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魔術仁術  作者: 龍岡
第2章:街の小さな見習い診療所
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Case1:めまい

次の日、私たちは別荘の外に小さな黒板を立てかけた。

『皆さんの健康相談受付ます。アポロニアの回復術師の学生があなたの健康を守りましょう。腰痛でも風邪でも擦り傷でも、なんでも対応いたします。』

こんな文面が書かれていた。

初日ということもあり、場所も人がたくさん通る場所でもないということで、クラテが大通りに出て、呼び込みを行っていた。


暫くするとクラテが一人のハーピィの女性をつかみ飛んできた。。

なんだかふらついている。歩くこともできないようだ。


「大丈夫ですか?」


シシリーが聞くと、女性はぐったりしながら


「少し、横にならせてくれるかしら。」


といった。


1階の客間にあったソファーに彼女を運び、そこで寝かせた。

これは見た感じ強烈なめまいだ。小脳出血とかだとまずいな。

私は思った。


「治療をさせていただきたいと思いますので、お話を伺いたいのですが、大丈夫そうですか?」


私は聞いた。


「ごめんなさい。少しだけ休ませてくださる...?」


彼女は具合が悪そうに言った。


シシリーが診療中の札を別荘の戸の前にかけた。



5分ほどたつと、女性が口を開いた。


「少し良くなったわ。ごめんなさいね。」


「いえいえ大丈夫です。それっではお話を伺いたいのですが、まずはお名前と年齢を教えていただけますか。」


「私はストラ。見てのとおりハーピィでして、新聞配達の仕事をしておりますの。歳は32ですわ。」


「わかりました。先ほどはずいぶんお辛そうでしたが、大丈夫ですか?」


「ええ、たまに強烈なめまいに襲われて、立っていられなくなってしまうの。」


たまに?つまり反復しているのか。


「めまいはよく起こるのですか?」


「そうですわ。空間がぐるぐる回っているような、そんなめまいに襲われますの。先ほどは仕事中に急にめまいがして、倒れていたところをそちらのお嬢さんに連れてきていただいたの。」


クラテはぺこりとお辞儀をした。


「そのめまいの発作が起きたときに、他に何か症状はありますか?」


「そうね。めまいがあるとき、少し夫の声が聞こえづらくなる気がするの。彼がよく看病してくれるのだけれど、その時声が遠くなる気がするわ。」


「そうですか。頭痛などはありますか?」


「いえ、頭は痛くないわ。」


「それはよかったです。」


「夫はめまいでたまに倒れてしまう私をいつも心配していて、私はそれが情けなくって。私も一人前の大人として働きたいのに仕事中でもこんなふうに倒れてしまって。このままじゃ夫にも嫌われてしまいますわ。」


ストラさんは悔しそうに言った。


「あの人は元気に笑っている私が好きと言ってくれたのに、最近はめまいで何度も寝込んでしまうし。これじゃあ全然だめですわね。」


「レピア君、ストラさんを助けてあげられないかな?私の魔法ではどうにもできそうにないよ。」


シシリーがおどおどしていた。


「大丈夫。治せるよ。」


私は言った。


「ストラさん。そんなに思いつめないでください。あなたのご主人もあなたを愛しているから心配してくれるんです。」


私はストラさんに言った。


「今から薬を調合しますので、少々お待ちください。」


そうして私は薬を調合し始めた。

今回の病気は恐らくメニエール病である。

耳の内リンパ、つまり耳の鼓膜のさらに奥にある、蝸牛や半規管のある内耳と呼ばれる部分に水がたまることによってめまいや難聴を引き起こす病気である。

空間が回っいるという発言から、回転性のめまいであるため、中枢神経ではなく、末梢神経に問題があることもわかる。

メニエール病であれば、利尿薬や血行の改善が第一である。

生薬で言うと、当帰芍薬散が使えるだろう。もちろんこの世界には同じ薬草が存在するわけではないが、同様の性質の薬を調合すれば問題はないはず。

薬を調合し、部屋に戻ると、シシリーが濡れたタオルで頭をぬぐっていた。クラテの姿はなかった。


「薬です。お手洗いに行きたくなるかもしれませんが、そうなったら言ってください。めまいが楽になるはずです。」


そう言って白湯と一緒に薬を手渡した。


「ありがとうございます。」


彼女は起き上がり、薬を飲んだ。


「効果が出るまで少し時間がかかります。その間少し休んでいてください。」


そう私が言うと、ふいに扉が開いた。


「ストラ!大丈夫か!」


クラテと一緒にハーピィの男性が入ってきた。


「あなた!見ないで、こんな姿。」


彼女はかけられていた毛布で顔を覆った。


「きっと私、すごくやつれてしまっているわ。」


「ストラさんのご主人でしょうか?」


私が聞くと、


「はい。私はキョウと言います。妻は私の新聞社で配達員として働いているのですが、途中で倒れたと聞いて。妻がお世話になったようで。それで、妻は大丈夫なのですか?」


私はご主人を別の部屋に通した。


「奥様の病気は、耳の中に液体が溜まってしまう病気です。しかし薬を飲ませましたのでよくなるとは思います。この病気は、ストレスや寝不足で悪化してしまう病気です。奥様は自分が倒れてしまうことで、あなたに迷惑をかけて嫌われてしまうのではと気に病んでおりました。もしかすると、そのプレッシャーがこの病気を悪化させてしまったのかもしれません。」


キョウさんはしばらく黙っていたが、ゆっくりとストラさんのもとへ歩いて行った。


「ストラ。顔を見せてくれないか?」


「いやよ。」


「そんなことを言わないでくれ。君が迷惑だなんて思う必要はないんだ。僕は君のことが大好きなんだ。そんな風に弱いところも含めた君すべてが好きなんだ。だから心配しなくていいんだよ。倒れても、僕がきっと支えてあげるから。だから僕のそばにずっと一緒にいてほしいんだ。だから顔を見せてくれないか。ストラ。」


ストラさんはしばらく顔を毛布で覆ったままだった。


「ずるいわ。そんなことを言うなんて...」


震えるストラさんの声が聞こえた。

キョウさんはストラさんを優しく抱きしめた。



しばらく休むとストラさんは元気になった。


「本当にありがとうございました。」


「もしまためまいがひどくなったら来てください。」


ハーピィの夫婦は出ていった。

お金はいらないと言ったが、私たちに銀貨1枚ずつ、計3枚おいていった。

薬草代とそれにほんの少しの私たちへの手間賃といったところだろうか。

ほとんど利益はなかったが、私たちは嬉しかった。

今日から私も半人前ではありますが回復術師として、医師として、人を助けていくのかと思うと、身が引き締まる思いです。


さて、今回も始まりました『教えて!レピア君』

今回はメニエール病についてみていこうと思います。


まず、耳というのは鼓膜よりも外側の外耳、耳小骨の存在する中耳、三半規管や蝸牛のある内耳に分けられます。

蝸牛とは、字のごとく蝸牛の殻のように渦を巻いた構造になっていて、ここで音の波を神経の電気刺激に変換して脳に送ります。

三半規管とは、外側と前・後の三つの半規管からなり、それぞれの方向の回転を感知し平衡感覚を司ります。

これらの構造は二重のトンネル構造になっており、その内部にはそれぞれ内リンパ液と外リンパ液というものが溜まっています。


この内外のリンパ液のバランスが崩れ、内リンパ液が過剰になることでトンネル構造が崩壊し、内外リンパ液が混ざると、感覚細胞の異常が発生し、めまい発作が起こります。


30~50歳に好発する病気で、反復する回転性のめまいや耳鳴り、耳の閉塞感が特徴です。

また、低音域の音が聞き取りづらくなります。ストラさんが言っていた、旦那さんの声が聞き取りづらいというのは、たぶんこのせいだと思われます。


誘因としては疲労やストレスがあるので、無理せずゆっくり休みましょう。

治療としては、まず内リンパ水腫を軽減するために利尿薬が重要です。それ以外にもビタミン剤や自律神経を調整する薬、抗不安薬やステロイドが処方されることもあります。


すぐに治る病気ではありませんが、薬を飲んでしっかりと休養を取り、適度なストレス発散を行っていくことで症状は軽くなります。

ストラさんも今後は旦那さんと楽しくゆるりと過ごしてもらえればと思っています。


それでは今回はここまでで。

以上、『教えて!レピア君』でした。

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