視える者、視られる者
その戦いは一方的になるとこの場にいるほとんどの者が思っていた。
綺世黒波は何もできずに蒼想にいいようにされると。
戦いが終わった。
その結果…。
会議室は静寂に包まれていた。
誰もが固唾を飲み戦いの結末を見届けた。
そして、
床に拘束され倒れ伏している者。
その者を睥睨するように立っている者。
両者の間には実力差があった。
「おい、マジかよ」
「本当にアイツなんなの?」
「この結果は想像してませんでした」
豪は絶句し、楓はさらに綺世黒波は得体が知れないと呟き、舞華は他の人の気持ちを代弁するように口にする。
蒼想が倒れ伏している。
その顔は屈辱に染まっていた。
綺世黒波が無傷で立っている。
そして感情が感じられない表情で蒼想を睥睨している。
「そこまでにいたしましょうか」
結末を見届け、満足した未莉亜が微笑みながら言い、二人に近づく。
「そうだな」
黒波が未莉亜に同意してその場から離れる。
時間は少し遡る。
「今からお前を引き摺り出してやる。いいな?」
「……」
相手は答えない。
それならそれでいい。
「お前は今、悦に浸れているつもりだろうな」
一歩前に出る。
「そんな小さな事で悦を感じるなんて、きっと素晴らしい人生だったんだろうな」
俺をどこからか観察しているであろう相手を皮肉る。
「……」
相手は答えない、いや答えられないのか。
異能の仕様か?
もしそうだと仮定する。
考えられることがあるとすれば……。
「お前は自分自身が優れていると思っているんだろうな」
相手の集中を乱す目的で煽る。煽りが効いているかはすぐ分かる。
「……」
俺は歩き出そうとした瞬間。
足元の床に銃弾が撃ち込まれる。
「威嚇のつもりか」
俺は誰にも聞こえない程度で呟く。
「悪いが俺に威嚇は通じない。こんな分かりやすいガキが考えたようなものは特にな」
俺は一歩前に出る。
目を瞑る。
視界をシャットアウトして害意に対しての感覚を研ぎ澄ませる。
害意の塊が近づいてくる。
俺は豪との戦いで異能を理解した。
その異能は全てを壊すためにあった。
無意識にそれを理解した。
異能を右手に集中して纏わせる。
今回は異能にのまれず、俺の意思で異能を使う。
右手が黒い靄に包まれる。
害意の塊の軌道上にその右手を沿わせる。
銃弾は右手を貫通すると思われた。
しかし銃弾は右手の靄に触れた瞬間に消え去った。まるでその存在が最初から無かったかのように。
また銃弾が近づいてくる。
その銃弾が次に狙う場所は俺の左肩。
今の俺には発射された銃弾がどこを狙っているのか線上に視えている。その軌道を辿れば銃弾の発砲位置すらも分かる。
銃弾の軌道に右手を置く。
右手の靄に触れた銃弾がまたも消える。
軌道が分かっていればどうとでもなる。
「何度やっても無駄だ」
後ろから今までの四発よりも害意が強い、それはもう殺意と言っていいほどの気配を感じる。
しかも後ろか。
防ぎづらいところを狙ってきたな。
銃弾が後ろに迫る。
今振り返っても間に合わない距離だ。
「僕の勝ちだ。黙って死ね」
声が聞こえた。
その声には嘲笑が含まれていた。
勝ちを確信したのだろう。
そして銃弾が俺の背中を捉える。
血飛沫が上がる…はずだった。
その銃弾はそれの皮膚、服にすら傷をつけることはなかった。
銃弾が消えていたのだ。
「なっ…なぜだ?」
想は何が起きたのか分からないと言った様子だ。
「そこか」
俺は目を開け声が聞こえた瞬間にその方向に走っていた。
「!」
驚いた想が銃口を俺に向ける。
そしてもう一度異能を使おうとする。
「さっきも言っただろ、無駄だ。」
想が異能を使うよりも先に俺は異能を使う。
黒い靄が鎖になり想を拘束する。
拘束された想がその場に倒れる。
「お前、わざと背後を晒していたな!」
「そうだ、お前の異能は厄介だからな早めに決着をつけるために背後を狙わせた。ただそれだけだ」
「チッ」
想が悔しそうに舌打ちする。
「お前は俺の思った通りの人間だったな」
自分の勝ちを確信した瞬間、人は油断し言動が疎かになる。
相手が自身の嫌っている人間なら尚更だ。
だから俺は想を煽り続けた。
そして勝ちを確信させ声を出させた。
想の異能は俺が思っていた通りだった。
声を発すると異能が解けると。
だから俺が煽っても何も返せず、苛立ちだけを募らせた。
「どうする、まだ続けるか?」
倒れている想に問いかける。
「あんまり、僕を舐めるな」
想が俺を睨みながら怨みがましく言う。
「そこまでにいたしましょうか」
未莉亜が微笑みながら歩いてくる。
これ以上俺の異能を探られるのは避けるべきだ。
「そうだな」
俺は言いながら想の拘束を解き自分の席に戻った。
俺が自分の席に座ったのを皮切りに興奮冷めやらぬままの他のメンバーも自分の席に戻る。
「それでは想さん、自己紹介をお願いしますね」
未莉亜が想に促す。
「……」
しかし想はそっぽを向き何も言わない。
「想さん、いかが致しましたか?拗ねているのですか?まぁ、それも仕方ありませんね。絶対の自信を持って黒波さんを殺そうとしていましたから。しかし、結果は想さんは何もできずに黒波さんの手のひらの上で踊っただけなのですからね」
傷口を広げる未莉亜はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「いつか絶対にお前を殺す!」
想が未莉亜に向かって怒りを露わにする。
「あらあら、それは楽しみですね」
怒りを向けられた未莉亜はさらに楽しそうになる。
しかしその目は何も笑ってはいない。哀れな者を見るような目だった。
「すみません、お見苦しいものをお見せしました。彼の名前は蒼想さんです」
未莉亜は想から興味をなくして俺に謝罪と想の代わりに紹介する。
「想にはあんまり歓迎されて無いようだな」
「まぁまぁ、表面上だけでも仲良くして差し上げてください」
「分かった。努力はする」
「お前ら僕を馬鹿にするのも大概にしろよ!」
俺と未莉亜の会話が気に入らなかったのか想が文句を言ってくる。
馬鹿にしたつもりがないんだが。
どうやらさらに嫌われたようだ。
今後の目的のためにも早めに処理したほうがいいか?
「黒波さんも私と同じく嫌われてしまいましたね。これで黒波さんは私と同類です」
未莉亜が冗談混じりに言ってくる。
「みたいだな」
「ふふふ」
俺の返答に未莉亜は嬉しそうに笑った。
その笑顔は今までの笑顔とは違って見えた。
「逢さんの自己紹介は不要ですよね?」
「え?」
未莉亜の発言に逢は驚いた声をあげる。
「そうだな」
「なんでよー、紹介文考えてたのにー!」
後ろから逢の残念そうな声が聞こえてくる。
「後で聞かせてくれ」
逢を宥めるように言った。
それを聞いた逢は嬉しそうに笑った。
「それでは自己紹介は終わりましたし、この世界について説明しましょうか」
「そうしてくれ」
そして知ることになる。
この世界は一体何なのか。
高層ビルの最上階の一室で男は興奮していた。
「やはり彼は素晴らしいね。僕の想像以上かもしれない。さすが僕が選んだだけはあるね」
椅子に座ったまま机の上で組んでいた脚を伸ばし子供のように興奮を露わにする。
「行儀が悪いですよ、そんな行儀の悪い脚など切り落としてあげます」
男の側に控えていた女性、華奈が言いながらナイフを取り出す。
「怖いよーー」
それにわざとらしく怯えた様子を見せすぐに脚を下ろす。
「……」
華奈は何も言わずにナイフをしまいため息をつく。
「彼のことをそんなに見ていたいならいっそのことあなた自身があの世界に行ったらいいのでは?」
そう、目の前の男は綺世黒波をずっと見ていた。
そして彼が何かをするたびに今のように興奮し、華奈に同意を求めていた。それに対し華奈はすでに嫌気がさしていた。
「それは違うんだよね」
「何が違うんですか?あなたは気持ち悪くなるくらい彼のことが好きなのではないんですか?」
華奈は疑問と同時に皮肉を口にする。
「あはは、彼のことは別に恋愛対象として見てるわけじゃないよ。華奈はBLが好きなのかい?」
華奈の疑問に答え、意地悪をするように皮肉に皮肉で返す。
「脚、斬りますよ」
皮肉を言われた華奈がナイフを取り出し男に向ける。
「ごめんごめん、ごめんって」
男は脚を椅子に乗せて縮こまる。
「って、そんなことはどうでもいいんだよ」
男は無理矢理話題を逸らす。
「次は何をするつもりですか?」
「彼にはもっとあの世界に沈み込んで欲しいからね」
男は椅子から立ち上がり窓際に近づく。
「少し早いけど僕からの試練を与えるよ」
「彼には少し同情しますよ」
「おっ、華奈も彼のことが気になるのかな」
「あなたがそこまで特別視している彼がどんな人物なのか気になっただけです。決してあなたの想像しているような感情はありません」
「あはは、それは残念だよーー」
男は笑いながら大袈裟に泣きの演技をする。
「……」
華奈は汚物を見るような目で男を見る。
「ごめんなさい」
男は華奈の視線が痛くすぐに謝罪を口にする。
「それで試練を与えると言っていましたが、どうせあなたの悪趣味なゲームですよね?」
「悪趣味…、ひどい言われようだね」
「否定しないんですね。自分でも悪趣味だと認めている証拠ですね」
「それはそうだけど、わざわざ口にする必要なくないかな?」
男が華奈に抗議の声を上げる。
「あなたが傷つく様子が見たいので」
そんな悲しくなるような返答をした。
「それも相当悪趣味だと思うけど」
「いいえ。あなたには人権が無いので問題ありません」
「僕、引きこもりになろうかな……」
「あなたが傷つくところを見れなくなるのでダメです」
「……ひどい」
華奈の発言で男はさらに背中を丸めた。
「それでどんなゲームをするんですか?」
男の様子など気にせず華奈は問いかける。
「そ、そうだね。彼の思考を活かせるようなゲームだよ。それはね……」
男は丸めた背中を戻しゲームの内容を説明する。
「やはり悪趣味ですね」
内容を聞いた華奈が正直な感想を口にする。
「でもこれで彼についてより知れるからね」
「それには同意します」
「それじゃ、3日後に初めてもらおうかな」
「今すぐではないんですね」
華奈が3日後という部分に引っかかる。
「だって彼はまだあの世界で起きてまだ一日たってないんだよ。流石にもう少しは必要だと思うからね」
「そうですか、あなたにしては随分と優しいんですね?」
「そうだよ、僕にも一応、人の心はあるからね」
男は胸を張って主張する。
「では私はそのための準備をしますので、これで失礼します」
「よろしくね。って、もういない!」
その言葉は華奈には届かなかった。
華奈は言い終わるよりも先に歩き出し部屋から出て行ってしまったからだ。
「まぁいいか」
男は思考を切り替え窓の外を眺める。
「楽しみだなぁー。君はどんな結果を見せてくれるのかな」




