8 門外、外出禁止
冒険者ギルドのクエストで東門は使えなさそうだ。何をしよう。
まだお金はあるから魔法の練習でもしよう。料理もしたいけど、宿だから日本料理もどきを作ったら目立ちそうだ。やっぱり魔法の練習しかないと思う。
でも、ある疑問が。
家族がいるのに、死んだ人の持ち物が私のものになるの?考えてもわからないからメアリーに聞いてみよう。
まあ異世界転生本ではテンプレだったけど、家族はそれでいいのかなあ。ここは現実社会だよ。
いつも東門を利用していたので、今日は南門を利用する。西門はスラム街だ。まだちょっと怖い。南門の先に森が広がっている、南の森という。東門の森は東の森、西門の森は西の森、北門は北の森。単純で覚えやすい、助かる。南の森はなぜか魔獣が少ないし、薬草類もあまりない。だから冒険者もいない。東門に向かって畑はあるが、湖にまでは来る人はほとんどいない。魔法練習には持って来いだ。ただ昨日の今日なので外へ出るのを止められた。
魔獣騒ぎで一般市民と初級の冒険者は門の外へ出るのを禁止されていた。『すでに討伐隊は出発しているので我慢してくれ』と言われてしまった。なので冒険者ギルドで街内でできる仕事を探すことにする。ついでに死亡者発見時の決まり事を聞いてみることにした。
ギルド内は若い冒険者でごった返していた。上級の冒険者は討伐や東西南北の森へ調査に向かっている。
ギルドに集まっている人は門の外へ出られない人たちだ。その人たちは大声で文句を言っている。分かっているがどうしようもないのも分かる。だからギルドがはけ口になっていた。
ギルドの職員たちは慣れたもので、今日の食い扶持がないと叫ぶ者に街の中の仕事を紹介する。力仕事が多く動物や魔物を狩ってくるほうが儲かるので、みな文句タラタラだ。でも、生活がかかっているので文句を言いながらもギルドを出て行く。
お金に少し余裕のあるものは酒場で控えめにお酒を飲み騒いでいる。最悪の場合は魔物から町を守るためにギルドに居る。
そんな様子にバーバラは出直そうかと思案していた。
「バーバラ、いらっしゃい。」
ギルドのカウンター内から声をかかる。いつも親切に担当してくるお姉さんのメアリーだ。実はバーバラの娘に近いけどね。
「忙しそうですね。私にできるクエストとちょっとお聞きしたいことがあったのですが、質問は後にします。」
「いいのよ。騒がしいけどいつもより暇なのよ。で質問は?」
「昨日のことでちょっと確認したいことがあって。」
「まあ、じゃあ別室に行きましょう。」
六畳ぐらいの部屋に案内された。
「昨日は大変だったわね。でも、おかげで早くに発見できて助かったわ。それに町に近いところだったから、早めの対応が取れて大事にならないで済んだの。改めてお礼を言わせて、ありがとう。」
「いえ、偶然です。討伐は大丈夫ですか。」
「ええ、魔物はそんなに強くはないんだけど、かなり団体数が多いらしいの。でも兵士と冒険者で何とかなるはずよ。で、質問は?」
「発見者がその人の財産を全てもらえるって聞いたんですけど。」
「そうよ。ただし発見場所の持ち物ね。それは家族がいてももらえるわ。」
「家族がいてもでしょうか。」
「そうよ。だって発見されなければ行方不明者でずっと中途半端なままでしょう。それに発見者を優遇しないと荷物だけ取って報告もしなくなるわ。遺体じゃなくても冒険者カードや商業ギルドカードだけでも持ってきてもらわないと。権利はないけど遺族はどうしても欲しい遺品は買い取りになるわ。たまに殺してぶんどる輩もいるけど、そこは厳しく取り締まるわよ。それに今回は家族は一人もいないらしいから、あなたは黙って受け取ってあげて。商業ギルドカードを持っていたので、手続きは商業ギルドが引き継いでいるわ。明日には手続きできるそうよ。商業ギルドへ行ってもらうことになるけど、いいかしら。」
一人でも大丈夫そうだけど、ここは頼ろう。
「初めてのことですし、商業ギルドも行ったことがないので心細いです。」
「そうよね。じゃあ、私が付き添うわ。」
「ありがとうございます。」
メアリーに相談した後、バーバラでもできる仕事を紹介してもらった。
「いらっしゃいませ。」
冒険者ギルド内の酒場だ。未成年なので夕方の鐘が鳴るまでだ。ポケット二つのエプロンをつける。一つのポケットには釣銭が、もう一つは料理名の書いてある薄い板が入っている。注文を聞いたらお金をもらい料理名の書いてある板を厨房の箱に入れる。箱はテーブル数あり番号が書いてある。出来上がったら板を取り出しテーブルに持って行く。料理は全部同じ金額だ。簡単なシステムで間違いが少ない。ただ支払ったお金を多く言い、釣りをよこせと騒ぐものがいるので注意してくれと言われた。日本でも話題になったことがある釣り銭詐欺だ。
「俺は5銀貨一枚を渡しただろう。釣りをよこせよ。」
出会ってしまった。冒険者ってピンからキリまでいるようだ。
「お客さんはちょうどのお支払いでしたから、お釣りはありません。」
「ああ、お前の勘違いだろ。」
バーバラが子供だからうまくいくと思ってニタニタしている。そうは問屋は卸さない、だってバーバラは57歳だ。
「頂いたお金は右のポケットに入れました。右のポケットにはこの1銀貨しか入っていません。ご注文いただいた料理は1銀貨です。だからお釣りはありません。」
「俺が嘘ついてると言ってるのか。俺は6級の冒険者だぞ。」
「いいえ、お客様の勘違いではないでしょうか。6級の冒険者の方が嘘をついているとは思えませんので、よく思い出してください。」
隣の冒険者の人が笑いながら口を挟んできた。
「ああ、こいつの勘違いだろう。こいつ結構お馬鹿でさ。しょっちゅう間違いを起こしてるんだ。悪かったな。」
「いいえ、わかっていただけて良かったです。皆さんにもお騒がせして申し訳ありませんでした。」
ちょっと怖かったが無事に済んだ。奥で心配そうにしていた料理長兼支配人によくやったと小声で褒められた。
その後は何事もなく終わり、本日の日給をもらった。
「明日も昼時はよろしくな。」
と声をかけられた。仕事を認められるって嬉しいな。翌日もギルドの食堂でホールのお仕事だ。日本ではデスクワークがメインで、ずっと動きっぱなしの仕事はしたことがなかったので、ちょっと疲れた。やっぱり10歳の体力のなさを痛感した。
仕事の終わりにメアリーから声がかかる。
「バーバラ。明日商業ギルドに行くから、二の鐘までにここに来て。」
「はい。よろしくお願いします。」
一の鐘は日の出の時間で、二の鐘は仕事始めの時間を知らせる合図だ。
宿に戻る道すがら夕食を屋台で買う。ここは国境の辺境地域だ。兵士や冒険者も単身者が多いから、屋台とか外食産業は豊富だ。肉は魔獣の肉がメインだ。最初はためらいがあったが慣れた。ただ虫系は未だ食べられない。これからも食べようとは思えない。
あー、日本食が食べたい。せめて醤油があればとしみじみ思う。カナは、ケチャップが好きだったな。フライドポテトには、バーベキューソースではなくてケチャップだったわ。そういえば、娘もそうだった。
「親子でケチャップ派ね。」
笑って言い合っていたな。
今頃は、母子でケチャップのフライドポテトを食べているかも。
(バーバも食べたいよー。)
読んでいただいて、ありがとうございます。




