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神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第3章 遺跡街ヴェルナト
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第1話 その意味などなく

 フェリシアの足取りは軽かったが、まだヴェルナトの道には慣れていない。

 すぐにアロットと前後が入れ替わり、フェリシアは後ろをついて歩くことになった。

 歩きながら、改めて街の中を見渡す。


「そういえば、魔術による採掘ってどういうのがあるんですか?」

「色々あるが、ここでは石をぶつけてる」

「石を……ぶつける?」

「魔術による石弾を撃ち続けるんだ。簡単な魔術で、慣れたら片手で撃ち続けられるから楽なもんだ」

「それはアロット君も出来るんですか?」

「いや、出来ない」

「簡単な魔術ではないんですか……?」

「それすらも出来ないから困ったもんだ」

「他人事ですね……」


 アロットは掌に丸い円形の石を生成すると、それを指ではじいた。

 真上に上がった丸石はそのまま後ろを歩くフェリシアに落ちてくる。

 反射的に掴み取ると、フェリシアはその石をまじまじと見た。


「精々この程度だな。実際に使われるのはもっと精錬された小さな尖石になる」

「それをぶつけ続けて削るんですか?」

「この街だとそうなるな」

「……それって、魔術の石と削った石で溢れたりしません?」

「精錬されたって言ったが、少量の魔力で造られたものだからすぐに霧散して消える。威力を調整して、逆に高い魔力を含んだ鉱石だけには負けるようにする。そうすることで岩を削りながら鉱石を採取できる」

「はあ」


 フェリシアは丸石を見ながら首を傾げる。

 アロットも実際に採掘作業を見たことは少なく、管轄外の話なので詳しくは知らない。


「フェリシアにはわからないのも仕方ないが、そもそも魔力で出来た物は大体安定せずに時間が経てば崩れる」

「そうなんですか? でも、グランクレイグの外壁は魔術によるものですよね?」

「あれは『大地の魔術師』っていう規格外の魔術使い達が造ったものだからな。それに定期的に整備してるからずっと形を保っている」

「そうなんですね」

「あとは実物の物と混ぜ合わせて強度を高める方法もある」


 と、フェリシアが握りしめていた丸石が崩れて塵となって消えていった。

 本来ならば魔力の供給が途切れた魔術は崩れて消えるもので、それでも長期的に崩れさせず維持させることが出来る高度な魔術を扱える者が、家などの建物を造る資格を得られる。


(だからこそ、西風荒野の残塔はおかしい)


 塔の墓場。大地の魔術師が天を目指して造ったとされる塔の残骸が、今もなおグランクレイグの西の荒野に横たわっている。

 あれはグランクレイグの外壁と違って誰にも整備されていないものだ。

 それなのに、まだ完全に崩れることなく塔としての形を保っている。規格外の遺物だった。


「…………もしかして、この剣って凄い物だったりします?」

「気づいたか。それは大陸最高の魔導師であるユリウス・アルヴェイン総師団長が三日かけて造った剣だ」

「三日かけて……それも多分凄いんですよね」

「俺も専門外だからそこはわからん」

「えぇ……?」


 そのユリウスが造った剣だからこそ、今までの戦闘に耐えきれている。

 アロットはそう信じている。


「普通の冒険者たちが使う剣は一か月持てばいい方だ。戦闘には四、五回耐えられたらマシか」

「そ、そんなに脆いんですか?」

「剣で戦わないんだよ普通は」


 冒険者たちに剣を造って売る商売をしている魔術使いが、そんなに腕がいいとは思えない。そもそも商売をするのであれば多少壊れやすい方が儲かるのも事実。

 冒険者みたいな大雑把に生きている者たちはそこまで強度も気にしないので少し脆い剣が良く売れている。

 文句があるなら自分で造ればいい。尤も、そんなものを造る魔術を磨く暇があるなら攻撃用の魔術を身に着けた方が良い。

 フェリシアはそこで「あ」と何かに気づいた。


「だから先生は素手で戦うんですね!」

「攻撃魔術が使えたら使ってんだよ。あと、騎士の剣を見た後で剣を握ろうとは思えない」

「あぅ」


 名推理を一蹴されたフェリシアが鳴いた。

 アロットもフェリシアの教育係をしていたばかりのころは剣を振って見せたが、すぐにフェリシアが教えてもない剣術に覚醒した。

 銀の閃撃──騎士の一閃を魅せられて、自分も剣を握ろうなどとは思わない。


「そもそも随行魔導師は巡礼の騎士のサポートがメインだから、自ら戦うような真似はしない」


 それもローインクレーでの一件以来どうでもよくなってしまった。

 冷静に考えると、自分の命を賭けて他人を守ろうとした過去がある自分が、十歳下の少女が戦う姿を黙って見ているだけなんて出来るはずがない。

 そう思うとアロットは自嘲的に少し笑った。


「先生?」

「ん?」

「何か面白いものでもありました?」

「いや、なんでもない」


 笑ったのを気づかれて、アロットは少し恥ずかしくなる。

 誤魔化すように話題を逸らすことにした。


「面白い物か……。それで言うならフェリシアが持ってるような『斬れる剣』は殆ど存在しない」

「え、剣って斬る為のものですよね?」

「騎士の伝承ではそうとされてるけどな。そういうのは造るのが難しいんだよ魔力の四元素理論的には」

「よん……げんそ……?」

「あぁ、一応話しておくか」


 フェリシアに魔術のことを教えても仕方がない。

 それでも、アロットは暇つぶしがてらフェリシアに教えることにした。


「魔力は火、水、風、土の四つの元素が混ざっているとされていて、それらの概念を抽出して魔術の構築式を──」

「??????」


 早くもフェリシアの頭がショートして耳から煙を吹いていた。

 そもそも魔術学院にて教わることではあるが結局感覚で魔術を使う者が多く、この理論もちゃんと覚えている者は少ない。


「じゃあ、火と水と風と土。この中で手で『掴んで持ち上げられるもの』は何だ?」

「えぇと……土でしょうか?」

「じゃあ、今度はその四つの中で『触ったら危ない』のはなんだ?」

「えぇと…………火ですか?」

「そうだな」


 アロットは手のひらの上に魔力を込めた。


「四つの中で『土には形を造る力が強く』、『火には触れたものを傷つける力が強い』」


 アロットは深呼吸をして集中する。

 慣れないことだが、やってみせるのが一番イメージが掴みやすいはずだ。


「斬れる剣を造るとしたら、その二つの力を抽出して組み合わせるイメージで魔術を構築する。『形を持ち傷つける力に特化した存在』──剣をイメージして」


 ぼぉっ。と、アロットの手のひらに小さな火が立ち上がったのも一瞬。

 果物ナイフよりも一回り小さな刃物が製錬された。


「おぉ!」


 声を上げたフェリシアが小さく拍手をした。

 しかし、アロットはそのナイフの出来栄えには不満そうに眉を曲げる。

 刀身と持ち手部分の境目もなく、ただ石を研いだだけのような代物。


「抽出した概念──さっき言ったそれぞれ""力""のバランスをイメージしないと、『切れ味はあるが脆い』もしくは『丈夫だが斬れない』とかそういうものになる」


 説明している間にアロットが製錬したナイフはすぐに形を保てずに崩壊して塵になる。


「あ、あれ……崩れちゃいましたね」

「普通はこうなる。長時間形を維持するにはそれだけ強い魔力が込められてる。そして、魔力を強くする程に力のバランス調整が難しくなる」

「先生。専門外と言っていましたけど、詳しいですよね?」

「グランクレイグはとくに火と土の扱いに長けていると言わてるからだろうな。それでも剣を魔術で造る奴らは大体""土""の力だけで造っている」

「だから普通の剣は斬れない。ということなんですか」


 だからこそ、冒険者の扱う剣が魔力を込めて叩くものだと言われている。


「まあ、あくまで魔術は人の想像力の結晶であり、四元素理論はあくまでその想像力の補助の為という話も──」

「その話は長くなりますか?」

「ごちゃごちゃ言ってるけど結局理論に囚われない感覚型もいるから魔術は難しいよなって話」

「先生も多分そうですよね」

「そうだろうな」


 確かに身体で受けた魔術を使えるようになるというのは感覚型とも言える。

 今みたいに四元素理論に基づいて魔術を構築することも出来るが、どこか芯を捉えられないような感覚で安定しない。


「さて、今日の勉強は終わりだな」


 石畳の道を歩いていた二人は魔導師の詰所に到着する。

 ヴェルナトの中では大きい二階建ての建物を前にしてアロットは服を正した。

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