7 バーバラの一人暮らし
私はバーバラ。二ヶ月前、孫と二人でこのマーズ星に飛ばされてしまった日本人だ。孫のカナは五歳でそのままの姿だが、私は57歳だったのに10歳児に若返っていた。不思議なことがいっぱいあったが、なんとかなった。
名前は孫のバーバの呼びかけでバーバラと勘違いされそのまま定着した。その孫は何とか日本に帰れた。寂しかったが、安堵の方が強かった。私は帰れないらしい。帰れないと言い切ったのは地球とマーズ星の神様の地球神だ。他人に言っても信じてもらえないことをいっぱい聞いてしまった。人に言っても私は変人扱いされるだけだ。
他にも聞いてはいけないことをいっぱい聞いた気がするけれど、凡人の私には頭いっぱいだ。とりあえずこの世界で生きていかなければならない。女神様はお詫びにお金と加護を与えてくれた。さらにいくつか能力を与えてくれた。私は我儘ついでに運がよくなるようにお願いした。女神様は最後に
「できれば・・・。いいえ、自由に生きてください。」
そう残して消えていった。できればは何だったんだろう。
「よ、薬草採りか、気をつけろよ。」
「はい、行ってきます。」
一人になってから冒険者ギルドで薬草の採取のクエストをせっせとこなしている。女神様にいただいたお金はまだあるが、使えばなくなる。少しでも稼がないと生きていけない。
門番さんとの顔見知りになり、みんなバーバラを気にかけてくれる。本人は知らないが、『マックス隊長が拾ってきた子』と認知されている。
バーバラは挨拶すれば挨拶が返ってくる。カナが帰ってから一人になった途端、これが、ことさら嬉しく励みになっていた。
今日はいつもと違う採取場所を見つけようと考えていた。毎日同じ所で収穫していたので少し育ちが遅くなったような気がしていた。今後のことも考えて三か所ぐらいの採取場所を見つけていたかった。だから、いつもより少し街道を歩き細い道を曲がる。気の向くまま、ゆっくり周囲を警戒しつつ薬草を探す。
「ん、」
血の匂いがする。バーバラはさらにゆっくりと血の匂いをたどる。馬車があったが馬はいない。ただ草は血で黒く染まっていて、一方に草が倒れ引きずったような跡がある。
(どうしよう。でも、私は何もできない。)
バーバラは城門に急いで戻った。尋常ではないバーバラの様子に兵士たちが集まる。
「ハアハア…あの……。」
一人の兵士が水を持ってきてくれた。それを飲む。
「ありがとうございます。」
「ゆっくりでいい、何があった。」
「森の中に馬車があって、周りが血まみれでした。」
兵士達の顔つきが変わる。
リーダーらしき人が
「三名を残して状況を確認に行く。すぐに用意せよ。」
いつもは優しそうな人たちなのに戦士の顔つきになっている。
「バーバラ、どの辺りか教えてくれ。」
「この道をまっすぐ行って左への細い道です。」
「細い道はいくつかあるな。何本目の道かわかるか?」
「わかりません。」
「馬には乗れるか?」
「乗れません。」
「私が乗せて行こう。君は隊の指揮に専念してくれ。」
マックスが声をかけてきた。こうして私はマックスの馬に乗り、現場に向かう。ちょっと震えていた。
「すまないな。本当は一般市民でましてや子供を道案内させないのだが、町から近すぎる。万一魔物だったら早めに対処しないとならない。必ず守るから大丈夫だ。」
マックスの言葉に安心するバーバラだった。
馬は日本で数回乗ったことあるが、思いのほか高くて怖かった。やっぱり10歳の身長はまだ慣れない。ただマックスの後ろに乗せてもらったら安心感が半端なかった。人の温もりって良いな、と感じる。
カナはどうしているのか、ななんてちょっと黄昏てしまった。
「大丈夫か?しっかり私につかまっていろ。何なら抱きついてもいいぞ。」
「はい、そうします。」
後ろからマックスに抱きついた。いいよね、私はまだ十歳だからと言い訳する。
「あそこの道です。ちょっと入ると血の臭いがしました。」
リーダーさんが
「これからは徒歩で行く。」
馬は新兵が見る。もちろんバーバラもだ。細い道さえ分かればバーバラに再度悲惨な光景を見せることはないとマックスが居残りを命じた。喜んで馬と一緒に面倒をみられよう。意義はない。
暇なので新兵さんにご挨拶した。
「バーバラです。よろしくお願いいたします。」
「俺、イヤ、私はジミーです。15歳です。」
ついでに色々聞いた。
ジミーはこの街出身で親は母親のみ。父も兵士で任務中に魔物に殺された。母親は門兵さんの食事を作っている。殉職した兵士の奥さんは、大体門や領主館の仕事に就いていて、子供達はほとんど兵士になるらしい。これも福利厚生の一種かも。
驚いたことにジミーはあのガキ大将と幼馴染だった。
「あいつは十歳のとき代官だった両親が死んで変わった。まあ、小さい頃から威張っていたけど、自分は優遇されて当然だと思い始めたんだ。どんどん傲慢になっていって、努力もしないで、俺は特別なんだというようになった。終いには俺は将来領主になる人間なんだというようになり、誰にも相手にされなくなった。俺もついて行けなくなったんだ。」
寂しそうに言う。
あいつ代官の子供か~。育て方が悪かったのか。でも代官から領主ってハードル高くないか。
ほどなくしてマックス一行が戻ってきた。人間以外の足跡がいくつもあり、馬の一部が残っていて魔物と決まった。馬車の中に男性の遺体を発見したらしく、死後5日ぐらいだとか。魔物に襲われたら餌になるのが常だから、一応五体満足で発見されたのは運がいいらしい。怖い世界だ。マックスはこれからが大変だ。街から近すぎるので魔獣討伐をするため冒険者と協力して計画を練るらしい。
門で別れる時、声をかけられた。
「バーバラが発見者だから、あの場にあった者はお前のものだ。調べが終わったら連絡する。あと討伐されるまで外へ出ないで欲しい。外へ行くなら東門以外から違う森へ行ってほしい。」
「わかりました。皆さんも気をつけて、頑張ってください。」
それにしても、カナが日本に帰った後で良かった。こんな経験しなくていいもの。
読んでいただいて、ありがとうございます。




