第2話 休む暇もなく揉め事は訪れる
中央交易都市ローインクレー
この大陸の物流の中心というだけあって、その街の中の光景は圧巻の一言に尽きる。
忙しなく行き交う獣車、大きな声で客を引く商人達。
門の外の何倍もの人で溢れかえり、安全な街の中だと子供の姿もちらほらと見える。
まるでお祭りのような街の光景をアロットとフェリシアは人混みから離れて眺めていた。
「すごいですね……。あれだけの獣車が走っているのは初めて見ます」
「中央交易都市って名前の通り、三つの魔術都市の中間地点にこのローインクレーがある。西方魔術都市グランクレイグ、北方魔術都市セヴェーレ、南方魔術都市ラディアメルク……この三つの魔術都市とこの交易都市がこの大陸の四大都市と言われている──っていうのは前に教えたな」
「はい。でも、実際に見るとグランクレイグよりもすごく賑やかで人がいっぱいいる気がします」
「定住している人の数で言えばグランクレイグよりも少ないはずだ。けど、ローインクレーは商人、魔導師、冒険者、旅人……色んな人間が通る街だからな。その分人口が多く見える」
説明しつつも、フェリシアの顔を横目でみて様子を促う。
機嫌は直っただろうか……。そんなことを気にしているとフェリシアは困ったように笑った。
「もう、怒ってないですよ」
「そうか? ……いや、悪かった。いろいろと」
「いいですよ。もう子供じゃないんですから、いつまでも拗ねたりしません」
ふふ、とフェリシアは小さく笑った。
もう子供じゃないから拗ねない。
(やっぱり拗ねてたんじゃないか)
と、アロットは心の中で思うだけにして口にはしなかった。そんな指摘をしたらまた怒らせてしまう。
余計な事を言う前に別の話題に変えることにする。
「荷車に使われている車輪の黒鉄はグランクレイグの魔術の賜物だ。丈夫でありながら硬すぎない造りで、ローインクレーの石畳も傷つけにくくなっている。……とはいえ、流石にこれだけの量が走れば傷はつくが」
「その道路もまたグランクレイグの魔術で修復するんですよね。大地の魔術師の末裔はどこでも重宝されてるイメージがあります」
「荷台そのものは木製だがな。軽くて丈夫だから魔術による加工で接合している」
人は皆、それぞれが得意としている魔術で生計を立てている。
魔術が当然の世界で、魔力すらないフェリシアはどう生きるのか。
もし、この旅を生きて帰れたとしてその後は?
それもこの旅で見つけられるのなら……そんなことをアロットは考えていた。
「アロット君。あの人達も魔導師ですか?」
フェリシアは人混みの中に居た集団の一つが気になった
アロットと似た魔導師団の制服を着た者たちだが、ラフで独特な着こなしをしていた。
一人は制服の上着を腰に巻き、一人はボタンを一つも閉めずに広げていたり、女性魔導師は丈の短いスカートを履いていたりと、町の治安を守る魔導師という職業にしてはラフな格好をしている。
「あれはラディアメルクの魔導師達だな」
「ラディアメルクって、海岸沿いの魔術都市ですよね?」
「ああ、大陸南東にある海に面した魔術都市だ。未だ謎の多い海や、各地の遺跡なんかを調べてるのもあって、あそこの魔導師は研究者としての側面も強い。あとは結構……自由というか、好き勝手やってるところがあるな。あの街は」
その都市の風潮からあまりラディアメルクの魔導師とは気が合わないので、アロットは特に話しかけようとも思わなかった。
フェリシアの方は、ただただあの魔導師たちのことを興味深く見ていた。
海──というのも、フェリシアは知識としては知ってはいるものの、当然ながら実際に見たことはない。
「研究者……魔導師は基本的には街を守る為の組織なんですよね?」
「立ち入り制限区域に入る時に魔術称号だけだと融通が利かない場合がある。だから魔導師になる者も多い」
「魔術称号。ええと……その人がどれだけ魔術を扱えるかを示す称号ですよね?」
「そうだ。まあ、あまり覚えなくてもいいが」
「私には魔術が使えませんからね」
「そういう意味で言ったわけじゃない」
「別に気にしなくてもいいですよ」
本当にそんなつもりはなかったのだが、意図せずにフェリシアを傷つけた気がした。
苦し紛れに話を進めて気をそらそうとする。
「正直、上位の三称号以外は覚えるほどでもない。一、二、三級とかでつけられるだけだからな」
魔術称号は魔術をどれだけ扱えるかの指標であり、それによって出来る仕事が決まってくる。
「上位の三称号……あれ? 特別な呼び方をする称号は四つありましたよね?」
「ああ、一つは────」
と、そこでアロットの服が力強く引っ張らた。
態勢を崩すことはなかったが、あまりに突然のことで少し驚いてアロットは目を丸くした。
振り返ると、そこには肩で息をするスキンヘッドの壮年の男性が一人。
切羽詰まったような表情で訴えかけてくる。
「お、おい! あんた魔導師だろ!?」
「そうだが」
「じゃあすぐに来てくれ! 俺の店が壊されちまう」
「は?」
何か揉め事が起きたことはすぐにわかったが、この街で起きた揉め事はこの街の魔導師が対処すべきだ。
当然ながら辺りには他の魔導師もいる。何故、自分が選ばれてしまったのかと、アロットは困惑していたが────隣に立つ騎士様はそんなことは気にしていなかった。
「おじ様、何かあったんですか?」
「ああ、ちょっとな……あんたは?」
問われて、フェリシアは名乗る。
「私はフェリシア──巡礼の騎士、フェリシア・ブレイクハートです」




