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魔術仁術  作者: 龍岡
1.5章:外伝 ー初夏から晩夏ー
10/19

聴診器

ここからは外伝パートです。

1章と、もうすぐ投稿を開始する2章の間のお話に相当します。

1章の執筆をしながら筆休めで書いていったものです。

基本的に短編形式で書いていきますので、軽く流すように読んでいっていただければと思います。

次章以降の執筆に入った後もたまに更新していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

課題も終わり暫くしたころ。

私たち回復術師のクラスは普通の授業を進めていた。

座学の内容は大したことなく、オデュッセイアにいる様々な種族の体の構造であった。

人間と大きな違いがあるわけでもなく、骨格や一部臓器のサイズや比重に差異があるのみだった。医学部に入っていた私にとっては中学生物で扱った人体と大して変わらなく感じた。

同時並行で行われた魔法の学習では、人によってはすでに自分の適性に合った魔法を習い始めていた。アヴィはすでに簡単な再生魔法を扱えるようになってきたし、シシリーも生命力強化の魔法により磨きをかけていた。


私はというと、さっそく回復術はお手上げだった。

私が回復魔法を行使しようとすると魔力の消費が激しく、まともに扱えないのだ。

なので薬草の勉強を始めた。

回復術師は基本的に魔法によって患者さんの疾患を治すが、まあ、私にはその適性がないために薬学を学んでいるといったところか。クラフトにも限界があるし、ある程度の薬は調達が望ましいだろう。

エリクサーがのこした知識でいまだに残されている数少ない知恵だ。

回復術だけですべてを治せないこともある。そのために薬学の知識は今でも回復術師の中で珍重され、治療に用いられる。


だが、魔法を全く活用していないわけではない。代わり私はクラフトの魔法を使い、この世界では調達できない医療器具を作り出す練習をしていた。

ガラス製の注射器や、診察に使用する様々な器具を作成していた。

はじめは形がいびつになってしまって使い物にならないものを作ってしまうこともあったが、練習していくうちにそれなりの形になってきた。

まあ、私はまだ1日90gちょっとしかクラフトできないので数は少ないが。


だが、ここで一点問題があった。

聴診器がクラフトできないのだ。

私は、生化学は嫌いではなかったが、高校化学の有機化合物の重合反応は苦手だった。つまり、ゴムや樹脂がクラフトできない。

聴診器のパーツのうち、チェストピースや耳管は作れるが、チューブとイヤーチップが作れなかった。

もちろん前の世界でフランス人医師が1816年に作ったような紙の筒でできた聴診器でもよいのかもしれないが、やはり聴診器は医師のシンボルのようなものなので、見知ったものを使いたいと思った。


私はたまに出席していたクラフタークラスで仲良くなっていたサイクロプスのジェリーに話してみることにした。


「ジェリー、実は作ってもらいたいものがあるんだけど、お願いできるかな。」


「レピアじゃないか。レピアの方がいろいろクラフトできるのに僕に作れるのかな?」


「まあ、これを見てくれ。」


そう言って私は、聴診器のゴムのチューブと耳当てを書いた図面を見せた。


「ふんふん、66cmの管で、片一方の端は2股に分かれてるのか。変な形だね。あとこの豆粒みたいなものもかい?こっちも真ん中に穴が開いてるわけだ。構造的には僕には少し複雑な気もするけど、やってみるよ。で、素材は何だい?金属かい?それとも木製?」


「いや、ゴムなんだけれども。」


「ごむ?何だいそれは?聞きなれないな。」


この世界にはゴムはないのだろうか。だとしたらなにで代用しようか。


「アアルト先生に聞いてみたらどうだろう。先生ならその『ごむ』ってやつを知ってるかもしれない。」


「そうだね。じゃあ、先生に聞いてみるよ。ありがとう。」


そうして私は先生の職員室に行った。

戸を開けるとちょうどよく先生がいた。


「おおレピア、どうした。聞いたぞ!なんだかお前が見たこともないような道具を作ってるって。」


「先生、実はクラフトしていただきたいものがありまして。」


「はっはっは、少しぐらい私の話に乗ってきてもいいんだぞ。全くだんだん対応が雑になってきたな。まあいい。で、どんなものなんだ?」


私はさっきと同じ図面を見せ、ゴム製にしてほしいと話した。


「ゴムだと?確かにゴムってのはあるが、あれは子供が遊ぶためのボールに使うような素材だ。あんまり使ったことはないな...。でも面白い。だったら、ミーヌという卒業生がいるのだが、彼女のもとに行くがよい。あいつは少し変わり者で、ゴムを素材としてかなり注目していた。彼女なら適任かもしれんな。」


「わかりました。それでそのミーヌさんっていうのはどこにいらっしゃるんです?」


「確か隣町のプリースに住んでいたはずだ。住所を書いてやるから少し待ってろ。」


そう言うとアアルト先生は紙の切れ端に住所を書いてよこした。


「ありがとうございます。失礼しました。」


そう言って私は部屋を出た。


さて、きっと次でこのゴムを求めるたらいまわしの旅も最後になるだろう。

そう思いながら週末にプリースに向かった。

指定された住所に向かうと、何やら変な匂いがあたりに立ち込めていた。

ドアをノックしてみたが反応がなかった。

留守なのかと思ったが扉の鍵が開いていた。私はおそるおそる中をのぞいた。

すると、真っ暗な家の中で倒れているヒトがいた。


「大丈夫ですか?」


そう言って私は家の中に駆け込んだ。

どうやら普通の女性のようだが、小柄なのでドワーフなのかもしれない。

体をゆすっても反応がない。

脈があるか確かめようと首に触れると、


「ひゃ!」


ふいに女性が声をあげた。


「もう、いくら私がかわいいからっておさわりはだめよ!」


そう言って女性は立ち上がった。

私があっけにとられていると、女性は部屋のカーテンを開けた。

部屋のなかが明るくなり、女性の、いや、女の子?の顔がくっきりと見えた。

ピンク色の髪に金色の目をした、私の胸ほどの身長しかない女の子がいた。その割に胸が大きい。クラテより大きいかも。

それに光が入ってきて見えた部屋のなかはまるで泥棒でも入ったかのような惨状になっていた。

様々な実験器具と思われるものがそこかしこに散らばり、樹脂のような、ゴムのようなものがたくさん散らばっていた。


「君がレピア君かい?アアルト先生から話は聞いてるよ。私がミーヌだ。」


その僕の半分くらいの年齢にしか見えないちんまいものがそう言っている。

ミーヌさんだと?ミーヌさんは卒業生ということだから、私より年上のはずだ。

なのになんだ?このけしからん胸のロリっこは?


「ええっと、あのゴムを研究していらっしゃるっていうミーヌさん?」


「ああそうだ!私さ!ただゴムだけじゃない。樹脂も扱っている。」


彼女は胸を張っていった。

どうやら本当のようだ。


「じゃあ、さっそく図面を見せてもらおうか。」


「あ、はい。」


私はカバンから図面を取り出した。


「ほー、このくらいなら私が作れるな。で、どんなゴムがいいんだ?」


「どんなゴムって言いますと?」


「ゴムっつったって色々あるだろ。どんなゴムだ?固い奴か?柔い奴か?伸縮性のあるやつか?」


聴診器についてそんなに考えたことがなかったな。


「その、いくつか試してもいいですか?自分で作るのは初めてで、どんなのがいいかわからなくて。」


そう言うと私は聴診器の金属部品を取り出した。


「へー、まだお前1年なんだろ。なのにそんな細かいものが作れるなんて大した奴だ。」


ロリっこにお前呼ばわりされるのには違和感を覚えたが、感心してくれているようだ。

そんなことをしているうちに、気が付くとミーヌさんが聴診器のゴム管と、イヤーピースを手に持っていた。


「私は錬成魔法の使い手だ。材料と図面があればすぐに作れるのさ!」


幼女が年相応のどや顔をしていた。でも、確かにすごかった。私のクラフトよりも早さや精度が段違いに高い。やはり創造魔法より錬成魔法の方がこういう点で優れているのかもしれない。


早速使ってみたが、ちぇすとぴーすの重みでチューブが伸びまくっていた。これはまずいな。


「その変な道具はいったい何に使うんだい?」


「ああ、これはこの金属の塊を胸に当てて、相手の呼吸や心臓の音を聞くんです。」


「面白そうだな。私に使ってみてくれよ!」


そう言ってミーヌさんは上の服を脱いでしまった。

病院実習で女性の診察もしていた私はこの程度では動揺しなかったが、ロリに巨乳にビッチと、属性過多なこの女性ははたして大丈夫なのだろうか。もうお腹いっぱいだ。


聴診器の音はよく聞き取れなかった。まあ、こんな柔らかいゴムでは音が伝わらないのだろう。それにごむよりも柔らかいでかい2つの肉が邪魔で聞き取りずらかったのもあるが。


「ごめんなさい。もう少し固いゴムで作り直してもらえますか?」


「オッケー、わかったよ。」


彼女は上半身をはだけたまま部屋を歩き回り、一つのゴムの塊を手に取った。すると見る見るうちにまた聴診器の材料を作り上げた。


「ほい。」


彼女が渡してきたチューブに付け替えて再び音を聞いてみた。

彼女の鼓動が聞こえてきた。

トクン...トクン...

規則的に聞こえる心臓の弁が閉じる音。

久々に聞いた、人の生きている証である。


「どうだい?」


「いいです。よく聞こえます。」


「そうかい。私にも少し使わせてくれよ。」


そう言うとミーヌさんは私から聴診器を取り上げ、私の心臓の音を聞いた。


「へー、よく聞こえるじゃないか。」


お医者さんごっこに付き合う親の気持ちが分かった気がしながら、彼女の無邪気な笑顔を見ていた。



その後、ぐちゃぐちゃなテーブルの上のものをすべてどかし、お茶を飲みながらミーヌさんといろんな話をした。

アアルト先生のことや、彼女の今の仕事である素材開発について、私は医者という回復術師とは少し違う新しい職業を目指していること。他にも学校での出来事について話したりもした。気が付くと外は日が暮れ始めていた。


「そろそろ帰らないといけないので、僕は学校に帰ります。部品を作ってくれてありがとうございました。お代とかはどうすればいいでしょうか。」


「いいよ金なんて。今日は楽しかったし。まあ、どうしてもって言うなら、出世払いで払ってくれよな!」


ミーヌさんは屈託のない笑顔でそう返した。

夕暮れの街に背を向けて私は学校に戻っていった。

手には聴診器を携えて。

ミーヌさんはなんだか妹のような、頼りになる先輩のような、不思議な人であった。

さあ始まりました。

『教えて!レピア君』

今回は聴診器についてみていきたいと思います。

聴診器は今や医師のトレードマークのようなものですが、世界最初の聴診器は1816年にフランス人のラエンネック医師が長い紙筒を使ったのが始まりといわれています。


聴診器は皆さんご存知のとおり心音や呼吸音を聞くためのものです。そんな聴診器の、実際に患者の胸にあてがって音を聞く金属のパーツ(チェストピース)には、二つの面があることが多いです。


一方の面が大きい方はダイアフラム、小さいほうの面はベル面といわれます。

ダイアフラムは高い音を聞くことに優れ、ベルは低い音を聞くことに優れます。

ただ、大体の場合はダイアフラムの面が用いられます。


ではベル面を使うのはどのような音を聞くときなのか。

ベル面は、過剰心音を聞くときに使われます。


通常の心音は、心臓の部屋同士をつなぐ弁(房室弁と呼ばれ、三尖弁と僧帽弁がある)が閉じる際に聞こえるⅠ音と、心臓とそこから出ていく血管の間にある弁(肺動脈弁と大動脈弁)が閉じる際に聞こえるⅡ音が聞こえます。しかし心臓に異常があると、心房が心室に血液を力強く押し出すことによって、心室の壁に血流がぶつかるくぐもった音が聞こえることがあり、これを過剰心音と言います。この過剰心音は通常の心音などの高い音を除外し、低い過剰心音を聞き取れるベル面の方が聞き取りやすいのです。


今回は聴診器の二つの面と、それぞれの使い分けをご紹介いたしました。

私も子供のころはミーヌさんみたいにおもちゃの聴診器でぬいぐるみと遊んでいたものです。

それでは今回はここれへんで。

以上、『教えて!レピア君』でした。

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