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神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第5章 隠れ家
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エピローグ

 深い森の中を子竜の姿になったロロが先導し、その後ろにアロット達が続いて歩いていた。

 刀身が半分になった剣を片手に、フェリシアは周囲を警戒しながらアロットの後ろを歩いていた。

 隣を歩くイオナは落ち着いた様子でゆっくりと歩いている。


「ん……? 燃やした本、あの中にはラディアメルクの古書も…………」


 アロットが何かに気づいてブツブツと独り言を呟いているのが聞こえる。

 難しい話はフェリシアにはわからないので聞こえなかったことにした。


「イオナ、疲れたら言ってくださいね」

「うん、だいじょうぶ。ありがとう」


 前を歩くアロットが頭を掻いてため息を漏らした。

 何か考え事をして歩いているせいで、完全にイオナの歩くペースを考えられていない。

 道に迷わないようにロロに案内させているおかげで、この隊列はなんとか離れずに済んでいる。


「だいじょうぶ。もんすたー、いないよ」

「そ、そうですか? けれど、もう少し集中して歩いてほしいですけどね」

「あろっと。むずかしいこと、かんがえてる」

「そうですね。ああいう時は本当に周りが見えていないんで……」


 思わずため息が出る。

 考え事をしている時は大体置いてけぼりにされるので、フェリシアはほんの少し苛立ちを覚えた。

 赤いスライム討伐の時にイオナの探知能力の高さは知っている。

 モンスターはいないという言葉を信じて、フェリシアは少し肩の力を抜いた。


「ふぇりしあ」

「なんですか?」

「まち、ついたら……おわかれ?」


 寂しそうな表情で紫の瞳が見つめてくる。

 イオナの不安が手に取るようにわかる。

 フェリシアとしても同い年の友人ということもあって、イオナともっと一緒に居たかった。


「少しの間だけ……です。旅が終わったら会いに行きますから」

「うん」

「それに、魔導師の皆さんは優しいですから。イオナも大丈夫ですよ」

「うん。がんばる」


 きっとイオナに寄り添ってくれる人はいる。

 幼い時の自分の時と同じように……。

 思い出して、少し昔話をしたくなった。


「私、生まれた時から魔力がないんです」

「まりょく、ない? え?」

「あはは、言ってませんでしたね。だから魔術も使えないんです」


 困ったようにフェリシアが笑う。

 初めて聞いた話にイオナは目を丸くした。

 魔力を持たないのは巡礼の騎士に共通した話だが、イオナはそもそも巡礼の騎士というものを知らない。


「生まれた時から……物心ついた時から、私は一人でした」


 魔力を持たないからというだけでなく、身体の成長が周りの子供よりも早いせいか。

 フェリシアは浮いた存在だった。


「親もいなくて──あ、物心ついた時には孤児院にいたんです。同じくらいの子もいたんですけど、誰も私に近付こうとしませんでした。近づきに行こうとしても、避けられてしまうんです」

「ひどい……」

「しょうがないですよ。私の相手をするだけ無駄なんですから」


 人々が魔術で生活をする世界で生まれた、魔力すら持たない存在。

 周囲の人間は極力関わらないようにしていた。それがフェリシアの運命だったから。


「ある日、巡礼の騎士になる使命を教えられました。魔力を持たない者に与えられる使命、世界を旅して最後に北の霊峰に向かう旅を」

「なんで?」

「え?」

「なんで、そんなこと、するの?」

「巡礼の旅ですか?」


 当然の疑問だ。

 ただでさえ魔力を持たず、まともに生活をすることも出来ない子供に旅をさせる。

 まともに考えれば理解に苦しむ文化だが、フェリシアは少しずつ気づいていた。


(……魔力を持たない異端を間引く為、だから人々は私に関わらなかった。情が移ってしまわないように)


 わかっている。

 自分のような異端が追い出されるのは、フェリシアはわかっていた。

 せめて名誉ある死を与えようとする残酷な優しさなのだと……わかっていた。


「グランクレイグは誇り高い魔術使いが多いですからね。世界を旅して、魔力のない自分に合う場所を見つける旅ですよ」


 イオナには真実を言わない。

 そんな旅の真実は、既にフェリシアが無意味なものとしたから。


「色んな場所を訪れて、人を助けて、皆さんに触れて、この世界の楽しさを知るんです」


 騎士の──フェリシアの力は証明した。

 自分が死ぬ必要などないと、言ってくれる人達に出会った。

 もうこの旅は死へと向かう旅ではない。


「きっとイオナのことも皆さんが歓迎してくれます。こんな私でも受け入れられたんですから」

「……うん」

「旅が終わったら、また一緒に遊びましょう」

「うんっ」


 旅が終わったら……。

 フェリシアは自分が死ぬとは思っていない。だが……。

 前を歩く随行魔導師の背中を見て息を飲む。


(アロット君……何か隠していますよね?)


 確証はない。

 それでも、明らかに今までとは違う雰囲気のあるアロットの背中を、フェリシアは警戒するように睨んでいた。


「……フェリシア?」

「え? なんですか?」


 視線を察してアロットが振り返った。


「いや、なんでそんなに睨まれてんだって」

「アロット君が集中して歩いてないからですよ」

「そんなことはない」


 そう言いながらも目を逸らしたアロットの頭の上にロロが留まる。


「ほら、ロロもそう言ってます」

「……悪かったよ」

「何をそんなに考えているのかはわかりませんけど、それは私には言えないことなんですか?」


 改めてフェリシアが問うと、アロットは再び思いつめた表情で考え込んだ。

 今までも人の話を聞かずに考え込むことはあったが、やはり今回はその顔に余裕がなく見える。

 フェリシアは諦めて一つ息を吐いた。


「アロット君もですからね?」

「何がだ?」

「旅が終わったら、イオナに会いに来るんですよ」

「ああ、わかってるよ」

「本当ですか?」


 本当はもっと違うことを問い詰めたいのに、アロットの顔を見たフェリシアは話題を逸らした。

 まだ、アロット自身が答えに迷っている。


「あろっと。また、あえる?」

「当たり前だろ」

「ほんと?」

「……フェリシアがうつったか?」

「なんです?」

「いや、なにも?」


 フェリシアだけでなく、イオナにまで疑いの目を向けられアロットはたじろぐ。

 ロロはアロットの頭を甘噛みしているが、甘んじて受け入れていた。


「アロット君は私の先生でもあるんです。イオナもいっぱい色んなことを教えてもらいましょう!」

「せんせい……!」

「待て待て待て、一応言っておくがイオナの方が魔術のレベルは高いからな!?」

「せんせい……!!」


 目を輝かせるイオナの顔を見てアロットは言葉を失った。


「もう好きに呼んでくれ……」


 諦めて頭を押さえた。

 二人の少女が楽しそうに笑う姿を見て、アロットは何も言えなかった。

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