4 孤児院脱走
バーバラは、冒険者に登録できたことで、孤児院の仕事をおろそかにするつもりはなかった。
また、週休二日が当たり前の日本の習慣に慣れ切っていたバーバラは、週一日ぐらいは孤児院の仕事を休み冒険者として仕事がしたかったし、出来ると思っていた。
しかし、その考えがこの世界では通用しなかった。
またまた、ガキ大将が喚く。ガキ大将曰く、
「何もしてない奴が何が休みが欲しいだ。何様だよ。」
(あんたこそ何様だよ。何もしてないのはお前だろう。もう14歳なのにアルバイトに行っては先様と衝突して院長やシスターが謝罪に行ってるだろ。文句だけは一丁前だ。自覚しろ。それに今日のスープの中をよく見ろ。)
今日は冒険者登録の帰り、冒険者ギルドの解体場にたまたま行った。迷子とも言う。売り物にならない堅い食肉が捨てられようとしていた。さらに売り物にならないふかふかな魔物の毛付きの皮があった。その場で交渉して、すてるだけだから無料でオッケーだった。固い食肉と二枚のフカフカの毛皮をゲットだ。
「ウンショ、ウンショ。」
重そうに担いでいたら優しいお兄さんが手伝ってくれた。まあ全部持ってくれたんだけどね。だからカナと手をつないで帰ってこれたお兄さんに感謝だ。そしたら、何とお兄さんはこの孤児院卒業だった。みんな顔見知りで懐かしそうだ。で、お兄さんは硬い肉が気になるようで院長先生から食事に誘われたら嬉しそうだった。
肉はシスターたちに『こんな硬い肉』とけげんな顔をされたが、草を入れないならと料理を作らせてくれた。硬い肉を根気よく叩いて叩いてひき肉にする。それに小麦粉を混ぜる。玉ねぎは少々、仕方ないよ食材は貴重だ。それを丸めてスープに投入、肉団子スープだ。調味料は塩だけだけど出汁が出て美味しいはずだ。塩も岩塩だけのようで全般に薄味だ。この世界発展している分野もあれば原始的なところも結構あって、戸惑うことが多い。
「いただきます。」
バーバラが作ったことで警戒気味だが、冒険者のお兄さんが躊躇なく肉団子をパクリ、好奇心が旺盛のようだ。
「美味い‼」
その一言で皆が食べ始めた。久しぶりの肉でうれしそうだ。やっと役に立ったかと思いホッとしたら、お兄さんが
「あんな固い肉がこんなに美味しいなんて、すごい料理の天才だ。嫁に来ないか。」
今、プロポーズされた。私まだ十歳なんだけど。
シスターが、
「バーバラ、考えることはありません。この子は嫁に来ないかが口癖なんです。軽い言葉じゃないのに独り立ちしても変わらないのね。」
なんだ冗談か。お断りだけど。どうやって断ろうかと真剣になったんだよ。損した。
ここでやっぱり出たよ、ガキ大将。
「俺の肉団子が小さい。バーバラ、お前わざとだろう。」
(こいつカナより子供だ。いや赤ん坊に近い。スープをよそったのは私じゃない。そんな芸当をできるはずねえだろう。本当に大嫌いだ。)
プツンと何かが切れる音がした。
「いつもいつも私達のことを役に立たないとか馬鹿にして。あんただって同じでしょ。働きに行っても問題を起こしてまともに仕事したことある?私の料理に文句があるなら食べなきゃいいでしょ。」
「俺は中央区にいたんだ。東区なんて来たくなかったんだよ。親に捨てられたお前たちとは違う。」
「じゃあ、なんで東区に来たのよ。中央区から追い出されたんでしょ。もう少しで成人だよ、自覚しなさいよ。」
「ストーップ。」
お兄さんの一声だ。
「飯が不味くなる。ケンカなら食事の後にしろ。」
バーバラはスープをすする。楽しい気分が台なしだ。ガキ大将は文句の割に肉団子を食べている。おかわりしようとさえしている。
(食べるんじゃねえよ。)
誰もが黙って黙々とスープをすすっている。そんな中、お兄さんが
「あんな堅い肉が美味くなるんだ。この料理を俺も作っていいか。あんまり広めないようにするからさ。」
もちろんOKだ。広めてもいいのに。
食事の後、院長室に呼ばれた。
「バーバラ、今日の食事は美味しかったです。子供たちも久々の肉で喜んでました。ありがとう。ただ、あなたは問題を起こしすぎです。相性の合わない子もいるでしょう。でも、ここに来てもうすぐ一ヶ月だと言うのに、まだ周囲に馴染めていません。もう少し皆と仲良くしようと努力してください。カナの為でしょうが、過保護過ぎます。このままだと姉妹で別々に生活することになる可能性があります。よく考えてください。」
目の前が真っ暗だ。カナと別れる、そんなの考えられない。
いつの間にかカナを抱きしめながらベッドにいた。頭の中は堂々巡りだ。
どうしよう?カナとここを出る?だけど、あてはない。
マックス様にお願いする?だめだ。ここを紹介してくれたのに、私たちは問題児のようだ。
この世界の常識も知識もない。カナがもう少し他の人になついてくれればと思うけど、まだ五歳だ。日本と全く異なる世界に慣れるはずがない。ましてや両親から突然離されて、カナには祖母である私しかいない。異世界人だって言っても信じてもらえないだろう。でもマックス様なら・・・。ダメだ。まだ信用しきれていない。どうすればいい……。どうしよう……。
カナと離れるならと孤児院を出ることをバーバラは決意した。冒険者登録できていたことが大きい。最悪寝床はなくても食べられるお金を稼げばいい。それならすぐに出て行こう。とりあえず朝まで礼拝堂にいれば見つかりにくい。みんなが起きる前に抜け出せばいいんだ。荷物はほとんどない、着替えが一着とカナのためのおんぶ紐(捨てる布をつないで作った自作品)ぐらいだ。
そ~~と、そ~~と。
「どこへ行くの?」
隣のベッドのドロシーが声をかけてきた。ドキドキしながら、
「カナがトイレだって、行ってくるね。」
焦ったけどうまく礼拝堂にたどり着いた。ここに来るまでに干していたなめした毛皮も持ってきた。これは硬い肉をいただいたときにモフモフふかふかな動物の皮が捨てであったから二枚無料でいただいてきたものだ。ちゃんと了解は取ってあるから大丈夫、盗んでないよ。そんな毛皮を優しいお兄さんがなめしてくれた。本当はもっと干して乾かすらしいけど、そんなこと言ってられないので回収した。それを床に敷いて二人で寄り添って寝た。この世界に飛ばされたのが9月だからもう10月だ。まだ暖かいから助かった。
季節は地球と同じようだ。
朝、子供たちが掃除に来るまでにここを出なければならない。
教会も含め清掃は孤児たちの仕事だ。バーバラはここを掃除した時にちょっとした隙間を見つけていた。神様を祀ってある壇上に行く階段の一番下の横板が取れるようになっている。そこに毛皮とかかさばる荷物を押し込んでおける。多分見つからない。でもロッカー代わりに使うから神様にご挨拶しよう。そして今後の事をお願いしよう。
そこは日本人だ。『困った時の神頼み』だ。
カナと一緒に二礼二拍手一礼、ここは神社じゃないけど気は心だ。いいよね。
こんな事情でバーバラとカナは夜の教会の礼拝堂にいることとなったのだ。
「神様、よろしくお願いします。」
すると・・・。
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