部位によってはめっちゃカッコ良くなる問題。
ボーイズラブです。苦手な方はご注意を!
小さいが趣味の良い部屋の中、お茶する美青年がふたり。甘い湯気の立つティーカップ、紅茶には香り立つシナモン酒をひとたらし……、
シナモンスティックをブランデーに漬け込んでこしらえた自作のシナモン酒の香りが、アールグレイの紅茶の湯気と入り混じって立ちのぼる。
お茶に合わせて選んだお茶菓子のブランデーケーキをたしなみつつ、ヴェリアという名の青年が、相手にあくまで軽いノリで持ちかけた。
「――つきあってみる? おれら」
ずいぶん仲の良い友人どうし、いきなりなお誘いに引くこともなく、アンディという青年はカップ片手に即答する。
「や、お前とはつきあえない」
「え、なんでよ? 大体お前、おれどころか誰とも深くつきあわんだろ。『美形の鉄板童貞』って裏でウワサされてんぜ?」
「ああ!? ぼく、んなこと言われてんの!?」
「そーよ、だからその汚名をそそぐためにもー、このおれとつきあってみよーぜ、なあ?」
「そんなお軽い言い方で誘われてもなぁ……」
言いよどんだ美青年が、ちょっとうつむいて考え込む。ちらと背の高い相手を上目づかいにうかがうしぐさが、妙に色っぽく見えて。
……見つめられた『恋人候補』が、胸をおさえて思わずつぶやく。
「……お前、そういうの反則だぞ……」
「え、何が? ……つーかそうだな……お前にだけは打ち明けとく。ぼくな、特異体質なのよ」
「特異体質ぅ? ああ、このマジカルな世界でのカッコ良い特性みたいなもん? あ、分かった邪眼とかそーいうの? その目で見られると死んじまうとか……っていや、今ちゃんと目ぇ見て話せてるよな……」
「いや、そーいうんじゃないんだ、いや確かに見ると死ぬんだけどさ……」
「えぇ、マジなん!? あーそれでお前、今まで誰ともつきあわんかったの?」
目の前の美青年はどうしてかぽっとほおを染め、かすかに目をそらし小さくうなずく。そこまで驚く顔も見せず、ショックを受けたそぶりもなく、ヴェリアは軽くうなずき返す。
「……で、どこなん? 見ると死ぬのって」
「――肛門」
「…………こうもん」
白かったほおにリンゴみたいに血をのぼせ、アンディがつっかえつっかえ打ち明ける。あいまに紅茶をすすろうとして、小さくむせったり泣き出しそうに目を潤ませて。
「……つきあわなきゃめったに見ないだろ? 他人のそんなとこ……馬鹿みたいだけどさ、けっこうシャレにならんのよ。この特性でぼくが産まれた病院の医者とか看護婦、そこそこおおぜい死んでんの」
「……お前の……その、そこを見たから?」
「そう……ぼくん家はもともと母子家庭で、母親は生まれつき目が不自由だから、それがかえって幸いしてさ……もし母さんの目が見えてたら、ぼくのおむつ替えでとっくのとうに死んでたよ」
「……そんで……お前は、今まで誰とも……」
「――なあ、馬鹿みたいだろ? 邪眼の方がよっぽど良かった、こんなカッコ悪い理由で……好きな相手とも、お前とも……一生、一緒になれないなんて……!」
やぶれかぶれの告白に、ヴェリアは赤い目を見張り……それからどこか泣き出すように、しみじみとした笑みを浮かべる。
「……じゃあおれも、お前に打ち明ける。おれな、悪魔とのハーフなんだわ」
「…………は?」
「さすがにこんなマジカルちっくな世界でも、悪魔とのハーフなんてあんまり良い顔されないだろ? おれが産まれて数百年、差別もだいぶマシにはなってきたし、ここいらの地域は反応穏やかな方だけど……この独特の赤い目で、いろいろ苦労もしてきたんよ……」
紅玉のような赤いあかい目を潤ませて、ヴェリアはしんしん言葉を重ねる。
「悪魔の血の混じったこの身、何の得することもない……そう思って生きてきたけど、今初めて『自分』で良かったって思ってる……」
そう言っていきなりふっと手を伸ばし、アンディの背にその腕をからめ抱きしめて、悪魔とのハーフは耳もとで潤んだ声でささやいた。
「……お前の特性は、悪魔の血の混じったこのおれには、多分効かない……」
「……そんな、そんなこと言って、万一死んだらどうすんだよ! こんなくだらなすぎる理由で、もし死んじまったらいったい……」
「――それでも良いさ。最期のさいごに、愛しいひとの腕の中で死ねるんだ……」
「……ひとの尻を見るの見ないのって問題なのに、言うことカッコ良すぎるだろうが……!」
ふたりは思わず吹き出して、吹き出しながら抱き合って、くちびるとくちびるを重ね合って、そのままふたりで夜を過ごした。
――翌朝、ふたりはちゃんと目覚めて、それから半年つきあって、その地でめでたく結婚した。
悪魔のハーフの精を受け、パートナーと同じくらい長寿になったアンディはいつまでも美しく若々しく、今でもちょいちょい『夜のお誘い』をかけてくる不埒者がいるが……、
そのたびヴェリアは悪魔じみた半笑いをほおに浮かべ、「こいつの尻見たら死にますよ?」ときっぱりはねつけるものだから、真っ赤になったパートナーに家に帰ってからめっちゃお叱りを受けている。
小さな部屋が中くらいの家になり、やがて巨きな屋敷に住みかえ……今までの数百年の人生をつづり、名うての作家になったヴェリアと、今夜もアンディはお茶を飲む。
熟成されたシナモン酒をティースプーン一杯たらして、アールグレイの香り立つ湯気の立ちのぼる中、語り合うふたりは『少しうがったおとぎ話の主人公たち』のようだった。




