6 カナとの別れ
今日は、神様の信託のあった日だ。それは、佳苗が日本に帰れる日だが、翔子と佳苗の永遠の別れの日だ。
朝起きてカナの髪をまとめる。今朝は今までに一番上手くできた。
「可愛いよ、カナ。」
「うん、ありがとう。バアバ。」
いい笑顔だ。忘れないよ。
手をつないで城門から出る。街道をちょっと行ったところで森の中へ入る。そこで女神様は待っていてくれた。カナには突然のことだけど、
「カナ、これからママとパパのところへ帰れるよ。よくがんばったね。えらいよ。」
「ほんと?ほんとに?」
「この人と一緒に行けば大丈夫だから、もうちょっと頑張ってね。」
「うん、バアバも一緒だよね。」
「バアバは帰れないの。だから、このお手紙をママとジイジに渡してね。バアバのお願いよ。できるよね。」
「バアバと一緒がいいよ。一緒じゃないといや~。バアバと一緒がいいよー。」
「バアバはね、大きいからママの所へ行く道を通れないの。だから佳苗にお手紙を持って行って欲しいの、お願いよ。」
・・・・・。
「バアバのお願いね。頑張れるよね。」
「…うん。カナ、ちゃんとお手紙渡せる。頑張る。」
泣きながら頷く佳苗を抱きしめる。佳苗の温もりを消して忘れない。
手紙は女神様にお願いして地球の紙を用意してもらった。本当はいけないことらしいけど、
「今回は神のミスだから特別ですよ。」
「ありがとう神様。さすが神ですね。」
佳苗は、女神さまの手を握り、振り返りながら光の道に消えて行った。翔子は手を振りながら、ずっと、ずっと見送っていた。佳苗の最後の姿を忘れないように、目に焼き付けた。
* * * * *
「この道をまっすぐ行けば人がいます。その人にバアバから言われたことを話しなさい。そうすればママの所へ帰れます。ちゃんとできますね。」
涙をこ笑え『うん』とうなずく少女は佳苗だ。
ママに会える、帰れる、との思いで駆け足になる。手にはバアバから託された手紙を握りしめている。
佳苗を保護した男性は交番のおまわりさんだ。さすが女神様いろいろ考えている。佳苗はおまわりさんに、
「あのね。カナは佳苗。ええと、いとうかなえ五歳です。ママの名前は
いとう・・・。パパはいとう・・・です。あのね。これ・・・。」
差し出された手紙のようなもの。それを読んで確信したおまわりさん。
今にも泣きそうな女の子はここ二か月話題の子だ。全国に捜索願いが出され、連日マスコミも取り上げている、今一番有名な子だ。おまわりさんはすぐに本部に連絡した。
「パパやママには連絡したからね。もうすぐ会えるから待っていようね。よく頑張ったね。」
その言葉で佳苗は崩壊、大声で泣き出した。おまわりさんに抱っこされ安心したのか寝てしまった。しかし、起きるとすぐに、
「ママは?」
「今一生懸命ここに向かっているよ。もう少し待っていようね。」
またもや泣きそうだが、うんと健気に答える。そして手紙を抱きしめる。
「カナエちゃん、一緒にいたおばあちゃんは?」
「バアバ、うわーん。バアバーーー。」
バアバの事を思い出し、またや大泣きだ。その時、
「カナちゃんーー。よかった、良かったー。」
「ママ、ママ、ママーーー。ウワーン。」
親子共々、周りの人たちも泣いている。
「あのね、バアバが…。バアバが…あのね、これ。」
手紙をママに渡す佳苗は涙がいっぱいである。
手紙には、佳苗の名前や両親の名前、住所、携帯番号があった。翔子のもある。そして翔子の手紙が書いてあった。
【とんでもないことに巻き込まれました。カナちゃんしか戻ることができません。私は一応元気に過ごしています。
カナちゃんの話は信じられないことが多いと思いますが、真実です。また、この二ヶ月のことは徐々に忘れていくようです。守ってあげてください。
私は帰れません。お父さん、今までありがとう。一人になっても頑張ってね。子供たちは各々の幸せを願っています。カナちゃん元気でね。
小林 翔子】
* * * * *
バーバラは、カナと別れた後すぐに教会に行った。礼拝堂で祈っていると声が届いた。
「あなたの孫は無事親元に戻りました。多少煩わしいことが続くでしょうが大丈夫です。私の加護を与えました。幸せな人生を送れます。安心してください。あなたにも加護やこの世界で生きている力を与えました。これは神々の贖罪です。そして、この世界を自由に生きてください。迷惑をかけました。」
よかった。あの子は帰れた。娘の元に帰れたと思うと、寂しさより嬉しさがこみあげてきた。
「私は大丈夫。十歳だけど50年以上の人生経験があります。女神様、私は自由に生きてみます。加護をありがとうございます。心強いです。」
日本人の小林翔子は思いかけず地球の双子星であるマーズ星に転生した。マーズ星の名はバーバラである。バーバラは新しい人生を歩むため教会を跡にした。
「頑張るぞー。」
読んでいただいて、ありがとうございます。




