パーティーナイト
私が帰ってくるころには、もうオデュッセイアは真夜中になっていた。
私はヘレナさんの目の前に立っていた。
「よく帰ってきたね。無事に材料も手に入ったみたいだな。あの子たちもケーキの材料やパーティーの食材の買い出しを今日やってたところさ。」
ヘレナさんが言った。
「あと、『明日は学校の食堂の調理場を借りて、午後の2時からケーキを作るからレピア君に伝えておいて』とクラテが言っていた。たしかに伝えたぞ。」
そう言うとヘレナさんは女子寮に帰っていった。
さて、私も今日は疲れたので、寮に帰って眠るとしよう。
次の朝。起きると針は11時を指していた。
昨日はベッドに横になったのが2時ごろだったからな。って、これじゃあ昨日じゃなくて今日か。
私は顔を洗いひげをそり、私服に着替えると食堂へランチよりのブランチを食べに行った。
食堂に行くといつもの面々がいたが、やはりシシリーさんはいない。
「そういえばシシリーをずっと見てないけど、彼女はどこに行ってるの?」
私が聞くとクラテが答えた。
「シシリーは一昨日の午後から馬車に乗ってどこかに出かけてるよ。故郷の森に一回帰るって言ってたけど。今日の夜に学校に帰るって聞いてるよ。」
なるほど、帰省してたのか。
「そういえば、オオカムヅミは、手に入った、のかい?」
「ああ、3個もらってきたんだ。向こうの人がただでくれたんだ。だから後で予算としてもらったお金は返すね。」
私はオオカムヅミをテーブルの上に置いた。
「よし、これでケーキが作れる。ただこれだとケーキよりタルトの方がおいしそうかもね。」
アヴィがいつになく燃えている。こいつには傭兵じゃなくてパティシエの血が流れているのだろうか。
さて、昼食を終え、教室の飾りつけの最終確認を行い、再び食堂に戻るとケーキ作りを始めた。
急遽アヴィの発案によりタルトへの変更となったが、材料は幸い何とかなった。
タルトの生地を練り、型に入れて焼き上げた。
そこにメレンゲと砂糖、ミキサーにかけたオオカムヅミ1つを混ぜたものを入れて冷やす。するとタルト生地の上にまず第一層目をなすオオカムヅミのムースが出来上がった。
その上に紅茶の茶葉を少し混ぜた生クリームを引き、さらにその上にカラメルと一緒に少し火を通したオオカムヅミの薄切りをきれいな円形に敷き詰めていき、その上に残ったオオカムヅミを使ったジュレをかけた。
オオカムヅミの甘美な香りがあたりに立ち込めた。ジュレが光を乱反射し、タルトをより美しく引き立てた。
さすがアヴィである。いつも料理をしない私たちが使い物にならない中で、ほとんど1人でこれを作り上げたのだ。
全く、回復術師よりもパティシエの方が適性があるのではないのだろうか。
食堂の料理人も見ていて感心していたほどだ。というか、半ば本気で食堂の料理人にスカウトされていた。まあ、アヴィは断っていたが。
さて、サプライズということで私たちは教室でしゃべりながら待っていた。
幸い教室からは校門が見えるので、シシリーが帰ってくればすぐにわかる。
シシリーが帰ってきたらクラテがシシリーをここに誘導し、あとはここでサプライズパーティーをするということになっている。
みんなそわそわしていた。いつも窓から見える校門に意識を向けていた。
日も暮れ、そろそろお腹がすいてきて、テーブルの上に乗っている食事に手を付けたくなってきたころ。一台の馬車が校門の前に止まった。
シシリーだ。
クレタは教室から出ていき、シシリーを迎えに行った。
私たちはシシリーに気づかれないようにこっそり窓から様子を眺めていた。
シシリーとクラテが校舎に向かって歩き始めた。
こっちの準備は万全だ。教室の電気も消してある。シシリーに気づかれないようにこの教室にヘレナさんの認識阻害の空間魔法までかけてもらった。なんだかんだ言ってヘレナさんは優しい。
足音が近づいてくる。
「クラテさん、お話って何なの?」
シシリーの声だ。
「まあ、いいからこの教室に入って、入って!」
教室のとびらが開いた。
「シシリー!誕生日おめでとう!」
私たちは叫んだ。
シシリーは面食らったようで、眼が皿のようにまん丸になった。
「さあ、シシリー、あなたは主役なんだから、早く入っちゃって。」
クラテが背中を押した。
「えっと、その、あ、ありがとうございます!」
シシリーさんが恥ずかしそうにぺこりとお辞儀した。
「その、わたし、こんなふうにみんなにお祝いしてもらったことないから、どうしていいかわからなくて。」
「いいからいいから。みんなでご飯食べて、ケーキ食べて、楽しくしゃべってればいいんだよ。」
クラテが楽しそうに言った。
クラテが一番ハイテンションだ。
シシリーは照れながら椅子に座った。
果実酒で乾杯すると、みんなでご馳走を食べ始めた。
グリンブルスティの生ハムのサラダに、レモラのスモーク、ラタトスクのしっぽ肉のステーキなどどれも美味なものばかりであった。
食事が一通り終わると、アヴィがタルトを持ってきた。
ろうそくもちゃんと立っている。
「うそ?オオカムヅミでタルトを作ったの?私これ大好きなの!」
心底驚いて、喜んでいるようだ。
「レピアが、オオカムヅミを、手に入れて、アヴィが、タルトに、したんだ。」
エドワードが言った。
「ありがとうみんな!」
シシリーは感激していた。
「じゃあ、ろうそくの火を吹き消してシシリー!」
クラテがそういうと、シシリーは思いっきりろうそくに息を吹きかけた。
「お誕生日おめでとう!」
再びみんなで叫んだ。
「ありがとう。本当にうれしい。」
「ところでさ、シシリーって今年で何歳になったの?」
アヴィが聞いた。
「えっと、今年で47歳よ。」
ったく、アヴィめ。同い年に決まって...。え?
「は、47歳?」
私は驚いて声をあげた。
「ええ、エルフ族は長命でその分成長が遅いの。」
シシリーは答えた。
私の年齢の倍である。
「もう、恥ずかしいんだからそんなに驚かないで。」
シシリーは頬を赤らめた。
ケーキを切り分け、みんなで食べ始めた。
これまでの料理でお腹はもういっぱいだったのだが、ケーキはぺろりと平らげられてしまった。
前の世界で食べてきた桃とは比べ物にならない、やさしい甘さが口いっぱいに広がり、紅茶のほんのり苦く香ばしい香りに引き立てられて至高の調べを奏でていた。
「そうだ、私からプレゼントがあるんだ。」
クラテがいった。
私は安心した。みんな何も言わないからプレゼントはどうするのかと思っていた。
私もアサヒに行ったときに一応プレゼントになるものをついでに買っておいてよかった。
各々プレゼントをシシリーに渡していった。
クラテは女の子らしく口紅だった。どうやら最近の流行のものらしい。シシリーが歓喜していた。
アヴィはアロマオイルだった。女子の好みを知りすぎである。本当は女子なんじゃないのだろうか。
エドワードはヒソプで編んだ枕カバーである。何やら安眠効果があるらしい。
私はというと、スズランの簪をあげた。これなら和服を着ていなくても、シシリーのきれいな金髪には似合うだろうと思った。
「これってもしかしてアサヒの国の?」
シシリーが聞いてきた。
「うん。そうだけど。もしかしてあまり気に入らなかったかな。」
「ううん。お母様も昔この簪をよくつけていたの。私がまだ幼かったときよ。」
彼女は少し寂しそうな顔になった。
「さて、じゃあプレゼントもみんな渡したし、カードでも使って遊びましょう!」
クラテが明るい感じでカードを持ってきた。
少しわざとらしさはあったが、そのおかげで場の空気はもとの明るさに戻った。
何か彼女の触れてはいけない部分に触れてしまったのだろうか。
そんなことを考えていたが、私はみんなで遊んでいるうちに忘れてしまった。
ん?今忙しいんだけど。
何?『教えて!レピア君』?
オッケー。じゃあちょっとだけだよ。
私はミーヌ。ドワーフ族の大人のレディーなの。
その証拠に胸はかなり大きいんだから。
あ!今身長が低いくせにとかって考えたでしょ!
もう!
まあいいや。
私はゴムっていうものや樹脂を研究してるの。
ゴムボールで遊ぶのは楽しいけど、それだけじゃないの。
ゴムは水を通さないし、弾力があって丈夫な素材。ある意味ではどんな金属よりも強靭な素材にもなりうると思うの。。
この前もゴムに硫黄を混ぜたらすごく丈夫になったの。すごいのよ!
ただそのせいで私の家の周りが硫黄臭くなってしまっているけど。
いつか私のゴム研究でこの国を変えてみせるの!
それじゃあもう研究に戻るね。
じゃあねー。
『教えて!レピア君』おわりー。




