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10. 態度の悪いCランク冒険者

10*


 朝早いこの時間、掲示板の前は駆け出し冒険者でいっぱいだ。先客の彼らは仲間内で話し合いながら真剣に依頼書を確認している。


 僕たちもなんとか空いた隙間に潜り込んで、貼られている依頼書を眺める。


「そう言えば、サシャちゃんとアトラ君は腰に剣をはいてるけど、二人とも前衛でいいのかな?」


「はい、僕たちは二人とも剣士です。僕は片手剣と盾で、姉さんは短剣と魔法で戦います!」


「あ、そう言えばこの間魔物から逃げている時に、サシャちゃんはなにか魔法を使ってたね」


 必要な情報を交換をしながら僕たちは依頼を探す。大まかに前衛三人と後衛一人、ただし後衛の僕は回復と弓を担当できるから、そんなにバランスは悪くない。これなら、だいたいの依頼はこなせるはずだ。それでも今回は初めてのメンバーでの依頼だから、少し簡単ないものがいいだろうか。


 いくつか条件に当てはまるものを吟味しながら、顎に手を当てて考える。


 すると、隣であっと声が上がった。


「姉さん、これ見てよ。もの凄く割の良い依頼じゃない? ――セージ先輩、この依頼はどうでしょうか!」


 アトラ君が指をさした依頼はゴブリンの討伐だった。ただよく見ると、討伐対象のゴブリンは近郊の森でコロニーを作っていて、かなり大規模の群れを成しているようだ。上位種のゴブリンシャーマンやホブゴブリンなんかもいるとのことだ。


 さらに、それだけの規模の群れを一つのパーティが相手にするのは厳しいので、複数パーティによる合同依頼として出されている。討伐を行う日時は今日の昼からだ。


 僕はこの依頼を受けるべきか考える。報酬と難易度、双方の観点から依頼を吟味する。


「うーん。たしかに報酬は良いみたいだし、たくさんのパーティが参加するならそこまで危険でもないのかな。フルルとサシャちゃんはどう思う?」


「ゴブリンなんて楽勝」


 僕の問いかけに、フルルはいつもの調子で答えた。サシャちゃんは少し考えてから口を開く。


「……アトラはこの間怪我をしたばかりですけど、大丈夫なんですか?」


 サシャちゃんは僕たちには見せない表情でアトラ君を心配する。けれどその言葉が当のアトラ君は気に入らなかったらしい。少しむっとした顔をサシャちゃんに向けた。


「姉さんはこの間のことを気にし過ぎだよ。あれはちゃんと準備をしてなかったのと油断してたからで、今回とは違うから。……それにここ一週間依頼をしてなかったし、お金を稼がなきゃでしょ」


「それは、そうですけど……」


 二人はどこか深刻そうな表情で黙り込む。そ、そんなにお金がないのかな? それだったらと、僕は助け舟を出すつもりで声を掛けた。


「怪我に関してはある程度は僕が治せるよ。それにこの依頼は最低一人Cランクの冒険者が参加することを条件としてるから、よほどのことがなければ大丈夫だと思う」


 依頼書の詳細を読みながらそう言った。Cランクと言えばFからSまでのランクのちょうど真ん中で、冒険者の平均のように思うかもしれないけど、実際そんなことはない。Cランク冒険者といえば、周囲から腕利きとして見られるランクなのである。


 実際、Sランクはどの国でもほぼ名誉称号のようなものでほんの一人二人しかおらず、Aランクでも大きな街に一人いるかいないか。Bランクは大きな街なら一人いるくらいの実力で、その次がCランクなのだ。


 それくらいの実力者が来てくれるんだから、ゴブリンくらいならそう危険はないと判断できる。


 それに――


「一応、僕とフルルはリディアではCランクの冒険者だったんだ。だから、自惚れみたいに聞こえるかもだけど、ある程度は安心できないかな」


 まあ、僕は他のみんなのおまけみたいなもので、だから宿り木の剣を抜けてきたのだけど……。


「す、すごいです、先輩! そんな年でCランクなんてめったにいないですよ!」


「Cランク……」


 アトラ君はもうすさまじく感激したといった様子で、両手を胸の前で合わせてきらきら目を輝かせる。サシャちゃんも口をぽかんと開いて驚いていた。


 アトラ君の称賛を受ける僕は、宿り木の剣の力でずるしてるような気になって申し訳なくなる。フルルはぜんぜん表情を変えずに、堂々としているけれど。


 そうして、サシャちゃんは僕の言葉に納得してくれたのか、少し不安そうにしながらも提案を受け入れてくれた。


 この間のサシャちゃんの身のこなしから、彼女もそれなりの実力はあるように思えたし、そこまで心配することはないと思うけどなあ。アトラ君の怪我があって、すこし過敏になってるのかもしれない。


 僕はそんなことを考えながら、話が纏まったのでみんなで受付へと向かう。依頼を受注する際、受付嬢のお姉さんにもの凄く心配そうに見られたけれど、無事に依頼を受けることができた。


 僕はみんなに向かって言った。


「それじゃあ、依頼が始まる前に各自準備を整えよっか」


 依頼開始前に集合場所に集まるということでひとまず解散する。僕はフルルと連れたって、組合内の売店や街のお店で消耗品を買い揃えることにした。




 サシャちゃんたちと別れて数時間後、必要なものを揃えた僕とフルルは依頼の集合場所に到着する。僕たち以外にもすでに何人か冒険者がいて、依頼の開始を待っている。


 軽く周囲を確認すると、冒険者たちとは別に鎧を着た騎士が一人立っていた。この依頼の依頼主はアルドの領主だから、その代理兼案内役として騎士が来ると説明にはあった。


 騎士さんはいかめしい顔つきで僕たちを観察している。鎧をまとっていることもあいまって、なんだか威圧感がある。ちょうどご飯を食べた後の昼下がりで、普通なら気の緩みそうなものだけど、集まった冒険者が緊張感を漂わせているのは騎士さんのせいもあるかもしれない。


 絡まれると大変なことになりそうなので、僕は騎士さんから視線を外す。時間になれば何か説明があるはずだし、それまで大人しくしていよう。


 それから少しして、続々と参加予定の冒険者たちが集まってくる。それに混ざって、サシャちゃんとアトラ君もやって来た。


「セージ先輩、お待たせしました! 姉さんが準備に手間取っちゃって」


「アトラ、余計なこと言わないでください」


「なんだよ、僕が手間取ったらすごく怒るくせに」


「あ、あはは。時間に間に合ってるし、気にすることないんじゃないかな」


 僕は苦笑いを浮かべて仲裁に入る。やっぱり買い物に時間がかかるのは女の子の常なのかな。


 先ほどまでのフルルを思い出していると、隣のフルルからじとっとした視線を向けられる。僕は慌てて話を変えた。


「そ、それより、もうずいぶん集まってるみたいだね! Cランク冒険者の人ももう来てるのかな?」


「弱そうな人しかいないから、たぶんきてない」


「ち、ちょっとフルル! 周りに聞こえる声で言わないでっ」


 ひどい発言をしたフルルのせいで周囲から棘のある視線を向けられる。血の気の多い人だと喧嘩になることもあるんだから、そういうこと言わないでよ!


 僕は愛想笑いしながら周りに頭を下げる。みんな明らかにむっとした顔をしていたけれど、依頼の前ということもあってか怒られずにすんだ。もしこの中にCランクの冒険者がいたら、まずいことになってたと思う。


 ほっと胸を撫でおろす僕と平然としているフルルを、サシャちゃんは冷めた目で見る。ぼ、僕は悪くないのに。


 年下の女の子に冷たい視線を向けられて落ち込んでいると、なんだか辺りがざわついてきた。今ここにいる冒険者は若い人たちが多く、駆け出しといった感じの子も複数いる。そんな彼らが、一つの方向を向いてひそひそと話をしている。


 なんだか、あまり好意的な言葉は聞こえてこない。僕たちは彼らの視線の先を追った。すると、こっちに向かって歩いてくる三人の冒険者が見えた。


「あの人たちは……」


 僕は彼らに見覚えがあった。あれは初めてアルドの冒険者組合に訪れた日だ。なんだか柄が悪くて、できれば近寄りたくないなと思った冒険者たちを思い出す。


 大きな体で周囲を威圧しながらやって来た冒険者ガイが、集合した冒険者たちを見て口を開いた。


「はっ、また弱そうなやつらが集まったな。Cランクの俺のおこぼれにあずかろうってか」


 鼻で笑って、それから案内役の騎士さんのほうを向く。


「おい騎士さんよ、俺が今回集まった中で一番ランクの高い冒険者だ。討伐は俺が仕切るってことでいいよな?」


「……私はお前たちがしっかり依頼を果たすかの確認役だ。討伐に直接関わることはない。冒険者は冒険者で好きにすればいいだろう」


 騎士さんはどこか侮蔑の色が乗った視線をガイさんに向ける。気に入らなさそうに鼻を鳴らしたガイさんは僕たちに向かって言った。


「はっ、分かったなお前ら。リーダーは俺だ。俺の足を引っ張らないよう、必死で働けよ」


 まさに傲岸不遜といった感じで言い放つ。不満がありそうな若い冒険者を睨みつけたガイさんは、分かったな、と再び脅しつけるように言った。


 フルルが「うざ」とこぼす。けれど、他の冒険者たちはなにも言えない。


 そうして場が静まり返ってしばらく。時間になったことを告げる騎士さんに従って、僕たちは街の外へと向かう。ガイさんたち以外の面々は、みんなどこか重苦しい雰囲気に包まれている。


 あぁ、なんだか依頼が始まる前から不安だらけだ……。


 僕はこの依頼の行く末を心配しながら、みんなに合わせて足を動かすのだった。



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