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13.泥沼の決着と、ロマンを粉砕するガチ勢の流儀

 学園の中庭で行われている、私と闇堕ちしたヒロイン・マリアンヌによる魔導決闘コンフリクト


 お互いに相手の行動をひたすら妨害札カウンターで打ち消し合う泥沼の応酬の末、私は闇マリアンヌの強固な伏せカードと置物(魔石像)を突破し、鎌を持った『暗黒の処刑人』が不気味に佇む盤面でターンを終えた。


「くっ……!オレの、マリアンヌとの絆のメタビート盤面が……!よくも、よくも蹂躙してくれたな!」


 闇マリアンヌは、憎悪に満ちた三白眼で私を睨みつけながら、震える手でデッキのトップに指をかけた。


 彼女のMPはカウンター罠のコストで半分になり、残りは2000。対する私のMPは3000。リソースの削り合いは、私の優勢で中盤戦を迎えている。


「ふふ、蹂躙とは人聞きの悪い。私はただ、貴方の『嫌がらせ』を、より高度な『嫌がらせ』で上書きしただけですわ。さあ、貴方のターンですわよ。手札も伏せ札もない状態で、何ができるか見せていただきましょうか?」


 私は扇子で口元を隠し、冷酷な管理者の笑みを浮かべた。


 今の闇マリアンヌの手札はゼロ。このドロー一枚で、攻撃力1600の『暗黒の処刑人』が立つ私の盤面を打開し、かつ自分を守らなければならない。ガチ勢の視点から言えば、詰みに近い状況だ。


 しかし、闇堕ちしたヒロインは、カードアニメの主人公さながらの気迫で叫んだ。


「オレのターン!ドロー!!……マリアンヌの想いが、オレに勝利の風を呼んだぜ!魔法カード『闇への誘い』を発動!墓地の闇属性モンスター二体を除外し、山札から二枚ドローする!」


「……チッ。この土壇場でドローソース(手札補充)を引いてきますか」


 レンが舌打ちをした。


 カードゲームにおいて、手札のない状況からのトップドロー(山札の一番上を引くこと)でドロー魔法を引く行為は、まさに「奇跡」だ。これによって、彼女は一気に二枚の手札を手に入れ、戦線に復帰した。


「ふははは!さあ、ここからが真の闇のショータイムだ!オレは引き当てた二枚のカードのうち、一枚を召喚!現れろ、このデッキの真の切り札!『封殺の闇精霊』!!」


 ドクンッ、と。


 地下闘技場で感じたあの禍々しい重圧プレッシャーが、中庭に再び顕現した。


 フィールドに、黒紫色の霧の中から、巨大な鎌を持った、皮膚が剥がれ落ちたような醜悪な精霊が這い出してきた。


「な、なんだあのモンスターは!?攻撃力が……ゼロ!?」


レンが魔導盤のステータスを見て驚愕の声を上げる。


「ふははは!攻撃力など不要!このカードこそ、貴様のような陰湿な墓地利用デッキを葬り去るための呪物だ!『封殺の闇精霊』が存在する限り、お互いのプレイヤーは、墓地のカードの効果を発動できず、墓地からモンスターを特殊召喚することもできない!」


「……うわぁ」


 私は、思わず真顔でドン引きした。


「それは……某『王家の谷の守護なんちゃら』みたいな、墓地完全メタ効果ですわね。私の『暗黒の処刑人』の墓地からの蘇生効果や、レンの山札破壊デッキの墓地回収効果が、全て紙屑になりますわ」


「その通りだ!セレスティア、貴様の『完全ロック』も、墓地を利用できなければその回転力は激減する!オレはカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」


 闇マリアンヌは、攻撃力0の切り札を立て、伏せ札を一枚追加して、不敵な笑みでターンを渡してきた。


 盤面は、魔法を封じる私の『静寂の魔石像』に対し、墓地を封じる彼女の『封殺の闇精霊』。

 

 お互いに相手の戦術の根幹をルールで縛り合う、まさに「泥沼の拘束具デスマッチ」の様相を呈してきた。


「私のターン、ドロー!……ふふ、なるほど。墓地を封じれば、私が身動きできないと思いましたの?」


 私は引いたカードを確認し、くすくすと笑った。


「闇マリアンヌ、貴方の戦術は確かに性格が悪い。ですが、一つ致命的なミスを犯していますわ。……貴方の『封殺の闇精霊』は、攻撃力が『ゼロ』ですのよ」


「……は?」


「バトルフェイズ!『暗黒の処刑人』で、『封殺の闇精霊』を攻撃!」


 攻撃力1600の処刑人が、鎌を振り上げ、攻撃力0の精霊に襲いかかる。


 戦闘ダメージ計算式:1600 - 0 = 1600。


 これが通れば、闇マリアンヌのMPは残り400。勝利は目前だ。


「ヒャハハハ!そんな単純な攻撃が通ると思っているのか!罠カード、オープン!『呪いの身代わり像』!相手の攻撃宣言時、自分のフィールドのモンスターを生け贄に捧げることで、その攻撃を無効にし、相手のMPに1000のダメージを与える!死ね、セレスティア!!」


 闇マリアンヌがドヤ顔で罠カードを弾き開けた。


 彼女は自分の『封殺の闇精霊』を生け贄に捧げ、私の攻撃を止めつつ、私のMPを削ろうというのだ。墓地メタ効果は消えるが、この場を凌ぎ、私のMPを奪うことが優先という、冷徹な判断。


「……なるほど、自分の切り札を身代わりにしてでも、私のMPを削りにきますか。性格が悪いですわね」


 私は扇子をパタンと閉じた。


「ですが、甘いですわ」


「なっ……何!?」


「その罠カードの発動にチェーンして、手札から効果を発動しますわ。……『儚き光兎』を墓地へ捨てて、効果発動」


 私が手札から一枚のカードを捨てると、フィールドに可憐な光の兎の幻影が現れ、闇マリアンヌの罠カードに体当たりをした。


「『儚き光兎』は、相手が魔法・罠カードを発動した時、手札から捨てることでその発動を無効にする『手札誘発』モンスターですわ。……『封殺の闇精霊』は、まだフィールドに存在し、生け贄に捧げられる効果処理の『前』ですわ。つまり、依然として墓地は封じられていますが……手札からの効果は別ですわ!」


 ガチ勢の嗜み、手札誘発パート2。


 相手が完璧だと思ったコンボを、手札から直接妨害して叩き潰す、最高に性格の悪いカウンター。


「ば、馬鹿な……!オレの、オレの完璧な罠が……手札からのウサギに……!?」


 闇マリアンヌが、目玉が飛び出るほど見開いて絶叫した。


 チェーン処理により、私のウサギが彼女の罠を無効にし、破壊する。その結果、彼女の『呪いの身代わり像』は不発に終わり、彼女はMPを削れず、さらに『封殺の闇精霊』は生け贄に捧げられずフィールドに棒立ちのまま。


 そこに、私の『暗黒の処刑人』の鎌が、容赦なく振り下ろされた。


「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」


 攻撃力1600で0への実質ダイレクトアタック


 凄まじい衝撃波が闇マリアンヌを直撃する。


【闇マリアンヌ】 MP:2000 → 400


 彼女は糸の切れた人形のように吹き飛び、学園の中庭の芝生に激しく叩きつけられた。


「……オレの、絆の……極悪メタビートが……」


 闇マリアンヌは白目を剥き、その手から黒紫色の『封殺の闇精霊』のカードが、光の粒子となって砕け散った。


 彼女の中から闇の魔力が急速に抜け、漆黒に染まっていた制服やオーラが、元の可憐なピンク色へと戻っていく。


『勝者、セレスティア・フォン・オブシディアン』


 魔導結界が解除される。


 そこには、元のポンコツヒロインに戻り、尻もちをついて泣きじゃくるマリアンヌの姿があった。


「うわぁぁん!闇の力を使っても勝てないなんてぇぇ!セレスティア様の完全ロックなんて大嫌いですわぁぁん!」


「……お粗末様でしたわ」


私は扇子をバサァッ!と広げ、勝利の美酒(紅茶)を味わうかのように優雅に言い放った。


ロマンや絆、ましてや闇の力などという不確定要素を信じるから負けるのだ。信じるべきは、確率と、相手の全行動を予測して妨害コントロールする緻密なロジックのみ。


 私が、落ちていた『封殺の闇精霊』の(精霊の力が抜けた)カードを拾い上げようとした、その時。


「――素晴らしいッ!!素晴らしい蹂躙だ、セレスティアァァッ!!」


 学園の中庭に、この国で一番不愉快な、ヨダレを垂らした男の声が響き渡った。


「!?」


 振り返ると、そこにはいつの間にか現れていたルキウス殿下が、顔を真っ赤にして恍惚とした表情で、芝生の上にへたり込む私を見つめていた。


「ヒロインが闇堕ちして環境メタデッキを握り、お互いにリソースを削り合う地獄の泥沼コントロール対決……!その極限の状況下で、相手の最後の希望であった奇跡のトップ解決と、切り札のロックモンスター(精霊)を、手札からのウサギ一枚で嘲笑うかのように粉砕する……!」


 ルキウスは、自身の体を抱きしめ、くねくねと身をよじらせながら喘いだ。


「なんと陰湿!なんという徹底的な精神管理ロック!マリアンヌの『愛と絆』を捨てた覚悟すら、貴女の『完全ロック』の前では、ただの心地よい苦痛の前奏曲に過ぎなかった……!ああっ、セレスティア!私も!私もそのウサギで!私の未来を、希望を、根こそぎ踏みにじってくれぇぇッ!!」


「……うわぁ」

「……」


 私とレンは、本気で引いた顔をした。


 マリアンヌをボコボコにしたのに、なぜか王子のドM気質がさらに進化してしまった。もうダメだ、この国。


「お嬢様」


 背後でアンナがスッと、ガトリングガンを構えた。


「もはやあの変態豚は、性癖の特異点を超えました。こちらの『対要塞用の連射式魔導重機関銃』で、物理的に粉砕してまいりましょうか?ついでにあの泥棒猫マリアンヌ野良犬レンもハチの巣にして差し上げます」


「だから!学園内で!戦争を始めるなと!!全員しまえぇぇぇぇっ!!」


 こうして、ヒロインの闇堕ちという世界滅亡の危機(?)は、私のガチ勢としての陰湿なプレイングと、王子のドM乱入、そしてヤンデレメイドの物理介入によって、カオスなオチと共に幕を閉じた。


 私のささやかなカードゲームライフを守るための戦いは、魔導結社よりも、身内とドM王子のコントロールの方が難易度が高いという非情な現実を突きつけられながら、明日へと続いていくのだった。

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