夏休みの始まり
春が過ぎ、そろそろ風薫る緑の季節、そう、夏に季節は移っていった。
7月の半ばから始まり、8月いっぱいまである夏休みにみんな心を躍らせていた。
ただ、楽しいことばかりでもなかった。
エドワードが回復術師クラスからビーストテイマーのクラスに移ったのだ。
彼曰く、回復術を使うのはやはり難しく、そうであればしっかりと動物たちを導き、そもそも傷つかないようにする方が自分に合っているそうだ。
クラスが変わったとはいえ、学校にはずっといるので、休み時間にしゃべったり、一緒に食堂でご飯を食べたりといつもと変わらずに過ごしていた。
そうして夏休みの足音ももうすぐそこまで迫ってきているこの日、みんなで夏休みの話をしていた。
「今度の夏休みはみんなどうやって過ごすの?」
私は聞いた。
「私は実家に帰るよ。久しぶりにパパやママに会いたいし。」
クラテが言った。
「私も多分森に帰る。おじさん達にも顔を見せないと心配されてしまうから。」
シシリーも実家に帰るのか。
「僕も、一度、帰るよ。一番、家が、落ち着くんだ。」
エドワードも?
「僕はどうしようかな。母さんには会いたいけど、父さんや兄弟にはあんまり会いたくないな。」
アヴィは未定か。
「レピア君も家に帰るの?っていうかレピア君ってどこに住んでるの?」
クラテが聞いてきた。
そう、私には確かに家にいた記憶はあるのだ。そしてこの世界での家族の記憶も。学校のすぐ近くだったので一度見に行ったのだが、そこには全く別の建物が立っていた。だとすると私の家はどこにあるのか?いや、そもそも本当に存在するのだろうか?
「えっと、実は覚えていないんだ。僕がどこからきたのか。」
「記憶喪失とかってことなの?」
シシリーが心配そうに聞いてきた。
「どうなんだろう...」
「そういえば僕が初めて君と会ったときに君は倒れてたけど、あの時急にあそこに君が現れたように見えたんだ。」
アヴィが口を開いた。
「もしかしたらレピア君は別の場所や時間から来たのかもしれない。時間操作の魔法は見たことないが、現に空間移動は魔法でできるわけだし。」
まあ、私は単純に違う世界から来ただけなのだが。
「でも、じゃあレピア君は夏休みどうするの?」
クラテが聞いてきた。
確かに自分の記憶にある家がどうなったのかを考えるよりも、まず直近の問題である。
前の世界であれば夏休みはゲーム、アニメ、読書、たまに山登りと、全部ひとりでいろいろやっていたが、せっかくだし、友達とも遊びたいというのが本心だ。
結局昼休みは終わるまで自分でもどうするか、夏の予定が決まらなかった。
その後私はクラフターのクラスに向かった。
このクラスに通うのも多分最後だ。夏休み明けからはクラスが確定するので、もうクラフターの授業は受けられない。
まあ、先生やジェリーには今後も学校で会えるだろうが、せっかくの授業なので最後くらいはちゃんと出席しようと思った。
教室につくとジェリーがいた。
「やあレピア。結局回復術師のコースに進むのかい?」
「うん。そのつもりだよ。」
「そっか。でもまあ、学校でまた会えるだろうし、またクラフトしたものとかについても話したりしような。」
ジェリーは少し寂しそうに笑った。
今日のクラフターの授業はみんなそれぞれ何かをクラフトし、見せ合うというものだった。
魔法で創造したり錬成したり、人によっては直に粘土をこねたり木を削ったり金属を溶接したりと、各々のやり方で物を作っていた。
私は、前の世界で子供のころ飼っていたコーカサスオオカブトをアルミニウムで生成した。
ちょうど羽を広げて羽ばたいている瞬間を形作った。個人的にはヘラクレスよりもコーカサスの方がかっこいいと思っている。
本当は真鍮製にしたかったが、比重が重く、自分が作りたい大きさでは自分の生成容量を越えそうだったのでアルミニウムにした。
クラスの中では一番の出来であった。が、先生はどちらかというと造形よりもアルミニウムという軽い金属の素材の方に少々驚いていたが。
クラフターのクラスが終わると、いつかのように私はアアルト先生に呼び出された。また水晶にてでもかざさせて、今度はクラフタークラスに転入するように言うのだろうか。
職員室に入ると、アアルト先生が手紙らしきものを渡してきた。
「ミーヌからだ。以前お前さんが語った夢について協力したいから、この手紙をお前に渡せと言われた。」
この手紙はミーヌさんからか。なんだろうか?
「あと、これは個人的に聞きたいのだが、クラフトではたびたび私の知らないものをクラフトしたり、見たこともない素材を使ったりする。お前はもしかして...。」
どうなのだろうか、私が異世界から来たと気づいたのだろうか。
「すごい奴なのか?自分のクラフトの性質を補うかのような軽い金属の生成に、先鋭的なデザインの道具の数々。お前は天才かもしれん。よければクラフタークラスに転入しないか?」
別にばれちゃまずいってわけじゃないが、私は身構えていた。その分アアルト先生の単純さに私はずっこけてしまった。
「いえ、私は直接人を助ける仕事をしたいのです。病やケガから人を守り、救う仕事をしたいのです。」
「そうか。そこまで意志が固いのなら、止める理由はないだろう。だが、クラフターに興味があれば、今後もいつでも遊びに来てよいからな。」
私はアアルト先生の部屋を後にした。
寮の部屋に帰り手紙を開けてみた。
字が個性的で解読に四苦八苦したが、内容としては次のようであった。
君の目指す医師という職業について内容を聞いて推測する限りでは、他にもたくさんの道具が必要になるだろう。自分は錬成魔法の使い手なので、素材さえ用意してもらえれば構造が分れば作れる。だから道具を作る手助けができるかもしれない。
夏休みに暇があれば、自分の家に泊まり込んで、一緒に道具を作らないか。
気が向いたときに来てくれ。
こんな感じだった。
私は暇であったし、ミーヌさんの家に行こうかと思った。
たしかに私のクラフトではかなり限界があった。これは必要なことかもしれない。
夕食の時に私は食堂に行った。
そこにはアヴィしかいなかった。
「僕以外はもう家に帰っちゃったみたいだ。まだ学校に残ってるのは僕たちだけだよ。」
アヴィは言った。
「僕も明日からプリースにいるクラフタークラスの卒業生のところで道具作りをすることになったんだ。だから明日もうこの学校を出ていくよ。」
「そっか。僕はたぶん学校に残ってるよ。本を読んだり散歩したり、そういうのも僕は好きなんだ。」
やっぱりアヴィは見た目とはかけ離れておとなしい奴だ。
私は食事を終えて学食を出ると、入学の時に持ち込んだスーツケースに着替えやノート、筆記用具に、一応薬や注射器、聴診器を詰め込んだ。
明日からミーヌさんの家で道具を作ることになる。いったいどんなものを作ることができるのか今からワクワクしていた。
うん?なんだ君は。
ここは部外者立ち入り禁止だぞ。
何、『教えて!レピア君』だと?
分かった。
私はルサス。アポロニアで回復術師の教員をしている。
私もこの学校の卒業生で、ここで後輩たちの育成をできることはとても良いことだと思う。
最近は優秀な学生も多い。
アヴィももちろんだが、魔法の才がなくても勉学を積むことで回復術師を目指すものや別の視点から人々を助けることを考えるものなど、将来有望なものが多い。
特にレピアだ。
彼の学力はとびぬけている。魔法の適性は無いが、うまく応用するだけの知恵がある。
彼には私の師匠に似た何かを感じるのだが...
おっと、そろそろ時間だ。
職員会議があるので失礼するよ。
『教えて!レピア君』、終了だ。




