9 ギルさんの遺言
ニノ鐘のちょっと前に冒険者キルドに着いた。元気よく挨拶する。
「おはようございます。」
メアリーが、
「早速行きましょうか。」
二人で商業ギルドのある南門に向かう。聞いておきたいことはいっぱいあったから、道中いろいろな話をしたが、怪しまれない程度にした。それに、自分の話もしておいた。
やっぱり、カナについて聞かれた。突然妹がいなくなったので疑問に思っていたようだ。当然だ。
「私とカナは血は繋がっているのですが、親は違います。私の両親はすでに亡くなりました。それでカナの親に引き取られて育ったんです。ある日詳しいことは言えないんですが、ある事件が起こり私とカナはここに転移させられたんです。」
メアリーは驚いたようだ。が、何も言わない。
「私の国は海に囲まれた島国なんです。だからどこに移転したか分からなくて、何も持っていないし、どうしようかと困っていた時にマックス様にあって本当に助かりました。それからはご存知の通りです。でも転移してから一か月後ぐらいにカナに迎えが来たんです。事件は解決したけど色々あってカナしか帰れないって。だからお願いしたんです。あと一ヶ月だけカナとを過ごしたいって。姉妹のように育ちましたから、もう少し思い出が欲しかったんです。そしたら生活費をもらって一ヶ月後に迎えに来るからって言われたんです。それでカナは帰って行きました。寂しかったけど、カナだけでもか帰れてよかったなって思えて。そう思える自分が嬉しくって・・・。」
泣いてしまった。メアリーは黙って聞いてくれ背中をさすってくれた。人の手って暖かい。
「この町の皆さんはマックス様はじめみんな親切です。だからここで生きていけるって思ったんです。」
泣いたのが恥ずかしくって『えへっ』と笑って誤魔化した。
「頑張ったんだね。何かあったら相談に乗るから一人で抱えないでね。」
それでも、言いにくそうに、
「転移魔法ってものすごく珍しいけど、あなたの国の人は使える人がいるのね。」
「その人だけです。それも頻繁に使えなくって。何でも星やら方位やらを計算して用意を十分にして行わないといけないって話です。魔力も使うし、私が帰れないのは家の事情もあるんですが、三人同時は無理な上に色々重なって、しばらく転移魔法が使えないって理由もあるんです。」
しんみりとしてしまったが、商業ギルドに着いた。
冒険者ギルドは剣との盾の看板だが、商業ギルドは馬車だ。もともとは多くの商人が馬車で町や村などを行商していたからだとメアリーに説明された。
商業ギルドでは副ギルド長が対応してくれた。
死んだ彼の名はギル。
「ギルには妻と子がいたんですが亡くなっています。元々夫婦とも孤児だったので親族はいませんし、従業員も雇っていません。それで彼の遺言がありまして『もしも死んだ時には第一発見者に全財産を譲る。』そうです。これが彼の全財産です。確認してください。これは当ギルドで確認したリストです。」
副ギルド長はテーブルに袋と木簡二つを置いた。
きょとんとしていると、メアリーの助け舟があった。
「これはマジックバッグですね。バーバラ、この袋に手を入れてみて。」
手を入れるとお金や食料などいろいろな名詞の羅列が頭に浮かんだ。
「頭に浮かんだものがバッグに入っているわよ。一応木簡のリストと照らし合わせて頂戴。」
リストはかなりあった。その中に鍵があった。
「リストはすべてあります。その中に鍵があるんですが、これは?」
「ギルの家の鍵です。鍵もマジックバックに入っていました。ギルの財産はマジックバックとその中の物です。あと家と家の中にあるすべての物と、商店の継承です。馬はいませんが馬車もあります。」
商店の継承はお店をする権利だ。商いをするには商業ギルドに必ず登録しなければならずお金がかかる。店を構えるにはもっとかかると説明された。
「ギルは家庭を持ったときに店を構えることにしたのです。元冒険者で、その時にかなりお金を稼いだようです。このマジックバッグもその時のものだそうです。子供も生まれ将来のために少しずつ準備をしていました。叶いませんでしたけど。」
「バーバラ。自分がこんなに貰っていいのだろうかと思っているでしょうけど、ギルの意志でもあるのよ。ギルのためと思うなら頂きなさい。放棄しても商業ギルドや国が潤うだけだから。」
相続人がいない場合は主に国庫に入る。だから商人や冒険者は自分の意志をはっきりしておく。生きている時に税を取られ、死んだら財産を取られるのは腹立たしいらしい。
お金は必要だし、家があるのは好都合だ。日本食や生活を便利にしたいと思っていたので受けることにした。
「いただきます。ただギルさんのお墓はどうなるんですか。奥さんやお子さんのお墓はどこにあるんですか。」
せめて一緒に埋葬してあげたい。できるのはこんなことだけだから。
「お墓?」
副ギルド長とメアリーが困惑している。
「あの~、死んだらどうするんですか。」
「島国出身のあなたのところは違うのね。この国では遺体があれば燃やして骨を砕いて親族に引き渡すことになるわ。その後は家族の気持ち次第ね。一般的なのは畑に撒いているわ。なぜかその年は撒いた畑だけ豊作になるらしいの。骨をそのままにしたら、まれにだけど魔物になってしまうことがあるの。時々森の中で骨だけ動いてたって目撃があるのよ。ごく一部なんだけどね。貴族は骨まで燃やし尽くしてしまうらしいけど、それだけ魔力を使うから一般人は骨を砕くのが一般的よ。」
「ギルが奥さんや子供の骨をどうしたかは知らない。ギルはすでに燃やされて骨は砕かれているがどうする。」
もしかしたら、家に奥さんやお子さんがいるかとも思ったから、引き取ることにした。副ギルド長がギルの骨の粉を持ってきてくれた。簡単な箱に入っている。
後はリストにあるものとすべて受け取ったとの内容の木簡にサインして終わった。サインしたのが木簡だったのは、終わったら1年後には消してしまうから。リストのすべてとなっているのは、詳しく記載するとのちのちに受け取った人が狙われる可能性があるから。全てのリストが書いてある木簡はすぐに削って消してしまうようだ。
今ギルの家は商業ギルドの人が物取りに入られないよう監視しているらしい。でも今日からはその監視がつかなくなる。防犯を考えた方が良いと言われた。
そこで引き継いだ商業ギルドカードにギルのお金すべてを預けた。まだ神様のお金があるから大丈夫だ。
家の場所を聞いてメアリーに付き合ってもらう。
「あの~、私用でこんなに長い時間付き合っていただいて大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。これも仕事よ。特に今回はスタンビートの予防報告者の保護っていう名目があるから、融通が利くの。それよりここみたいよ。結構いい場所にあるわね。」
二人はギルドの職員らしき人に声をかけられたので受け取り状を渡す。受け取った人はニッコリ笑って帰っていった。仕事完了らしい。
ここが、私の家になるんだ。一人ではちょっと寂しいけど、私の城ができた。持っていたギルの箱に感謝した。
ギルの家はどうなっているんだろう。ドキドキする。
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