13. ゴブリン集落での戦い
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僕を含めた後衛は、一斉に集落へ向けて攻撃を始めた。
炎の球や土の弾丸が、猛然と集落に向けて飛んでいく。僕も速射で複数の矢を放つ。
いくつもの攻撃が地面や建物、そしてゴブリンたちに着弾し、轟音とともにゴブリンの叫び声があがった。土煙が舞い、ゴブリンたちの姿が隠れる。
「行くぞ!」
煙が晴れる前に、ガイさんがパーティメンバーとともに突貫した。遅れていくつものパーティが続く。僕たちもすこし遅れて集落の中へ進んだ。
同時に、煙の中からゴブリンたちが突撃してくる。先頭に近接武器を持ったゴブリン、さらにその後ろには弓や石を持ったゴブリンもいる。
フルルは前線の冒険者たちに混ざってゴブリンの群れに飛び込んだ。彼女に心配はいらないだろうから、僕は迎撃態勢を取ったサシャちゃんとアトラ君に声を掛ける。
「サシャちゃん、アトラ君、敵の遠距離攻撃には気を付けて。怪我を負ったらすぐに戻ってきてね!」
「はい、セージ先輩!」
「分かりました」
二人はそれだけ言うと、他の冒険者と同じく近くのゴブリンに向かった。すでに戦闘が始まり、そこかしこで血と怒号が飛び交っている。近づいてくる冒険者に牙を剥くゴブリンは、サシャちゃんとアトラ君にもこん棒で殴り掛かった。
「そんな攻撃、なんてことないな!」
それをアトラ君は木の盾で受け止め、ゴブリンがのけぞった隙に剣を振るう。上から降ってきた斬撃に、ゴブリンは胸から血を噴き出して倒れる。
けれど、ゴブリンはまだまだ溢れるほどにいる。目の前で倒れた仲間を気にも留めず、後続のゴブリンがサシャちゃんに向かった。
それを見たサシャちゃんが、魔力を練って魔法の詠唱を行う。
「――。風よ、疾く走れ」
呪文を唱えると、薄緑にきらめく魔力が拡散する。するとどこからともなく風が吹いて、それを背に受けたサシャちゃんが素早く移動する。風の補助魔法で移動速度を上げ、ゴブリンの攻撃を横に跳んで避けた。つんのめるゴブリンの首を短剣で貫く。
そうして、二人とも危なげなくゴブリンをさばいていく。
……うん、やっぱり二人ともEランクとは思えないほど上手に立ち回ってる。この調子なら問題なさそう。
僕は弓で援護を行いながらそう判断し、今度はちらりとフルルに視線を向ける。事前に決めた配置をまったく気にせず、ゴブリンたちの真ん中で大立ち回りを演じているのが見えた。僕は苦笑する。
やっぱりフルルに心配はいらないね。それじゃあ僕は後衛らしく、他のみんなも含めて全体をカバーしよう。
僕は先ほどより意識を広く、集落で戦う冒険者たち全体に向ける。中でも特に、あまり戦い慣れていなさそうな駆け出しの冒険者に注意した。
ゴブリンコロニー殲滅の依頼は、今回のような条件付きでなら低ランクの冒険者でも受注できる。実際慎重に戦えば、経験の少ない子でも問題ないのだ。けれど、注意が少しでも散漫になれば、当然危ない場面も見られる。
僕はできるだけ戦場を俯瞰するよう意識し、敵味方の位置関係を頭の中に描く。そうすれば、後は自然と僕を中心としたゴブリンに向かう線が引かれる。僕は危なそうな冒険者を助けられる線に沿って、弓を引く指を離すだけでいい。
風を切って飛翔した矢は、今にも攻撃しようとしていたゴブリンの胴に刺さり、そのまま後ろに吹き飛ばす。遅れて吹いた風が、助けた冒険者の髪を揺らした。間一髪難を逃れた冒険者は僕の方に目を向ける。
「た、助かった!」
「いえ」
僕はまた意識を上空に浮かべ、次々に矢を放った。やはりガイさんを筆頭とした戦い慣れた冒険者は問題なかったけれど、ゴブリンの攻撃を前に傷を負いそうな人はけっこういた。彼らを助けるべく、僕は黙々と弓を引く。
「ありがとう!」
「援護助かる!」
掛けられる声に目で返事を返して、僕はみんなのサポートに徹した。それでも戦ううちにどうしても怪我を負う人はいたので、すぐに下がってもらって回復魔法をかけて、大丈夫そうならまた戦線に戻ってもらう。
そうして戦いを続けるうちに、ゴブリンたちの数はどんどん減っていく。
ゴブリンが密集している一帯で戦うガイさんが、威勢よく声を上げた。
「おら、もう少しで殲滅だぞ! てめえらせめて全員で俺の半分くらいは働けや、ははは!」
調子が乗ってきたのか、ますますゴブリンを斬り捨てる速度が増す。みんな必死になってゴブリンの相手をする中、彼だけは常に余裕をもって立ち回っている。
……いや、ガイさんだけじゃなかった。むしろ、彼よりフルルの方が――
「うるさい……」
フルルは小さな口をわずかに動かし、舞うようにゴブリンの中を移動する。空中に跡を引く銀色の髪が、なめらかな線を描いた。そして、彼女の通った後にはゴブリンたちが音もなく倒れる。
相変わらず、巧いなあ。
僕は意識の端でフルルを見て、いつものように感服する。その動きはきっと間近だと見失うだろう速さで、けれど雑なところが一切ない。敵を殺すための動きなのに、ともすれば舞いのような美しさを感じる。
「――。貫け、『霜の短槍』」
フルルは透き通った声で詠唱すると、宙に浮かんだつららが後ろから迫るゴブリンに突き刺さる。ひるんだ隙に、顔も向けずに剣で首を掻き切って次の敵へ向かう。
剣の扱いも、速度も、要所で繰り出す魔法の正確さも、すべてが高水準で纏まっている。今ここにいる冒険者の中で、フルルの戦いが一番きれいだった。
「おらあ!」
「ふっ」
ガイさんとフルルの二人が同時にゴブリンを斬り捨てる。気づけば残るゴブリンは僅かで、けれど最後に残ったのは一番厄介なゴブリンたちだ。
他のゴブリンよりも一回り大きな体に、鉄製の剣を持つホブゴブリンと、どこか知的な表情をしているように見えるゴブリンシャーマン。ゴブリンの上位種たる力を持つ危険な魔物だ。
この戦闘中、上位種二体は基本的にフルルとガイさんがうまく抑えていた。すでにその体にはたくさんの傷がついているけれど、まだ僕たちへの憎悪をたぎらせ、ぎらぎらとした視線を向けてくる。
二体はまるで冒険者のパーティのように前衛後衛に分かれて並び、眼前に立つフルルとガイさんを睨みつけた。
お互い視線を合わせた二組は、じりじりとした緊張感の中で向かい合う。強者同士が立ち会った際の重苦しい雰囲気に、周りの冒険者たちが息をのんだ。
その瞬間。
「らあっ!」
ガイさんが驚異的な瞬発力で地面を蹴って、弾かれたようにホブゴブリンへ向かった。体をねじってうまく力を運び、重たい横薙ぎの斬撃をホブゴブリンに浴びせる。しかしホブゴブリンも人外の反射神経でそれを迎え撃つ。
互いの剣がぶつかり合い、激しく火花が散った。そのままつばぜり合いになり、ぎりぎりと鋼が擦れる。
そして戦線が膠着したその隙に、後ろのゴブリンシャーマンが詠唱を行う。耳障りなゴブリンの声は、けれど確かな意味を持って魔力を整えていく。あといくらかもしないうちに、それは魔法となってガイさんへ向かうだろう。
けれど、フルルを前にしてそんな猶予があるはずもなかった。
僕は二人への援護のため、するどい一矢をゴブリンシャーマンへ放つ。さすがに一撃で倒すことはできなかったけれど、被弾を避けようと盾にした腕に矢が突き刺さる。
詠唱が止まったその隙を、フルルは見逃さなかった。疾風のように移動したフルルは、攻撃を受けたばかりでひるんでいるゴブリンシャーマンの首に剣を振るう。
遅れて反応したゴブリンシャーマンも、必死にそれを防ごうとした。けれど、フルルの前で見せた隙は致命的で、振るわれた剣は風のように速かった。
フルルは剣を振りぬいて、直後ゴブリンシャーマンの首が飛ぶ。
さらにそれを見て動揺したのか、ホブゴブリンが持つ剣がわずかに震える。ガイさんはここぞとばかりに力を込め、ホブゴブリンの剣を押し込んだ。すこし体勢を崩したその隙に、剣を滑らせてホブゴブリンの剣を地面に振るわせる。さらされた隙だらけのホブゴブリンを、そのまま袈裟懸けに切り裂いた。
地に倒れ伏す二体の上位種を見て、周りの冒険者たちがわっと沸いた。喝采が森の木々を揺らす。冒険者たちの歓声は鳴りやむことなく、二人が剣を納めた後もいっそう大きな声を上げる。
ガイさんは歓声を浴びながら、満更でもなさそうに堂々とパーティメンバーのもとへ向かい、一方でフルルは煩わしそうにこっちへ向かってくる。
その間も冒険者たちは声を上げ、全員の健闘を讃え合っていた。




