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魔術仁術  作者: 龍岡
1.5章:外伝 ー初夏から晩夏ー
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ケーキの材料

今、私は一つの困難にぶつかっていた。

それは前の世界で普通の学生が困っている、成績や定期テスト、人間関係、校則違反の罰則なんてそんなありきたりのものではなかった。いや、いっそそっちの方が楽だったかもしれない。

そう、それはケーキの材料調達である。

私はアポロニアから出てはるか東へ。極東のアサヒという国にいた。

どうしてこんなことになったのかって?

それはこの世界にもある祝日によって、少し長めの連休が目の前に迫っているある日。

つい昨日のことに端を発する。


私はエドワードに手紙で呼び出された。朝、寮の私の部屋の入口に差し込んであったのだ。

放課後に校舎裏に来てほしいということだった。女子からならドキドキしたが、まあエドワードからの呼び出しだ。何の感情もなく放課後に校舎裏へ向かった。

行ってみると、なんだ、見慣れた面々がそこにはいたが、シシリーさんだけはなぜかいなかった。


「みんな、来てくれて、ありがとう。」


エドワードはおもむろに口を開いた。


「今日は、みんなに、話が、あるんだ。」


「何だい?話って。」


アヴィが聞いた。


「明後日は、シシリーの、誕生日、らしいんだ。だから、サプライズ、パーティーでも、しないか、と思って。」


「いいね!いったいどんなことをするんだい?」


クラテは早速ノリノリだ。


「やっぱり、シシリーが、寮に、帰ってきたところで、サプライズとか?」


「でも女子寮に僕たちは入れないだろ。」


全くアヴィの言うとおりである。第一、男がいきなり部屋にいたらビビるだろ。


「じゃあ、どうしろと、いうのさ。」


「じゃあ、どこかの教室を借りようよ。そこでパーティーすればいいんじゃない。」


ここまでの流れは悪くなかった。

ルサス先生に話すと、学校の今使っていない教室を快く手配してくれた。

教室は飾り付けられ、黒板には『お誕生日おめでとう』のバカでかい文字が書かれた。

着々と、順調に、何の問題もなく準備が進んでいっていた。

ここまでは。


「そういえばケーキとかはどうするんだ?」


この発言からすべてが始まった。

そして何を隠そうこの発言はまさに私のものである。


「ケーキか。みんなで作った方が喜ぶんじゃないかな。僕はケーキ作ったこともあるし。」


アヴィは言った。まあ、見た目はごついが中身は乙女だからな。女子力が高くても違和感がない。


「確か、シシリーは、オオカムヅミ、っていう、果物が、好きだったよ。材料は、これで、いいんじゃ、ないかな。」


なんでエドワードがそんなにシシリーについて詳しいのだろうか。少し気になったが、突っ込まないことにした。


さてオオカムヅミだが、これはオデュッセイアで取れる果物ではない。調べてみると、これははるか東にある、アサヒという国で取れる果物らしい。オデュッセイアからはかなり遠く、入手はとても難しいとのことだ。


さて、これは困ったということで別の材料でケーキを作ろうと思っていたころ、クラテがヘレナさんを連れてきた。

なぜ女子寮の管理人さんがここに来たのだろうか。


「話は聞いてるよ。なんでもあのエルフの小娘の誕生日パーティーのための材料を取りにアサヒまで行くって言っているそうじゃないか。全く暇なのかい、あんたたちは?」


なぜだ?いつの間にかオオカムヅミを取りに行く流れになっている。


「可愛い寮生の頼みだ。あたしも一肌脱ごうじゃないか。アサヒまで連れて行ってやるよ。」


この私よりもはるかに大きいおばあさんはいったい何を言っているんだ。

クラテに聞くと、どうやらヘレナさんは空間魔法の使い手らしい。女子寮の管理人という仕事も、空間魔法を駆使して不埒な男子生徒の女子寮侵入を防ぐためにやっているらしい。

才能の無駄使いじゃないのか?もっとすごい使い方が出来そうな魔法なのに。

そして、こことアサヒの空間をつなげて、一瞬で行ったり来たり出来るようにするということらしい。簡単にすごいことをやってのけようとしている。


「だが行くのはあんただけだよ。レピア。」


ヘレナさんが言った。


「アサヒはいま、人間以外の種族を受け入れてないからね。あんたら獣人やハーピィは見つかったら殺されちまうよ。」



こんな感じで、今私はアサヒの国にいる。

瓦の屋根にうだつが散見され、通りには着物を着た人々が闊歩する。

完全に前の世界の江戸時代の日本である。

ここにそんな果物はあるのだろうか?


「やいそこの坊主。あんた外から来たんか?」


見ると男が立っていた。


「ええ、僕はオオカムヅミという果物を探してオデュッセイアから来たのです。」


「ほー。オデュッセイアっつたらすんげー遠いところでねーか。オオカムヅミねー。ありゃ値が張るぞ。坊主、金はあるのか。」


「えっと、一応銀貨12枚ほど。」


これはみんなで集めた金で、今回の予算である。


「そりゃ多分足りんぞ。あれは高いからなー。あんたらの国の金貨で1枚といったとこかのー。」


そんなに高いのか?無理そうじゃないか。


「大体そんなもんが買えるのはお代官様とかそのぐらい高貴な方くらいだ。かっかっか」


男は高らかに笑いながら行ってしまった。

どうしたものか。考えていると、近くの茶屋から悲鳴がした。

何事かと思い覗いてみると、老人が苦しそうにもがきながら倒れていた。

周りは慌てふためいている。


「大丈夫ですか?」


私が話しかけても、苦しがって反応できずにいた。


「私は外国で回復術を学習しているものです。救助のため、体を見せていただきます。」


そう言うと私はその老人の上半身の服を脱がせた。

右の胸郭が明らかに隆起している。

呼吸は早くなっていた。

打診を行うと右の胸郭からは鼓音がした。

私は急いで聴診器をバックから取り出した。

いくつかの薬と聴診器は前の世界の癖で常に持ち歩くようにはしていたのだ。

左の呼吸音は正常だが、右側ではほとんど呼吸音が聞き取れなかった。

気管呼吸音も左に遷移している。


これは右肺の緊張性気胸である。原因はわからないが、早く処置をしなければ。

私は少し太めな6cmくらいの針をクラフトすると、右の第2肋間の鎖骨中線上に針を突き刺した。


プシュー...


空気の抜けていく音がする。

男はしばらく苦しそうな様子をしていたが、そのうち落ち着いてきたようである。

少量の塩を茶屋の主人からもらい、それを水に溶かした生理食塩水で針の指し口をよく洗い流し、同じく生理食塩水をしみこませた布で針の指し口が閉じるまでしっかりと押さえつけた。


気が付くと周囲には人だかりができていた。

視線が私と、倒れている老人に集中していた。


「よっこいせ。」


老人が立ち上がった。


「いやー回復術師どの。本当に助かった。いや、死ぬかと思ったわい。」


「いえいえ、当たり前のことをしたまでです。」


私は言った。


「そうだな。何かお礼をさせてもらおうかの。とりあえずわしのうちに来るがよい。」


そう言うと老人は立ち上がった。

何人かの若い男が駆け寄ってくると、彼らに耳打ちをした。

暫くすると男たちが豪華な駕籠を持ってきた。


「さあ、乗ってくれ。」


私は言われるがままに駕籠に乗った。

老人の家は立派な間口の大きな屋敷だった。


「ほっほ。つまらんところではあるが、上がってくれたまえ。」


庭には立派な松が生え、灯篭があり、小さな川が流れていた。

屋敷には女中もいて、私をもてなしてくれた。

出てきた茶も渋みとうま味、そしてほのかな甘みがあり、得も言われぬ素晴らしい味だった。


「さて、何かお礼がしたい。見たところ主はアサヒの外より来られた方とお見受けするが、何を望まれる。」


「わたしは、オオカムヅミという果物を探しているのです。そちらをいただければ嬉しいのですが、値が張るものであるということも存じ上げております。ですので...」


「ほっほっほ。その程度お安い御用だわい。して、何個必要じゃ?」


「何個と言いますと?」


私は驚いて聞き返した。


「だからオオカムヅミをいくつ欲しいのじゃ?やはり3個か?3個じゃろ。」


なぜ3個なのかはわからなかったが、とりあえず答えた。


「で、では3個ほどお願いいたします。」


「ほうほうおぬしもわかっておる。オオカムヅミは3個なくてはのう。」


男は召使を呼び、オオカムヅミを持ってこさせた。


「これがオオカムヅミじゃ。」


見ると桃のような果物だった。



「おぬしはもう帰るのかの。だったらまたアサヒに来ることがあればぜひ立ち寄ってくれ。おぬしは命の恩人じゃ。もてなそうぞ。」


私の帰り際に老人は言った。

私はヘレナさんからもらった鈴を鳴らした。どうやらこれも魔法道具らしい。

すると私の目の前にゲートが現れた。


「ほう、これはすごい業じゃ。レピアどの。それではまたの。」


老人は手を振っていた。

私は老人に手を振り返すと、ゲートの中に足を踏み入れた。

気が付くと私は学校に戻ってきていた。

『教えて!レピア君』

今回は緊張性気胸についてみていきたいと思います。

緊張性気胸は、肺と胸壁の間にある、胸膜に包まれた胸腔という空間の圧力が異常に上昇し、それによって肺や、すぐ隣にある心臓を圧迫してしまう疾患です。

緊急性が高い疾患で、心臓が圧迫されることで閉塞性ショックを引き起こし、死に至ることも多いです。

リスクとしては呼吸器管理患者や外傷患者、心肺蘇生後の患者など様々あります。


診断は、多くの場合診察でつきます。呼吸音や打診、視診の所見で鑑別されることがほとんどです。X線画像を取ることもありますが、緊張性気胸は一刻を争う疾患ですので、それを待たずに治療が開始されることがほとんどです。


緊張性気胸を見かけたら胸腔穿刺をして空気を抜きます。多くの場合はこれでは不十分で、胸腔ドレナージをさらに行い、胸腔内部の空気を抜いていきます。


今回は穿刺で回復しましたが、ドレナージが必要だった場合はより太いものを胸腔に差し込んで、空気を吸いだす必要があったので本当に良かったです。


穿刺を行う場合は、患側、つまり緊張性気胸が起きている側の第2肋間の鎖骨中線(鎖骨の真ん中から下におろした直線)上に少し太め(正確には18G以上)の静脈瘤地針を差します。


ドレナージチューブは、セーフトライアングルと呼ばれる、広背筋、大胸筋、乳頭から水平に引いた直線で囲まれた部分であれば安全に留置できます。

大体の場所としてはわきの少し下くらいです。


私のもといた世界では、コロナウイルスの感染拡大が起きた様子。今はいったん落ち着いていますが、油断をせずに感染予防策をしっかりとこうじて、健康にお過ごしください。

以上『教えて!レピア君』でした。

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