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11. 依頼の開始と小さな決意

11*


 街を出た僕たちは、目的地の森まで街道に沿って進む。騎士さんを先頭に、それぞれの冒険者がパーティごとに固まって列をなしていた。


 僕たちも後ろの方について歩いていたのだけど、しばらくすると列の前方から声が聞こえてくる。リーダーとなったガイさんが、僕たちがそれぞれ何をできるか確認し始めたのだ。


「今回はゴブリンの上位種も相手にすることになる。基本はパーティごとで動くことになるが、誰に何ができるかを把握して、俺が適材適所の配置を決めてやる!」


 みんなに聞こえる声でガイさんはそう言った。横柄な態度だけれど、言っていることは至極まともだ。Cランクの冒険者ともなれば集団での戦闘経験も豊富だし、彼がリーダーを務めるのは理にかなっている。


 それからガイさんの声に従って、何人かずつ彼のところまで行って技能の申告を行う。僕たちのパーティも呼ばれて、それぞれができることを話した。サシャちゃんとアトラ君はなんだか不満そうに、そしてフルルは適当にガイさんへと自分の力を伝える。


 全員分を聞き終えると、ガイさんはそれぞれのパーティメンバーの前衛後衛の比率なども加味し、どのパーティが前線を担うか、後ろから援護するかなど細かい話を詰めていく。


 僕たちのパーティは、今回の依頼で唯一の回復魔法使いである僕がいることと、メンバーのランクが低いことから後方の配置となった。ちなみにサシャちゃんとアトラ君のランクは僕たちと同じEである。


 大まかな持ち場が決まったところで、ガイさんが僕たちの方へやって来る。サシャちゃんとアトラ君が警戒した様子を見せる。けれどガイさんはそっちには目もくれず、正面から僕を見る。


 何を言われるのか戦々恐々としていると、ガイさんは僕を見下した目つきで口を開いた。


「おい、お前。今回、回復魔法を使えるのはお前だけなんだから、戦闘中は常に俺たちのことを見ておけよ。もし怪我を負ったら、他のやつは放っておいてすぐ治しに来い。分かったな」


 僕は少し考えて、どうやら俺たちというのがガイさんのパーティのことを言っていると気づいた。つまり、彼は自分たちを最優先で治せと言っているのだ。


 僕はその言葉に眉をひそめる。たしかにメンバーで一番の実力者が倒れるとチーム全体が総崩れになることはある。要になっている人物が、戦いの中で一番大切と言われればそれはそうだ。だけど。


 ガイさんの言い方はまるで、他の人はどうでもいいから自分の怪我だけを治せと言っているようだった。弱者を切り捨て、何にも置いて自分を優先しろと言う彼に、僕は怒りを抱く。


 必要な場面でない限り、いくら強いからってその人だけを優先したりしたくない。目の前で傷ついている人がいたら、僕はその人を助けたい。


 正面切ってそう言えたら、どれだけよかったろう。


 僕は、言葉を返すことができなかった。


「おい、俺は分かったかって聞いてるんだよ。お前らみたいな雑魚の面倒見てやるんだから、大人しく頷いときゃいいんだよ」


「は、い」


 ガイさんは僕が反論することなど初めから考えていないように、言いたいことだけ言って去っていく。僕は思わず返事をして、ガイさんの背中をただ見送った。自分の情けなさが嫌になる。


 ガイさんは僕より強い。素行がどうであれ、いや、むしろあの素行の悪さでCランクまで上り詰めたのだから、回復魔法使いの僕と比べて弱いはずがない。だけど、言い返すことができなかった理由はきっとそれだけじゃない。


 僕という人間の、心の弱さが一番の問題なのだ。


 ガイさんから逃げているだけの自分に僕は落ち込んだ。結局は強い者におもねることしかできないのか。そんなの、最低だ。


 顔をうつむける僕を心配してか、アトラ君が声を掛けてくれる。


「ひどい話ですね、セージ先輩。でも、仕方ないですよ。相手は僕たちよりずっと年上で、Cランクの冒険者なんですから……」


 僕は「うん」とだけ返して、黙り込んでしまう。年下の男の子に慰められて、それでも僕は立ち直れない。


 はぁ、僕ってほんとに駄目だなぁ……。


 いつも情けない僕をからかってくるフルルも、今はなにも言わない。きっと情けない僕に呆れてしまったんだ。こんな意気地のない男に隣の国までついてきたなんて、きっと後悔しているに違いない。


 僕はそう思って、ちらりとフルルに目を向けた。そして、彼女の浮かべていた意外な表情に目を丸くした。


 視線の先のフルルはどうしてか、まるで昔を懐かしむように、大切な宝物を眺めるときの柔らかな表情で僕を見ていた。


 銀色の髪が、そよぐ風に柔らかく翻り、その下の緑の瞳は温かい光を浮かべている。そこに侮蔑、失望の色は一切なく、ただ深い信頼と親愛があった。そしてそれは、自惚れでなければ僕に向けられている。


「ど、どうしたのフルル?」


 僕はフルルの初めて見る顔に、落ち込んでいたことも忘れて問いかけた。けれどフルルはすぐに先ほどの表情を消して、いつもの無表情に戻ってしまう。僕の質問にも「なんでもない」と返して、そっぽを向いてしまった。


 なんだったのかと思っていると、フルルはこっちを見ないままに告げる。


「セージはいつも通りでいい。いつもみたいにがんばったら、それでだれかが救われるから」


 それだけ言って、今度こそなにも言わなくなる。何が何だか分からない。……だけど。


 なんだか、いい意味で気が抜けたかも。


 僕はどこか心が軽くなったのを感じた。ここまで一緒にやって来たフルルは、僕を受け入れてくれる。その事実は、僕にとってとても大きなものだったのだ。


 僕は心のうちでフルルに感謝する。そして、決めた。


 さっきはガイさんに何も言えなかったけれど。――それでも。僕は、僕が正しいと思うことをやる。ガイさんの言葉には従わない。


 決意した僕は、どこか清々しい気持ちで空を見上げる。良く晴れた大空が、僕の思いを後押ししてくれているように感じた。


 僕はフルルに感謝の意味を込めてにこっと笑いかけた。だけどフルルはまっすぐ前だけを見ている。僕の感謝に気づいているのかいないのか、変わらない調子でてくてくと歩く。


 だけど、髪の隙間から見えたフルルの耳は、夕焼けの空みたいに赤く染まっていた。


 僕はそれに気づかないふりをした。




 それから、僕たちは無駄口を叩かず目的地へと歩みを進めた。臨時の四人パーティだから、誰がどんな立ち回りをするかの打ち合わせだけはして、あとは程よく緊張感を保ったまま足を動かす。


 やがて、視線の先に黒々とした森が見えてくる。うっそうと茂った葉で、森の中の様子はうかがい知れない。


 僕たちは街道を逸れて森へと向かった。そして森の入り口まで着くと、ガイさんの指示で隊列を組んで、とうとう森の中へと踏み入った。



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