14. 【最終回】悪役令嬢は平穏なカードゲーム(スローライフ)をやめられない
ヒロインの闇堕ち未遂事件から数日後。
ついに、私のささやかなカードゲームライフを脅かす元凶が、王立魔法学園の中庭に姿を現した。
「よくも……よくも我が結社の拠点を物理的に吹き飛ばし、幹部たちからレアカードを根こそぎ奪い去ってくれたな、悪役令嬢セレスティアァァッ!!」
空を覆うほどの巨大な黒竜の背に乗って降臨したのは、漆黒の仮面を被った男。
魔導結社ウロボロスの総帥、その人であった。
強大な魔力に、学園中の生徒たちがパニックを起こして逃げ惑う中、私とレン、そしてアンナの三人だけは、優雅にティータイムのテーブルを囲んだまま総帥を見上げていた。
「ついに親玉のお出ましだ。……で、どうするんだいセレスティア。流石にあのレベルの魔力を持った相手じゃ、真っ当なコンフリクトになる前に殺されるぞ」
レンが、冷めた紅茶をすすりながらボヤく。
「お嬢様」
アンナがスッと、背後から『対要塞用・戦術級魔導ミサイル』の起爆装置を取り出した。
「もはやカードゲームで決着をつける規模ではございません。この学園ごと、あの空飛ぶトカゲと仮面の変質者を物理的に『除外(消滅)』してまいりましょうか?」
「だから! 最終回だからって安易に物理で解決しようとするな!!」
私はアンナのミサイル発射ボタンをギリギリのところで没収し、扇子をバサァッ! と広げて総帥を睨みつけた。
「総帥とやら! わざわざレアカードの束(本体)から出向いてくるとは良い度胸ですわ! 貴方の持つ結社の全資産、この私がコンフリクトで全て巻き上げて差し上げますわよ!」
「ほざけ小娘! 貴様のその傲慢さも今日で終わりだ! オレのデッキには、かつて世界を滅ぼしかけた『特殊勝利』の禁忌カードが眠っている! 今ここで、貴様に真の絶望を――この最強のエクゾディ......」
「――ちょっと待てェェェェッ!!」
総帥の口上を遮り、中庭の茂みから黄金のオーラを纏った男がスライディングで飛び出してきた。
「総帥だか何だか知らんがそれ以上言ったら危ない気がするから止めさせてもらった!!そして、セレスティアに絶望を与えられるのは、この私だけだ! 彼女の【完全ロック】と【手札破壊】という極上の快楽(管理)を、貴様のような三下に味わわせてたまるかァァッ!!」
「な、なんだ貴様!? 第一王子のルキウス……ッ!? なぜここに!?」
「セレスティア! さあ、この邪魔者を放置して、今すぐ私を【メタビート】の泥沼で縛り上げてくれぇぇっ!!」
「……うわぁ」
「……」
私とレンだけでなく、空に浮かぶ総帥(と黒竜)までが、本気でドン引きした顔でルキウスを見下ろした。
世界を滅ぼす大悪党の威厳すら、この王子の性癖の前には形無しである。
「レン、アンナ、王子を押さえておきなさい。視界に入るだけでプレイングのノイズになりますわ」
「御意(物理)」
ドゴォッ! という鈍い音と共にアンナの鉄拳がルキウスの鳩尾に沈み、王子が恍惚の表情で気絶するのを横目に、私は魔導盤を構えた。
「さあ、茶番は終わりですわ。貴方の特殊勝利とやら、私の【パーミッション】で完膚なきまでにへし折って差し上げます!」
「ひ、ヒィィッ! い、いくぞ小娘ェ!」
『――魔導結界、展開!』
総帥との決戦は、意外にもあっけないものだった。
総帥のデッキは、5枚の特定のカードを手札に揃えることで無条件勝利となる『終焉の五神』デッキ。ひたすらに山札を引きまくる、ロマン全振りの構成だった。
「ふははは! オレのターン! 魔法カード『貪欲な蟲毒』を発動し、カードを3枚ドロー! これでオレの手札に『終焉の五神』のパーツが全て揃った!!」
総帥が、勝利を確信し、高らかに5枚のカードを天に掲げた。
「見たかセレスティア! この5枚のカードが手札に揃った瞬間、オレの勝利が確定する! 世界はオレのものだァァッ!」
「……ええ。手札に『揃っていれば』、の話ですわね」
私は、一切の表情を変えずに、冷酷に宣言した。
「チェーン(連鎖)して、伏せていた罠カード『思考粉砕の宣告』を発動しますわ」
「な……に?」
「このカードは、相手がドロー以外の方法でカードを手札に加えた時、カード名を一つ宣言して発動しますの。宣言したカードが相手の手札にあれば、それを『全て墓地に捨てさせる』!」
私が扇子で総帥をビシッと指差す。
「私が宣言するカード名は――『終焉の五神・右腕』! さあ、貴方の手札にあるそのパーツを、今すぐゴミ箱(墓地)に放り込みなさいな!!」
「あ、あ、あああァァァァッ!?」
パリンッ!
総帥の手札から、勝利のキーパーツである一枚のカードが無情にも砕け散り、墓地へと送られた。
「特殊勝利の条件は『5枚全てが手札にあること』。パーツが一つでも欠ければ、残りのカードはただの使い道のない紙切れですわ。……これでもう、貴方は一生勝てませんわよ?」
「オ、オレの……結社の悲願(特殊勝利)が……たった一枚のハンデス(手札破壊)で……!」
総帥は膝から崩れ落ち、白目を剥いて泡を吹き始めた。
特殊勝利を狙うデッキにとって、ピンポイントの手札破壊はまさに「死」と同義。彼のコンフリクターとしての精神は、この瞬間に完全に崩壊したのだった。
「お粗末様ですわ」
【総帥】 MP:4000 → 0(精神的敗北によるサレンダー)
『勝者、セレスティア・フォン・オブシディアン』
結界が解除されると同時に、私は気絶した総帥の懐から、結社の所持する超絶レアカードが詰まった分厚いバインダーを引っこ抜いた。
「ふふふ……あはははは! 見なさいレン! これ全部、市場に出回ってない古代のシークレットレアですわ! これで私のデッキはさらに性格が悪くなりますわよ!」
「あーあ。魔導結社の総帥が、公爵令嬢にカツアゲされて泣いてるよ。この国の裏社会、終わったな」
レンが呆れたように笑いながら、私のバインダーを覗き込んでくる。
こうして。
世界を揺るがす闇の組織『魔導結社ウロボロス』は、私という悪役令嬢(ガチ勢)の飽くなきカードへの執着により、文字通り「身ぐるみ剥がされる」形で壊滅した。
本来世界を救うはずだったヒロインのマリアンヌは、メタビートのトラウマから足を洗い、今は平民の生徒たちと健全なカードゲームを楽しんでいるらしい。
ルキウス殿下は相変わらず「私をロックしてくれ!」と追いかけてくるが、その度にアンナのモーニングスターの餌食になっている。
そして私は――。
「セレスティア。昨日発売した新弾のパック、学園の購買で箱買い(カートン)してきたぜ。剥くか?」
「当たり前ですわレン! 今度の環境トップは私の【完全ロック】が頂きますわよ!」
今日も今日とて、王立魔法学園の中庭で、気の置けない悪友と共に神聖なる「紙しばき」に勤しんでいる。
乙女ゲームのシナリオなんてどうでもいい。
恋愛フラグも、世界の危機も、私のカードゲーム(スローライフ)の邪魔をするなら、全てまとめて手札破壊して、盤面から退場していただくまで。
私は悪役令嬢、セレスティア・フォン・オブシディアン。
この最高に性格の悪い【パーミッション】デッキと共に、私は今日もこの理不尽な異世界を、ロジカルに蹂躙していくのだ!
~復活の希望があるまで、完




