「この部屋には異質な魔力が漂っている気がします」
「異質な魔力?」
ひっかる言葉にヴェーラが頭を捻る。
その間、一足先にアロットは部屋の中を見渡した。
「遺跡……だな」
これまで歩いてきた""迷宮""とは違う。
四体の石像に囲まれた低い祭壇。
部屋の壁は今まで見てきた土色と違うよう色に見えるのは、この部屋を明るくしている謎の淡い青よの光のせいか。
まさしく遺跡と呼べる──過去の人間が何かを記し残したような形跡の人工物で満ちていた。
(それに明らかに古代語に反応していたこの仕掛けは何だ?)
エリュシオン、イルミーナ。
他にも何か反応する言葉があるのか。
あの女は何か知っているのか。
立ち止まっていても何もわからないままだ。
「とにかく、今はこの部屋を手分けして調べるわよ」
ヴェーラの提案に三人は頷いた。
今まで各地の遺跡を調べたことがあるヴェーラとエリオットは、壁や祭壇に刻まれた絵や文字を調べる。
フェリシアはとにかく何か落ちてないかと辺りを歩き回る。
アロットは四つの石の像を調べることにした。
グランクレイグ生まれということもあって、この手の石像は見慣れている。
「………………なんだ、これは?」
魔術による風を吹かせ埃を払う。
見えてきたのは石像に施された精巧な技術だった。
一見、人型の石像には服を模した布を被せているのかと思った。
だが、これは……
「あり得るのか? こんな……こんな精度の高い魔術が」
アロットは恐る恐る石像に触れる。
布だと思った箇所は間違いなく石の手触りと硬さをしている。
風に靡く布を精巧に模写したような石像を見てアロットは言葉を失った。
石像の台座の文字を見ていたヴェーラがアロットの様子に気づいた。
「何か見つけたの?」
「この石像は誰が造ったんだ?」
「いや、知らないわよ。それも今確かめてるんでしょ」
こいつは何を言ってるんだ。
そう言いたそうにヴェーラがジト目を向けてくる。
ラディアメルク出身のヴェーラにはわからない。
「こんな精密なものが造れる人間が居たら、グランクレイグに名前を残しているはずだ」
「どういうことよ」
「あり得ないんだよ。間違いなく現代の魔術でこんなものを造れる奴はいない」
「……確かに、細部の表現が凄いと思うけれど。あたしは芸術家じゃないからわからないわ」
魔術は人の想像力がモノを言うが、所詮は人の想像の中の物しか造れない。
だからこそ、どんなに凄腕の造形魔術でも実物に劣る贋作に過ぎない物しか造れないとされている。
細部のディティールをどれだけ誤魔化すかが優れた造形魔術の技量の一つとされている
だというのに、この石像はあまりにも細部に拘っている。
一種の執念のようにも感じられる。一部の人間しか気づかない程の細部への拘り。
「ヴェーラさん、アロットさん。一つ分かったことがあります」
「なに? エリオ」
「信じがたいですが、この石像──いえ、この部屋丸ごと……魔術で造られていない可能性があります」
「なんですって?」
解析魔術を使用したエリオットの言葉に、ヴェーラとアロットは目を見開いた。
ドラゴンの居た部屋に比べれば狭いが、それでも酒場一つが入るだけのスペースはある。
そこに祭壇と石像、その他にも壁画や文字が刻まれている。
それら全てを魔術を使わずに作り上げたというのは信じがたいことだ。
「だとしたら、この部屋の明かりはなんなの? これも魔術ではないというの?」
「わかりません。ただ、これは何か生き物のようにも感じます」
「生き物だと?」
「魔力探知には何も引っかからないわ」
「そうですね。魔力そのものが漂っている感じはあるんですけど、それが別物というような……。あくまで僕の解析魔術での話ですけど」
目に見えない生き物……、魔力そのものが別物……。
アロットはそこでイルミーナが言っていたことを思い出した。
──それと、マナは精霊の力とも言われてたりするんだよね。
──目には見えないけれど、わたし達に力を貸してくれる存在だよ。
脊髄が浮き上がるような不気味な寒気に襲われた。
なにか核心に迫っている感覚が朧気に浮かび、早く気づけと脳内が騒ぎ立てている。
アロットは思わず舌打ちをした。
(あの女。やはり連れてくるべきだったか)
イルミーナは何か知っているかもしれない。
知っていてここに来るのを避けたの言葉を思い出そうとする。
何故、彼女はここに来ることを拒んだ?
──苦手なんだよね。ああいう暗くてじめじめしたところ。……嫌いっていうか嫌いな奴がいそうっていうか。
嫌いな奴。
関係するとしたらその言葉だ。
それがいったい何のことなのか。ここにいるのが本当に精霊だとしたら自然派の彼女が嫌うのもおかしい話だ。……適当に言ってただけかもしれないが。
それでもここにまだ何かが居るとしたら。
「皆さん。こちらに来てもらえますか?」
少し離れた場所からフェリシアの声が聞こえた。




