セリスの告白とレオンの告白
俺が帝都を出てそろそろ2ヶ月が経とうとしていた。
……いや、やっべぇ! まったく任務が進んでいない!
でも仕方ないよね!? どう考えても俺のせいじゃないし!
だが脳裏のヴァネッサ室長は『現地で的確な判断を下して任務を遂行するのが紋影官の務めだ』と言ってきている。
ひいぃ……すみません! でも肝心の〈王立古代遺物研究院〉はまったく表に出てこないし、ストライダーを続けているうちに研究員と接触できるかも不透明でして……!
「何か別のアプローチ方法を考える必要もあるか……?」
とりあえず断崖熊変異種の爪は宅配業者を使って帝都に送っておいた。
メイン任務はまったく進捗が進んでいないのに、ノア先輩のお土産任務だけは順調である。
ジェルトから召集がかかったのは、そんな悩みを抱えているときだった。俺たちはジェルトの部屋へと移動する。
「お待たせ。どうやら俺が最後だったみたいだな」
「レオンおそい~」
「レオンのろま~」
「え、普通に悪口じゃない……?」
文句と悪口という姉妹コンボしてきたんだけど。
「休みの日だというのに、突然召集をかけてすまないねぇ! どうやらセリスくんが我々に話があるようだ。心して聞かせてもらおうではないかっ! かっ!」
セリスが……? 視線を向けると、かなり思いつめたような表情をしている。
ま……まさか……! パーティから脱退するつもりとか……!?
もしかしたら他のパーティから勧誘を受けたのかもしれない。セリスの美貌と障壁魔術の腕前はかなり話題になっているみたいだし。
「……………………」
あれ……俺、セリスに抜けてほしくないと思っている……? 仕事を終えたら一番にパーティを抜けるのは俺なのに……?
そんな俺の不安をよそにセリスは口を開いた。
「まずみんなに隠していたことがあります。わたしの本当の名はセリアリス……この国の王女です」
ん……? なんて……?
「ほう……そうなのかね? 王女はほとんど表に出ることがなく、名前しか知られていないらしいが……」
「事実です。わたしは2年前、宰相から逃げるために城を出ました」
セリスから驚きの情報がもたらされる。なんと宰相ヘルカントは2年前、王国最強の騎士と謀反を起こして国王の身柄を押さえたのだとか。
えぇぇぇ……ストライダーやっていると政治とかあまり気にならなかったけど、この国……裏ではヤバい……?
「宰相ヘルカントの目的は何かわかりません。ですが近年魔獣が多発しているのも、もしかしたら宰相に原因があるかもしれないのです」
「ふむ……根拠は?」
「ワクワクバケーション占いです」
なにそれ……?
「公式ではお父様はずっと病気療養中となっています。おそらくどこかに軟禁されて、国の実権は今も宰相が握っているのかと……」
「……待った。〈王立古代遺物研究院〉が表に出てこなくなったこととも関係している……?」
「わかりません。ですが国の公的機関である〈王立古代遺物研究院〉が長く遺跡調査に同行せず、その遺跡からは危険な魔獣が出てきている……まったくの無関係でもないかもしれません。よかったら占ってみましょうか?」
「うん、だいじょうぶ」
本当に宰相が実権を握っているのなら、たしかに公的機関である〈王立古代遺物研究院〉も何か影響しているかもしれないな……。
うん……? もしかして国の問題をなんとかしないと、〈王立古代遺物研究院〉と接触できない……?
「突然こんなことを言っても困るだけだとは思います。その……このまま皆さんに迷惑をかけるわけにもいきません。だから……だからわたしは……」
「フ……セリスくん。水臭いではないか! せっかくの機会なのだ、我々に何を求めたいのか、遠慮せず言ってみたまえよ!」
一瞬黙り込んだが、セリスはジェルトに押される形で口を開く。
「その……わ、わたしと一緒に……! この国で何が起こっているのか、探ってみませんか……! まだ何をどうすればいいのか、そもそもの問題がなんなのかもわからないのですが! でもこのまま放置はやっぱりできなくて、その……!」
セリス自身、この話を打ち明けたからといってどうしたいのかまでは固まっていなかったのだろう。
セリスの正体にははっきり言って驚かされたが、考えようによってはこれはチャンスかもしれない。
ここでこれまで黙っていたルナとルミアが輝かんばかりの笑顔を見せる。
「聞いた、ルミア!」
「聞いた、ルナ!」
「さあさあ! 困ってる人はどこかな〜?」
「見つけたら最後、私たちがパパっと解決しちゃうよ!」
「光より速く、風より軽く!」
「そして誰より可愛く!」
「ツイン☆ルミナス、ただいま参上〜っ!」
「火柱出すなよ!?」
若干被せぎみで火柱を止める。こんなところで出されたら火事になっちまうよ!
「わるい宰相は見過ごせない!」
「国の危機も見過ごさない!」
「そう、わたしたちは!」
「獣精の魔術師!」
「ツイン☆ルミナス!」
ビシッと決めポーズで名乗りを上げる。えっと……つまりお二人は……。
「安心してセリス!」
「ツイン☆ルミナスは仲間を見捨てない!」
「悪者を倒して!」
「超有名人になる作戦!」
「決行~~!」
2人とも宰相の陰謀を暴く気満々のようだ。ジェルトもいつもの自信たっぷりな笑みを浮かべる。
「フ……! リーダーとして仲間の悩みくらいなんとかしてみせようではないかっ! この〈歩く大剣〉ジェルト、セリスくんが王女だからではない……これまで苦楽を共にした仲間だからこそ、その期待に応えたいのだよっ! よっ!」
「ジェルト……」
4人の視線がこちらに向く。うぅ……な、なんだかわるいことをしている気分になってきた……!
セリスが自分の正体を打ち明けたのは、俺たちを仲間だと信頼してのことだろう。
そしてその信頼は昨日今日で培われたものではなく、真剣に〈無名の灯火〉として活動してきたからこそ。
それは俺とて同じだ。〈無名の灯火〉は俺にとっても居心地がいいパーティになっていたし、なんのしがらみもなければこのままこのメンバーでストライダーをやるのもわるくはないと思えていた。
そう……俺もみんなを仲間として信頼しているし、何があっても見捨てたりしないだろうという確信もある。
俺だってそうだ、みんなを見捨てたりはしない。
だからこそ俺だけ「実はストライダーはロールプレイで、仕事が終わったらこのパーティ抜けるから」と、みんなを欺いているみたいで申し訳がなかった。
「お……! 俺は……!」
セリスは抱えていたものを仲間に吐き出し、真の意味で〈無名の灯火〉の一員となった。なら俺は……?
この5人の中で間違いなく俺だけが対等ではない。セリスが見せた勇気に、そして仲間たちと過ごした今日までの時間が決して偽りではなかったのだと証明したい……!
「す……すまない、みんな……!」
「レオン?」
「お、俺は……その……! 目的があってストライダーとしてラブルローン王国に来たんだ……!」
仕事を終えたら俺はパーティを抜けて帝都に戻る。
だからこそそれまでの間は、俺も〈無名の灯火〉の一員としてやり遂げたい……!
「ふむ……察するに〈王立古代遺物研究院〉と関係があるのだろう? これまでレオンくんの口から何度もその名が出ていたからね」
「う……。そ、そうだ……できれば〈王立古代遺物研究院〉の偉い人と接触したいと思っている。とあるお願いをしたいんだ」
あぁ……言っちまった……。でもこのまま隠し事をしたまま〈無名の灯火〉として活動できないところまできてしまっている。
セリスが王女だという話は、俺をそこまで追い込むものだった。もしかしたら目的にリンクする部分があるかもしれないからこそ余計にだ。
「目的を果たしたら、俺はおそらく帝都に戻ると思う……」
「え!?」
「そうなの!?」
この期に及んで“おそらく”と言っているところに未練を感じるな……。
「だから……セリスに協力することで〈王立古代遺物研究院〉と接触できる可能性があるのなら……それは俺の目的にも沿うことだ。打算があってすまないが、でも仲間として協力したいと思っているのも事実なんだ……!」
ウソではない。それに全部を話すほどの度胸はなかったが……隠し事をしていたという後ろめたさは少し和らいでいた。
ジェルトとセリスは何か考え込むような表情をしている。だがすぐに笑顔を見せてくれた。
「信じるわ、レオン。それと……話しにくいことを言ってくれてありがとう」
「フ……我ら〈無名の灯火〉、真にパーティとしての絆を結べたようだね……! では明日、さっそくギルドマスターに面会しに行こうではないか! そこでこの国の裏でうごめく陰謀について存分に語ろう!」
うぅ……すまない、みんな……。というか俺もだいぶ感化されたな……。
それだけ〈無名の灯火〉としての活動にやりがいを感じており、本気で取り組んでいたからだろう。自分でも意外だ。
ギルドマスターに話したとして何がどうなるかわからないが……〈王立古代遺物研究院〉と合同調査ができなくて困っていたのも事実。何か手を打ちたいと考えている可能性もある。
そんなわけで翌日、俺たちはギルドを訪ねたのだが、そこで思わぬ事態に遭遇することとなる。
なんと王女の証を持つというセリアリス王女を名乗る人物が現れたのだ。




