表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第1章 中央交易都市ローインクレー
22/65

第19話 空白の章

「以上が、白き異形についての報告になります」


 バルファローネの屋敷にてアロットは白き異形について報告する。

 遭遇した経緯、戦闘の流れ、行動パターン、崩壊する肉体……それらを報告しつつも、アロットの中にある仮説はまだ言わないでおいた。

 アロットの報告を聞いたバルファローネは溜め息を吐いた。


「まあ、よくやってくれた。と、言っておこう」


 アロットとフェリシアを見てバルファローネは自分の髭を撫でた。

 ローインクレーへと帰還すると、アロットはすぐにバルファローネへ報告することにした。


 ガレルはというと、勝手に冒険者達の酒場へと帰っていった。

 マルタは既に意識を取り戻して、自力で立てるようになっていた。

 その表情は初めて会った時からは想像できないほど暗い顔で、バルファローネからは別室で待機するように伝えられので今はこの部屋にいない。


「死傷者を出さなかったのは褒めておこう」


 バルファローネは少し苛立ったような顔で二人を見る。

 その威圧的な態度には何か裏があるような気がする。

 そんなことを考えていると、部屋の隅で控えていたシルリアが口を挟む。


「アロット様。バルファローネ様は憎まれ口を叩いていますが──」

「わかってる」

「はい。憎たらしいのあの出しゃばった腹だけですからね」

「俺はそんなこと思ってねぇよ」


 相変わらず主に対して失礼なメイドに、アロットも思わず溜め息を吐いた。

 バルファローネが憎まれ口を叩くのは魔導師としてのメンツがあるからだろう。

 魔導師が倒せなかったものを騎士が倒してしまった事実。魔導師団の副師団長であるバルファローネは素直に喜べないところがあるんだろう。

 と、アロットは考えたが……。


「バルファローネ様は『報告とか後でいいから先に身体を休めて来い』と、仰りたかったようです」

「……そうなのか」


 バルファローネは否定せずにシルリアを睨みつけ、コホン。と、喉を鳴らした。

 アロットも傷は既に治癒術で治しているので気遣いはいらない。それよりもいち早く報告を済ませて頭の中を落ち着かせたかった。


 しかし、ここからの話は出来ればバルファローネ──魔導師団の中でも副師団長以上の階級の人間にのみ話したいことでもある。

 アロットは一先ず話を変えることにした。


「マルタの腕は治りそうですか」

「大丈夫だろう。吾輩からすれば大したことはない傷だ」


 その言葉にアロットは心の中で『化け物め』と呟いた。

 アロットには千切れた腕をくっつけられる程の治癒術は使えない。

 自分も同じ魔術が使えるからこそハイレベルな魔術を理解出来ない。

 それは未だ絶対的な魔術の上達方法というものが発見されていない魔術の世界ではあるあるだった。


「フェリシア」

「はい」

「マルタの様子を見てきてくれるか?」

「マルタさんの?」

「だいぶ弱ってたからな。バルファローネ副師団長が腕をくっつけられるって言ってるから、それを教えて安心させてやればいい」

「いいんですか? 私も話を聞いてなくて」

「人を救うのが騎士の役目だろ?」


 アロットの言葉にフェリシアはなんだか言いくるめられてるような気がしたが、フェリシアもマルタのことを気にかけてはいたので承諾する。


「なんだかアロット君、人間らしくなりましたね」

「俺をなんだと思ってたんだ」

「もっと他人には興味のない感じだった気がしましたから」

「そんなことはない」

「でしたら、私がフェリシア様をマルタ様がいらっしゃる部屋まで案内しましょう」


 最後に「私もいない方がいいでしょうから」と、まるでアロットの考えを見透かしたような言葉を残した。


「いや、あんたはここにいなくていいのか?」

「はい。そもそも私は魔導師ではないので」

「なんだって?」


 アロットは目を丸くしてバルファローネの方に視線を送った。

 副師団長のバルファローネに仕えているのだから、シルリア自身も魔導師だと当たり前に思っていた。


「此奴は昔から吾輩の家に仕えている家の者だ」

「そして、その中でも性格、顔、体つきが最も秀でている超絶美少女の私が従者として選ばれたので──」

「通信魔術が使えるからだ。アルテ一等魔導師との定期連絡はこの女が受けている」

「なるほど」


 淡々としたバルファローネの口調と、アロットのツッコミを放置した対応にシルリアは不服そうに目を細めた。


「行きましょうフェリシア様」

「えっ、え? わ、わかりました」


 フェリシアは困惑しながらもシルリアに背中を押されて部屋を出ることにする。


「フェリシア様、後でサイン貰ってもいいですか」

「へ? サインですか? か、構いませんけど」

「ありがとうございます。家宝にします」

「家宝……ですか……?」


 奇妙な会話にアロットはフェリシアが心配になるが、もう面倒くさくなりさっさと出ていって欲しかった。

 ぱたり。と、部屋の扉が閉まる。

 アロットは一つ息を吐いてバルファローネに向き直った。

 バルファローネは頬杖を付いていアロットと目を合わせる。

 

「それで、話はなんだ?」

「白き異形について。……これは俺の仮説に過ぎないんですが」


 アロットは自分が白き異形について立てた仮説をバルファローネに説明した。


 魔力障壁を破られた時の感覚。

 リゲル、マルタ、アロットの魔術に対しての抵抗性。

 アロットの拘束術が急に無効化された現象。


「ふん、魔力への耐性か……。あまりにも突拍子のない話だな」

「魔術を無効化する。そんなモンスターが出たとなったら間違いなく騒ぎになります」

「ああ、そうだろうな」


 アロットの説明を聞いてバルファローネは背もたれに寄りかかり、眉を曲げながら自身の髭を撫でた。


「それと、もう一つ」

「まだあるのか」

「前回の騎士について」


 髭を撫でていたバルファローネの手が止まる。


「前回の巡礼の騎士について教えて貰えると」

「何が知りたい?」

「なるべく全てを」

「……全てか。正直な話をすると吾輩もよくわかっていないぞ」

「それでも構いません」


 バルファローネの言う『よくわかっていない』という言葉は、自分程度の魔導師では真実を教えられないということなのかはアロットにはわからない。

 それでも聞けることなら全てを聞いておきたかった。


「雪のように白い長い髪と透き通った肌をしていた。前にも言ったが踊るような剣を見せてくれた」


 バルファローネは思い出すように天井を見上げながら話を続ける。


「前回の巡礼の旅は平和なものでな。ローインクレーでも今回のような問題も起きなかった。あの女の剣は所詮見世物に過ぎないものだったが、見世物と言うにはその剣はあまりに洗練されていた」


 アロットは何も言わず、バルファローネの話を聞いていた。

 バルファローネは立ち上がると、窓の外を眺めながら話を続ける。


「……ここからは一部の人間にしか言っていないことだ」


 バルファローネはアロットに向き直る。


「前回の巡礼の騎士は魔力を持っていた」

「なっ!?」


 アロットの目が驚愕に見開かれる。

 巡礼の騎士の文化は魔力を持たない者を騎士として仕立て上げるはずだ。


「だが、その魔力はほんの僅かなものだ。吾輩以外の魔導師には感じ取れない程のな」

「けど、それが──」


 なんだというのだ。

 魔力を持っていない方がおかしい。やはり騎士といえど魔力を持っていたという、ある意味当たり前の真実。


 確かに、『魔力のない者』ではなく『魔力の低い者』が騎士に選ばれるとしたら、成長の遅れた子供達が犠牲として選ばれる確率が高くなるかもしれない。

 秘匿するべきことかもしれない。が、そこまで危機感の高いものなのだろうか。

 そう思ったアロットにバルファローネは更なる真実を告げる


「今回の騎士──フェリシアには魔力を全く感じない」

「…………全く?」

「そうだ。断言出来る。フェリシアに魔力はない」


 バルファローネの力強い言葉にアロットは少し気圧される。


「バルファローネ家の先代、我輩の父は三人の巡礼の騎士に会った。そして、巡礼の騎士は次第に魔力が少なくなっていると言っていた」

「じゃあ、最初は魔力を持った普通の人間が騎士だった可能性が」

「どうだろうな。先代が会った騎士も、どれも他の人間にはわからないほどの少ない魔力で会ったことは変わらなかったそうだ」


 そもそも……と、バルファローネは苛ついた顔をした。


「この大陸の歴史は不自然なところが多い。最初の騎士がどうだったのかがわからないなどと……まったくもってふざけた話だ」


 舌打ちをしてバルファローネは部屋の中にある本棚を睨みつけた。


「『空白の章』……ですか」


 この大陸の歴史にはおよそ四百年間の間の不自然な空白がある。

 様々な文献を漁っても二百年前を境に歴史が一度途切れ、そこから四百年程の空白を挟む。

 二百年前~六百年前の記録が不自然なほど抜けており、それ以前の記録は少しずつ見つかっている。


 その記録の抜けが異様に大きい時代を『空白の章』と人々は呼んでいた。

 バルファローネは自らを落ち着かせるように葉巻に火をつける。

 甘ったるい煙がアロットの鼻を擽った。


「今の時代に魔力を持たない騎士が現れたこと、魔力に耐性を持つモンスターが現れたこと。これらを全く関係ないとは言えないかもしれんな」


 魔力を全くないフェリシア。そして、魔力に対する耐性を持った白き異形。

 何か繋がりがあるように見えてくるが、その繋がりを否定したい気持ちしかアロットにはなかった。

 まだ十二歳の可憐な少女と、凶悪なモンスターを重ねることなど出来なかった。

 

「バルファローネ副師団長。もう一つだけいいですか」

「なんだ?」

「────…………前回の騎士の最後は」


 冷静さを保ちながらアロットは他の質問をする。

 本当に聞きたい事は別にあったがあまりにも『あり得な過ぎる』ので別の質問に変えた。

 バルファローネは一つ煙を吐いた。


「巡礼の旅の終着点。霊峰で命を落としたという話は聞いている」


 この巡礼の旅の真実を知らないバルファローネは歯を食いしばった。

 歴史ある魔術名家のバルファローネが知らないのなら誰が知っているのだろうか。

 誰も真実を知らずに、この英雄計画はただ文化として繰り返されているのだとしたら。死ぬことが決まっているのだとしたら……。

 この旅はいったい何の為にあるのか。


「バルファローネ副師団長」

「まだなにかあるか?」

「……とりあえず煙いんで窓開けてくれません?」

「む、すまないな……」


 アロットに言われてバルファローネは窓を開けた。

 普段はシルリアにやらせているんだろう。大きな窓を開けるのに少しもたついていた。


(いや、普通に謝ったなこの人)


 重い空気を誤魔化す為に言ってみただけだが、素直に引き受けてくれる。

 おそらくバルファローネの素の部分なのだろう。

 副師団長が一般魔導師の指示に従うなど前代未聞だ。

 その光景にアロットは気が抜けてしまった。


「一先ず、俺からは以上です。ありがとうございますバルファローネ副師団長」


 アロットは深々と頭を下げバルファローネに礼を言う。

 要件は済んだので帰ろうとしたところで、その背中を呼び止められた。


「待てアロット。吾輩の質問にも答えろ」

「なんですか?」

「貴様は魔王(マグナギウス)に会ったことがあるはずだ」

「…………確かに、随行魔導師になる時に会いましたね」


 魔術称号の頂点──魔王(マグナギウス)

 その時代に一人であることが決められており、現代の魔王(マグナギウス)は一目の付かない荒野の果ての工房で魔術の研究をしている。

 アロットは随行魔導師になる際に一度会っていた。

 全ての魔術を知る魔王(マグナギウス)から随行魔導師として必要な魔術を学ぶ。

 それが習わしだから。


「吾輩は会ったことがない。どういう奴だった?」

「どういう……」


 アロットは記憶をたどるように見上げた。


「普通な感じで」

「なんだそれは」

「あんまり覚えてなくて。あの時は随行魔導師になれたらよかったんで」

「……貴様は何故、随行魔導師になりたかったのだ」

「金の為──……いや、バルファローネ副師団長には正直に言いますよ」


 アロットはバルファローネに向き直ってまっすぐに伝える。


「最初は本当に金の為でしたよ。俺は攻撃魔術が使えないんで、魔導師としては大成しないのがわかったんで」

「今は違うのか?」

「今は────」


 アロットは胸に手を当て、魔導師団式の敬礼を取って答えた。


「フェリシアを死なせたくないからです」


 嘘偽りのない答えをまっすぐに言い切る。


「あいつに、普通の女の子の生活をして欲しい。そう思ったからです」


 この旅が終われば、生きて帰ってこられたのなら、たった十二歳の子供が騎士なんて重荷を背負わずに生きていけると。

 アロットはそう信じている。

 魔力のないフェリシアには生きづらい世界だとしても、その世界を旅して生き方を見つけられるなら。

 この旅に意味があるはずだから……。


「そうか」


 力の宿る瞳にバルファローネは少し安堵したような顔を見せた。


「ならば貴様たちは東に向かうといい」

「東?」

「貴様も聞いたことがあるはずだ。大陸の東で遺跡が発見されたことを」


 それはガレルが言っていた急成長している街のことだ。

 未知の発見に多くの研究者、考古学者が集まり発展している。


「もしかしたら、空白の章について何かわかるかもしれない」

「俺みたいな一般魔導師が遺跡の中に入れるとは思いませんが」

「問題ない。随行魔導師なら特等魔導師と階級は同じだ」


 あくまで仮の階級なので納得していないところがあるのだが、副師団長が大丈夫だというのならアロットは信じるしかない。


「了解です」


 あまり随行魔導師の……特等相当官という肩書には頼りたくないアロットは、少し不服そうにしつつも承諾すると部屋を後にした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ