第12話 夜が明けて
「それで、話ってのはなんだよ」
昨日酒盛りをしていた酒場で朝食を取っていたアロットとフェリシアのところにガレルが顔を出してきた。
朝食はモンスターの肉と野菜の煮込まれたスープと固いパンで、フェリシアはスープをおかわりしているところだった。
普段食べている飼い慣らされた獣の肉と違って、野生を生き抜いたモンスター肉は硬い。
その肉をろくに資格を持たない魔術使いが、適当に調合した調味料もどきを使ってグツグツになるまで煮込んだ粗末な味付けのスープ。
その粗末な味付けがフェリシアはわりと好きだった。
「本題に入る前に一つ聞いていいか」
「あぁ?」
「冒険者が少ないように見えるのは何故だ?」
「あぁ??」
昨日から気になっていたことだ。
人の多い四大都市の中でも、ローインクレーは特に冒険者が多い。
だが、今は店の中にも外にも冒険者の姿はまばらだった。
アロットの問いに苛立った顔をするが、すぐに舌打ちをして空いた席に座った。
威圧感を出すようにわざとらしく音を立てて座ったが、フェリシアは気にせず食事を続け、アロットは頬杖をついたまま二人は動じなかった。
ガレルは頭を掻いてため息を一つ吐いた。
「他所もんのお前らに苛ついてもしゃーねぇか」
「魔導師による狩場の規制か」
「なんだよ知ってんじゃねーか。ったく、モンスター狩れなきゃ金にならねぇんだよ。てめぇら魔導師がもたもたしている間にあほらしくなって殆ど他の街に行ったぞ」
「モンスターが出たのも規制が掛ったのも最近の話だろ?」
「オレらが魔導師のこと信じて大人しくしてると思うか? ちょうど大陸の東に新しい街があったからな。暇つぶしがてらそっちに向かった奴も何人かいる」
ここ数年で急成長している街の話はアロットも聞いたことがある。
腕を組んで、面白くなさそうに歯噛みしながらガレルが言う。
その態度は魔導師に対してだけではなく、すぐにこの街を離れた冒険者たちにも向けてるようだった。
「まあいいや、本題に入る。その規制の原因になっている白いモンスターについて、知っていることがあったら教えてくれ」
「はあ? おいおい、魔導師ってのは自分勝手だなァ? お前らが森に入れないようにしてくれたから情報なんてねぇよ」
「あんたらが魔導師のこと信じて大人しくしてるとは思わないな」
魔導師に対して嫌味を言ったつもりが、あっさりと言い返されガレルの眉がピクリと動いた。
そこでアロットはちらりとフェリシアが食べているスープに目を配る。
小さく刻まれた肉の塊は、アロットもさっきまで食べていたものだ。
「モンスターの肉を使った料理が出てくる時点で、全く森に入ってないわけじゃないんだろ?」
アロットは冷静に分析し、再びガレルに視線を戻す。
「それに魔導師が倒せなかったモンスターを冒険者が倒したとなれば、あんたらはもっと魔導師相手に強気に出れるようになる。そんなチャンスを見逃すわけがない」
「知ったような口だな」
「あんたが顔に出やすいだけだ」
核心を突かれたのか、腹立たしいように歯を食いしばりながら笑みを見せた。
冒険者が荒くれ者の集まりだと言っても、皆がガレルのように強い人間ではない。
危険なモンスターがうろついていると知れば、そこから離れて別のところに狩場を移すのが殆どだ。
「今日はよく喋りますね」
スープを飲み干して食べ終えたフェリシアがアロットの顔を見て言う。
「なにか文句あるか?」
「へ? いえ、何も。珍しいなって……」
「俺はそんなに普段から喋ってないか?」
「自覚ないんですか?」
「…………いや、ある。多少は……」
フェリシアに本気で驚いた顔をされて、アロットも申し訳ない気持ちが沸いてくる。
静かに笑みを浮かべているが、アロットは昨夜フェリシアに説教のようなことをしてしまったので、少し後ろめたさのようなもの感じてしまっていた。
「そういや、名前を聞いてなかったな」
ガレルは少し落ち着いた声でそう言うと、アロットとフェリシアは「確かに……」と、お互いに名乗っていないことを思い出した。
「私はフェリシア・ブレイクハートです」
「アロット・クランツ」
慌てて名乗るフェリシアと、気だるそうに名乗るアロットは対照的だった。
そんな二人を見てガレルは気づく。
「お嬢ちゃん、巡礼の騎士か」
「はい」
「へっ、騎士サマがモンスターを倒してくれるのかよ」
ガレルは馬鹿にするように笑いながら言ったが──
「はい」
と、まっすぐに透き通った蒼い瞳を向けられて呆気にとられる。
「その為に、あんたには森の案内とそのモンスターについての情報をできる限り教えてほしい」
「ちっ、わかったよ」
ふん。と鼻を鳴らした。
もう少しグチグチと言われると思っていたのでアロットは目を丸くした。
「どの道オレたちも手を焼いてたところだ。魔導師の頼みなら絶対に断ってるが──」
ガレルは立ち上がると二人を見下ろした。
「まあ、騎士の頼みなら聞いてやらんでもないな」
「ありがとうございます」
フェリシアが礼を言う横で、アロットは少し考え事をしていた。
(頼んでたのはずっと魔導師だったよな?)
自分に言い訳をしてやる気出した人に水を差すわけにはいかないので、アロットは決してそんなことは言わないようにした。




