実習
さて、様々な行事や長期休暇が終わり、それでもまだまだ暑苦しい今日、ついに学校が始まる。今日の授業は珍しく午後からだったので、休暇明けの初めの授業ということもあり、ゆっくりと起き、しっかりと準備をして教室に向かった。
そしてクラテやアヴィ、シシリーと一緒にこれからの授業がいったいどんなものなのかを話していた。ほとんどの人は基本的な魔法に関してはそれなりに使えるようになってきた。なのでこれから一体どんな新しいことを学べるのかとみんなワクワクしていた。
ドン...
休み明けに久々に聞く扉の音はなぜだかどこか懐かしかった。
「さて、休みも終わって今日から学校だが、回復術師のクラスでの最終試験が決まった諸君にはさっそく試験を始めてもらう。」
試験を行う?それはつまり今最終試験を受けろという意味なのか?
教室は焦りと動揺でざわめいていた。
「ふっふっふっ。心配するな!今すぐペーパー試験をしたりするわけではない。基本的な魔法についてはもうお前たちは扱えるだろう。そこでお前たちには残りの半年間、アポロニア学園のあるこのオデュッセイアで回復術師見習いとして活動のだ。もちろん治療が可能であれば、君たちで治療してもかまわない。」
生徒たちは静まり返り、説明を聞いていた。
ルサス先生は説明を続けた。
「様子は今から渡す時の魔水晶で記録する。肌身離さずとは言わないが、患者さんに会うときは、必ず持っているように。あと、基本壊れることはないが、それなりに高いので、くれぐれも壊さないように。やり方は問わない。必要であれば学校外で場所を借りてもかまわんし、家々を回ってやっても問題ない。説明は以上だ。何か質問は?」
教室の面々はあっけにとられていた。
「質問はないようだな。では、水晶を渡す。頑張りたまえ。」
そう言って先生は水晶のはまったループタイを配ると、教室を出ていってしまった。
「レピア君、どうするの?」
クラテが聞いてきた。それはそうだ。こんな雑な投げ方があるだろうか。これはもう放任主義を通り越して、放置である。
「そうだな。どこかで場所を借りながら患者さんを見たりとかかな?僕はあまり回復術使えないし。」
「私どうしよう?私もまともな回復術をほとんど使えないし。」
クラテだけではない。みんな狼狽えていた。
アヴィやシシリーもどうすればいいかわかっていなかった。
もちろんそれっぽい答えをした私自身もどうしていいかわかっていなかった。
私が病院実習の時だって担当の先生がついて、他の看護師や理学療法士や薬剤師の研修生と一緒に病院を回って...。
私は一つの考えが浮かんだ。
「チーム、医療...」
「え?なんていったの?」
私は考えを整理すると話し始めた。
「みんなできることと出来ないことがある。だからチームを組むんだ。先生はどんなやり方でもいいといった。つまり一人で動く必要はないんだ。互いにできるものを出し合って治療をしていけばいい。みんな万能ではない。だからチームを組もう。クラテ、一緒に来てくれないか?」
「うん。もちろんだよ。よろしくね。レピア君。」
シシリーも近づいてきた。
「私も一緒に行っていいかな。」
「もちろんだ。僕から一緒にやろうと声をかけようと思ってたんだ。何しろ回復術を使えるのは僕の友達の中ではアヴィとシシリーだけだからね。アヴィ!アヴィはどうだい?一緒にチームを組まないかい?」
「僕は...そうだな。僕は将来、戦場で兵士を治す仕事がしたいんだ。僕の適正はそういった場所に適しているし。だから、北方の戦線に回復術師見習いとして一時的に働くことができないか考えてみたいんだ。」
たしかに再生魔法は激しい外傷の多い戦地の方が役に立つかもしれないが、今からそんなにシビアな場所に行かなくてもいいのではと私は思った。
しかしアヴィがやりたいようにこの試験に取り組んでいくのが正しいと私は思った。
「わかった。じゃあ、合格できるように頑張れよ。」
「ああ。レピアも落ちないでね。」
さて、チームは出来上がった。
あとはどのように治療に当たるかだが、。私たちはまだ学生であるし、信用は薄い。そんな中で家を回ることはあまり良いとは言えないだろう。ならばどこかに場所を借りるべきだろうか。
「えーっと、少しいいかな。」
シシリーが言った。
「もし場所を借りるなら、この町からは少し離れるけど、ヴェネディに今は使ってない別荘があるの。多分そこを使えるんじゃないかな。」
「大丈夫なの?家族に迷惑がかかるんじゃ?」
クラテが珍しく心配そうに言った。
「今は使ってないし、大丈夫だと思う。一応家に手紙を送っておくって確認するね。ハーピィの速達で送れば明日には返事が来ると思うし。もしだめだったら申し訳ないけど...」
「いや、そこが借りられるかもしれないってだけでありがたいよ。じゃあ、暫定的にその別荘にするとして、もしだめだったら明日考えよう。そうしたらシシリーは早速家族に手紙で聞いてみてくれ。他の人は準備かな。僕も薬草や道具をそろえておくよ。それじゃあ一回解散しよう。」
私たちは一度解散した。
夕食時に食堂でエドワードを含めた面々で集まった。
「そっか、アヴィは、北に、他の、みんなは、ヴェネディに、行くのか。寂しく、なるけど、頑張ってね。」
エドワードは少し悲しそうだった。
次の日、昼にシシリーのおばさんから手紙が帰ってきて、倉庫を使ってもよいとのことだった。
ヘレナさんがヴェネディへのゲートを開いてくれた。
「全く、私は便利な運び屋じゃないんだよ。帰りは面倒くさいからゲートは開かないよ。自分たちで馬車でも何でも使って帰ってきな。」
「はい、ありがとうございます。」
私は答えた。
「おーい!ちょっと、待ってくれ。」
エドワードが遠くから走ってきた。
「この、鳥を、一緒に、つれて、いって、くれ。」
息が上がっているせいか、文章の区切りがいつもより多い。
「これは?」
「こいつは、ヘルメス。こいつを、連れて、行って、くれれば、いつでも、やり取り、できる。手紙を、こいつに、持たせて、飛ばせば、オデュッセイアの、なかなら、数時間以内に、送れる。連れて、行って、場所を、覚えさせて、やってくれ。」
私はヘルメスの入った鳥かごを受け取った。
「ありがとう。必ず連絡するよ。それじゃあそろそろ行くよ。」
そうして私たちはヘレナさんとエドワードに手を振ると一歩を踏み出した。
ヴェネディにつくと、私たちは別荘に向かった。
別荘といても大きなお屋敷というよりは、石造りの簡素な建物だった。
大通りからは少し外れた静かな場所にあった。
早速2階に荷物を置き、1階を整理した。
しばらく使ってないだけあって埃がたまっていたので、窓を開き掃除をした。1階の一番大きな部屋を診察室にして、空っぽになっていた棚は薬棚として活用させてもらった。
他にも夏休み中にミーヌさんと作成した機材をまとめて診察室に置いておいた。
一通り別荘の整理を終えると、既に夕方になっていた。
健康相談に乗るのは明日からにして、私たちは夕食の買い出しをした。
ヴェネディは水運の要所で、オデュッセイアを流れる川の多くがこの町を通る。
そのため商業が発達し、様々な物品や文化が交わる町で、国内でも1,2を争う大都市である。夕刻の街は人であふれ、様々な声が飛び交っていた。とてもまぶしく楽しい街だ。
そこで私たちは肉や野菜、それにお酒を買った。
別荘に帰ると明日からの活動開始を祝して、私たちはささやかながらパーティーをした。
明日からついに本物のヒトを相手にした活動が始まる。回復術師として、医師として、この世界で少しでも多くの生活を私たちは守るのだ。
ん?何だい?
『教えて!レピア君』?
分かったよ。
僕はジェリー。
みんな覚えてるかな?クラフタークラスのジェリーだよ。
僕はクラフターとしての魔法適性はあるけど、レピア君みたいに細かいものは作れない。
もっと大きなものを作るのは得意なんだけどね。
レピア君は僕の一つの目標だったから、彼がもうクラフターのクラスに来ないと思うと少し残念かな。
でもレピア君も自分の夢のために頑張ってるわけだし、僕も負けてられないかな。
え?あんまりおもしろくない?もっと面白いことを話せって?
そ、そんなこと言われてもな...
そうだ!そういえばビーストテイマークラスのエドワード君とは顔なじみなんだけど、どうやら彼は情報屋みたいなことをやってるんだ。
なんでも動物と話せるようになったから、いろんなところに動物を放って情報を集めてるってことらしい。
いや、人から聞いた話だから僕もよく知らないけどね。
それじゃあまた。
クラフターの活躍の場って今後あるのか不安だけど、僕のこと忘れないでね。
『教えて!レピア君』終わりだよ。




