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神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第6章 西方魔術都市グランクレイグ
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第1話 帰還

 高い建造物に囲まれたグランクレイグの街並み。

 高壁の門を突き抜けるメインストリートは獣車が二台程余裕を持って通れる広さがあるものの、両脇から高い建物が見下ろすことで圧迫感がある。

 他の街を見てきたからこそ、生まれ育ったグランクレイグの景色も違って見えた。


「改めて見るとすごいですね」

「なんだかんだ、グランクレイグは優秀な魔術使いの集まる街だからな」


 グランクレイグを創設した偉大なる『大地の魔術師』達。

 グランクレイグの魔術使いはその末裔とも呼ばれ、この大陸で最も優れた魔術使いが集まるとされている。


「それで、結局アルテさん達も来たんすね」


 振り返るとアルテとイオナが手を繋いでいた。

 ローインクレーで別れるはずが二人は結局グランクレイグまで同行することになった。


「そうね。イオナの年齢を考えると、今からでも魔術学院に通うべきだと思うもの」

「バルファローネ副師団長には話をしたんですか?」

「ええ、あの方も優秀な魔術使いは放っておかないのよ」

「それは……イオナの話もしたんですよね?」

「もちろん」


 だとしたら、これ以上アロットが掘り返すこともない。

 イオナはまだ十二歳ということを考えると、今から魔術学院に通うのも妥当な判断と言える。


「イオナ? 大丈夫か?」

「お、おっきい……」


 イオナはイオナでグランクレイグの建築物に圧倒されていた。

 首が折れそうな程に見上げ、ひっくり返るのではないかとフラフラとしているの背中をアルテが支える。


「その前にあの人(・・・)といろいろ話をしないといけないけれど、アロット達の方が先でしょうね」

「……そうですね」

「アロット君?」

 

 深刻な顔で答えるアロットを見てフェリシアが首を傾げた。

 アロットがアルテに話した仮説はフェリシアには言っていない。

 ……と、その時だった。


「騎士様!?」


 通行人の一人がフェリシアを見て声を上げた。

 その一言を皮切りに周囲がざわめきだす。


「え、嘘!? 騎士様が帰ってきたわ!」

「まじかよ!! ついに巡礼の旅を成し遂げた騎士が現れたのか!?」

「ほ、本当か……?」


 多くの人々が驚愕に声を上げるが、その中には困惑した表情をする人も少なくない。

 騎士が生きて帰ってくる現実を想像出来たものなどいなかった。


「俺は信じてたぞ! 騎士がこんな旅で死ぬかよ!」


 旅の真実を知らないような若い男が拳を振り上げる。


「どういうことだ……? この旅は一体……?」


 旅の真実を知るものは、今までの愚行に疑問を抱く。

 多くの人々がそれぞれ勘違いをしていた。


「ま、待ってください皆さん! 私はまだ旅を終えていません。霊峰にはこれから向かうんです!」

「……え?」


 フェリシアの言葉に一瞬の静寂が生まれた。

 それでも……


「別にもういいんじゃないか?」


 若い男が呟いた。

 静寂を破った声に視線を向けると、腕を組んで佇む二人の男がいた。


(あいつらは……)


 あの男達に見覚えがある。

 旅立ちの日に上から見下ろして『くだらない英雄計画』と馬鹿にしていた男達だ。


「既に騎士サマは──フェリシア様は街を救った英雄だ」

「しかも未開の地で単騎でドラゴンを討伐したという話だ」


 したり顔で二人の男は語り出す。


「いや、単騎じゃないですからね!?」

「というか、なんで知ってるんだよ」


 ヴェルナトの地下遺跡はラディアメルクの魔導師が管轄している。

 グランクレイグまで詳細な情報はまだ送られてこないはずだ。

 それこそ一般人にまで情報が届くことはない。


(なんか違うってことは変な噂が飛び交ってるのかもしれないな)


 それでも、フェリシアの功績が称えられるのならば大した問題はない。

 何故か自分のことのようにしたり顔をする男達は少しムカつくが。


「今更フェリシア様が霊峰を目指す理由はない。今ここに英雄として帰還された」

「い、いえ……霊峰には向かいます。それが騎士の使命ですから」

「……!!」


 フェリシアの言葉に男達は腕を組んで黙り込んだ。


「今までの騎士が成し遂げられなかったことを成し遂げます。今までの騎士の……彼女達の無念を背負います」


 拳を握りしめ、蒼い瞳に光が宿る。

 男達は納得したように深く頷いた。


「ふ、フェリシア様の剣に敵うものなどいない。グランクレイグで英雄が誕生したんだ」

「すみません。剣は……折れました」

「フェリシア様なら間違いなく霊峰を踏破し帰ってくるさ。例えどんなに強大なモンスターがいてもな」

「話聞けよ」


 男達は好き勝手言いながら、何故か目尻に涙を浮かべている。

 酒でも飲んでいるのかと疑いたくなるぐらいテンションがおかしい。

 すると、周囲の人間がまたざわめきだした。

 人混みが自然と道の端に寄っていく。ゆっくりと一人の魔導師が近づいてきた。


「帰ってくるなら手紙の一つでもくれてもいいんじゃないかな?」

「アルヴェイン総師団長。お久しぶりです」

「……ユリウスでいいんだけどなぁ」

「勘弁してください」


 銀の髪に青い瞳、金糸の装飾の施された魔導師団服を着た魔導師団の総師団長──ユリウス・アルヴェインは、アロットの反応に苦笑いを示した。 

 アロットもこんな目立つ場所で馴れ馴れしく呼べないので丁重にお断りする。


「ユリウス様! お久しぶりです!」

「おかえりフェリシア。元気そうだね」

「はい。でも、剣が折れました」

「えっ」


 フェリシアが折れた剣をユリウスに見せると、酷くショックを受けた顔をする。

 大陸最高峰の称号""銀星将(シルキオン)""の魔導師が三日掛けて造った剣は、綺麗に真っ二つに折れてしまっている。


「僕も真剣に造ったつもりなんだけど……な。それだけ過酷な旅だということかい」

「白き異形の討伐を押し付けておいて何を言ってるすか」

「そんなつもりはないからね!? 報告を受けた限りでは君達が一番適任だと思ったんだよ!」

「まあ、結果論としてはそれはそうでしたけどね。ローインクレーの魔導師的にはどう思っているのか聞いて見たらどうです?」

「何を──」


 と、ユリウスの目がアルテを捉えた。


「久しぶりですね。ユリウス・アルヴェイン総師団長殿?」

「アルテ一等魔導師……何故ここに?」


 予想外の来客に歯切れが悪くなる。

 アルテはニコニコと笑みを浮かべながらイオナを抱きしめている。

 どうやらさっきまでのひと騒ぎでイオナは怖くなって固まってしまったようだ。


「私達のことは後でいいわ。今はアロット達の方を優先してくれないかしら」

「……その子は?」

「それも後、今はアロットの話を聞いてあげて」

「わかった」


 青銀の瞳が静かにアロットに向いた。


「聞かせてもらうよ。君達が何を見て、何を知ったかを」

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