第4話 ヴァーミリオン
ヴェーラ・ヴァーミリオン。
現代魔術界で百年に一人の天才とも呼ばれる少女。
耳が隠れる程度の長さの赤髪に、炎のように橙色の混じった赤い瞳。
若干十四歳で平均よりも少し小柄程度の身長に、大きな赤いコートを羽織っている。
そして腰には赤いペンダントがぶら下がっていた。
(紅赫伯……)
上位三称号の一つ。
魔術学院を飛び級で卒業したのち魔導師団には所属せず、転々と歩いているという話はアロットも耳にしていた。
知っているのはその程度だ。
ヴェーラは目を丸くしてアロットとフェリシアの方を見た。
「その人達が今回の同行者なの?」
「そうだ。巡礼の騎士とその随行魔導師だ」
「ふーん」
ヴェーラは素っ気ない態度でアロット達を観察する。
直後、その赤い瞳が細められた。
「なにそれキモ……」
「あぁ?」
軽蔑の眼差しでジトりと睨見つけると一言暴言吐いた。
アロットは反射的に喧嘩腰になる。
自分よりも大きな男に睨まれても、ヴェーラは動じることなくジト目を送っていた。
「キモすぎでしょ。どういうこと?」
「何がだよ」
「いや、あなた達何で自分に拘束魔術掛けてるの? マゾなの?」
当たり前のようにアロットの魔術を見抜いて指摘する。
驚いた。今までアロットの拘束魔術に気づいたのはバルファローネだけだった。
それを初見でいとも簡単に見抜かれるなど思ってもいなかった。
「そんなことをしているのかアロット」
「剣を使うフェリシアの鍛錬の為です。俺にも掛けてますけど」
反応から察するにクウィンには見抜けなかったのだろう。
副師団長よりも優れた魔力知覚の持ち主、天才少女と呼ばれているのは伊達ではない。
アロットは既に格の違いを見せられているようで、特等相当官という肩書が嫌になる。
「来る時にリディ殿から聞いたけど、あなたがアロット・クランツ?」
「ああ、そういうあんたがあのヴェーラ・ヴァーミリオンなんだな」
「どの。なのかはわからないけど。多分そのヴェーラ・ヴァーミリオンだと思うわ」
アロットも名前は聞いたことはあったが実際に見るのは初めてだが、実際に会って見ると本当に歳相応の子供に見える。
それでも立ち方や喋り方は妙に落ち着いているように感じる。
影の天才と呼ばれていたマルタとは違う雰囲気だ。あちらの方が歳上だと言うのにヴェーラの方が大人っぽく見えるような気がした。
「それで、そっちが騎士ね」
「はい。フェリシア・ブレイクハートです。ヴェーラさんについては私もローインクレーで聞いたことがあります」
「なんでそんな喋り方するのよ?」
「え?」
「あなたの方が歳上でしょ」
「そう、なんですか?」
フェリシアがアロットの方をちらりと見て確認を取る。
「フェリシアはまだ十二歳だ」
「…………ん?」
「多分あんたよりも年下だ」
「……………………そう、ね」
ヴェーラはじっとフェリシアのことを見つめた。
つま先から頭の上までじっくりと見定めると、ヴェーラは自信の胸に目を落とした。
「あたしよりも二つ下?」
「そうらしいです?」
「…………それにしては大きくない?」
「よく言われてました。同じ年頃の皆さんよりも背が高かったので」
「ああ、うん。それもそうね……」
「ヴェーラさん?」
手を頭の上に当て身長の話をするフェリシアとヴェーラの話はどこか噛み合っていないように見える。
それでもアロットは敢えて何も言わないことにした。というよりも何も言うべきではなかった。
(フェリシアが特殊なだけで、十四歳ならまだこれから成長するだろ)
などと、フォローするのは逆に悪手である。
アロットは言葉を軽く飲み込んだ。
そこでクウィンが会話に入る。
「今までの巡礼の騎士たちも、その年齢よりも大きな身体をしていたという話だ」
「そうなんだ? ふーん……騎士ね」
ヴェーラは腰に手を当ててジト目でフェリシアを再び見る。
クウィンとは違って、ヴェーラの方はそこまで騎士に敬意を払っているわけではないようだ。
それを見てアロットは改めてクウィンに問う。
「ヴェーラは魔導師ではないんですよね?」
「君の言いたいことは分かる。だが、ヴェーラは今までもラディアメルクの管轄内で様々な調査に協力してくれている」
「外部の人間でしょう?」
「そこは私が保証する」
「まあ、そこまで言うならわかりましたよ」
外部の人間──ここを管理している魔導師たちからすれば、アロット達も外部の人間と言えるだろう。
同じ魔導師団に所属していてもそれぞれの管轄というものがある。
一先ず納得すると、それを確認したクウィンが喉を鳴らした。
「君たちが遺跡に立ち入る条件は二つだ。ヴェーラに同行すること、そして、立ち入りを許可するのは一部の区画だけだ」
まるで一般人のヴェーラが遺跡を管理しているような言い方に引っかかるが、上官の命には黙って従うことにする。
「あたしに付いてくるの?」
「そうらしい」
「なんでよ?」
ヴェーラがクウィンの方を見て問う。
「その二人なら魔術で遺跡を壊すようなことはしない」
「理由になってないでしょ」
するとクウィンとヴェーラは睨みあう。
いったいどうしたのかとアロットは目を細めて怪訝な顔で見守るしかなかった。
一つ、二つと数えたところでヴェーラが痺れを切らしたのか、赤いコートを翻して背を向けた。
「……別に好きにすればいいわ」
そう言うヴェーラの横顔は怒っているようには見えなかった。
それも一瞬だけだったので確証は出来ないことだが……少し、呆れているようにも見えた。
どこかで見たような表情だった。
アロットは今の一瞬のヴェーラの表情に見覚えがあった。ああいう顔をする人間を見たことがあった。
ちらりと、フェリシアの方に目を配る。
彼女は一連の話に付いていけてないのか目を丸くしていた。
「フェリシア」
「な、なんですか? 聞いてますよ? ちゃんとお話は聞いていましたよ?」
「まだ何も言ってないだろ。それはどうでもいいから先に外で待っててくれるか」
「え? わ、わかりました」
バルファローネの時もそうだったからか、フェリシアは意外にも何も聞かずにすんなりと受け入れ部屋を後にした。
「気を付けろよアロット」
気さくに微笑むリディにアロットは目を見開いた。
「あ、あんたまだ居たのか……」
「ずっと居たわ! 本気で驚いてんじゃねーよ!」
部屋の隅に立つリディと中央に仁王立ちするクウィンを見比べて、改めてリディの必要性に疑問を持ってしまう。
ヴェルナトの管理者はあくまでリディだというのに。
そんなことはどうでもいいか。と、アロットは部屋を後にした。




