11.大爆発☆
結社ウロボロスの幹部ザルドを【完全ロック】と【除外】のコンボで完封し、レアカードの束を引っこ抜いた直後。
地下闘技場は、異様な静けさと、その後に沸き起こった殺気で満ちていた。
「おい……ザルド様が負けたぞ」「あの女、ウロボロスのシークレットレアまで根こそぎ奪っていきやがった……!」「ふざけんな! ここから生きて帰れると思うなよ、貴族の小娘が!」
観客席にいた結社の下っ端や、スラムのならず者たちが、一斉に立ち上がり、魔導盤を構えながら私たちを取り囲んできた。その数、ざっと数十人。
「……おいセレスティア。流石に数十人を相手に連続でコンフリクト(魔導決闘)をするのは無理だぞ。逃げるぞ」
レンが冷や汗を流しながら、退路を探すように周囲を見渡す。
「あら、良いではありませんか。私の新しい【パーミッション】デッキの、多人数戦の実験台にはちょうどよくてよ。さあ、束になってかかってきなさいな。一人残らず、その手札と希望を奪い去ってさしあげますわ!」
私は扇子をバサァッ!と広げ、獲物の群れを前にした肉食獣のような笑みを浮かべた。ガチ勢にとって、ここは恐怖のスラム街ではない。「カードの無限湧きスポット」だ。
ならず者たちが一斉に飛びかかってこようとした、まさにその時――。
ドゴォォォォンッ!!
地下闘技場の分厚い鉄の扉が、外側からの凄まじい衝撃によってひしゃげ、吹き飛んだ。
「ひぃっ!? な、なんだ!?」「結社へのカチコミか!?」
土煙が舞う中、逆光を背負って現れたのは、キラキラとした金髪をなびかせ、全身から過剰なまでの魔力(と情念)を立ち昇らせた一人の男だった。
「――見つけたぞ、セレスティアァァァァッ!!」
その声に、私は思い切り顔を顰めた。
この国で一番会いたくない男。第一王子のルキウス殿下だ。
「!?なんで王子がこんなスラムの地下に……」
「どうせお前のストーカーだろ。GPSでも付いてるんじゃないか」
レンが心底嫌そうに呟く。
ルキウスは、私を取り囲むならず者たちをギロリと睨みつけ、そして血走った目で私を指差した。
「セレスティア!私というものがありながら、こんな薄暗い地下で、他の薄汚い男どもを『管理』しているとは何事だ!この浮気者ォォッ!!」
「……はい?」「……は?」
私とレンだけでなく、取り囲んでいたならず者たちも全員、ポカンと口を開けた。
「聞いてみれば、最近お前は学園の裏で、男たちの魔法を封じ、身動きを奪い、ジワジワと嬲り殺しにしているそうじゃないか!許さん!彼女の【完全ロック】と【手札破壊】を味わうのは、この私だけの特等席だぞ!!」
ルキウスが、闘技場の中央でヨダレを垂らしながら絶叫する。
「貴様ら!セレスティアに何もさせてもらえずに絶望する快感を知ったのか!?いいご身分だな!その極上の苦痛は、本来私が受けるべきものだ!!私の女王を汚しおって、許さんぞォォ!!」
「ひ、ひぃぃぃッ!?」「なんなんだこのドMの変態は!?マジで王族かよ!?」
結社のならず者たちが、恐怖とドン引きで一斉に後ずさった。
無理もない。世界征服を目論む闇の組織の構成員ですら、引くレベルの性癖のイカれ具合である。
「さあセレスティア!浮気は一度だけなら許そう!今すぐ私とコンフリクトをして、私の全て(手札と盤面)を奪い尽くしてくれ!この男どもに見せつけてやろう、私たちの究極の主従関係をなぁ!」
ルキウスが魔導盤をガチャガチャと鳴らしながら、満面の笑みで突進してくる。
その背後では、ならず者たちが「ヤバい奴が来た、今のうちに逃げろ!」とパニックになり始めている。
……もう、メチャクチャだ。
「レン。私、なんだか急に頭が痛くなってきたわ」
「奇遇だな、僕もだ。ていうか、あの変態王子、マジでどうにかしろよ。君の元婚約者だろ」
「今は関係ないわよ!あんなの関わりたくないわ!」
私が扇子で顔を仰ぎながら現実逃避を始めた、その時。
「お嬢様」
スッと、背後から氷のような冷たさを持った声が響いた。
振り返ると、アンナが片手にティーカップを、もう片手に『赤い起爆スイッチ』を持って、優雅に微笑んでいた。
「お嬢様の神聖なるプレイングが、あのような変態豚と泥棒猫どもに汚されるなど、専属メイドとして看過できません。やはりゴミ箱は、一度空にするに限りますね」
「えっ、アンナ?ちょっと待って、まだ結社の人たちからレアカードを回収しきって――」
「清掃、開始いたします」
カチッ。
アンナが、一切の躊躇なく、起爆スイッチを押し込んだ。
「――っ!?」「うおおおぉぉ!?私を縛ってくれセレスティアァァ――」「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」
次の瞬間、地下闘技場を支えていた四方の柱から、目も眩むような閃光が迸った。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!
腹の底を揺らすような轟音。
闘技場の天井が崩落し、なだれ込む瓦礫と爆炎によって物理的に完全崩壊していく。
「お嬢様、こちらへ」
アンナが即座に展開した『絶対防壁(物理的な盾)』のおかげで、私とレンは爆風から無傷で守られていた。
だが、私たちの目の前に広がっていたのは、見渡す限りの瓦礫の山。ならず者たちも、ドM王子も、そして……私が回収するはずだった「レアカードの束(未回収分)」も、全てが厚い土砂の下に埋もれてしまった。
「あああああ!私の!私の歩く拡張パックたちがぁぁぁ!!」
私は崩れ去った闘技場跡地に向かって、血の涙を流さんばかりに絶叫した。
「だから!物理で!解決しようとするなと!!あれほど言ったでしょうがぁぁぁぁっ!!」
「ご安心くださいお嬢様。あの変態豚はしぶといので、この程度の爆発では死んでおりません」
「心配してるのはそっちじゃないわよ!!私のカードを返せぇぇぇ!!」
王都の地下に鳴り響く大爆発の音と共に、私の「魔導結社ウロボロス全カード強奪計画」は、身内の物理的介入によって、いとも容易く頓挫させられてしまったのだった。




