再会……? 事情に詳しそうな王女様
翌朝。俺たちはジェルトを先頭にしてギルドへと入った。
この時間はそこまで混んでいないが、だからこそ中に入ってすぐに違和感に気づく。
みんな驚いているというか、少し騒々しいのだ。ジェルトも違和感を覚えたらしく、受付嬢に笑顔で話しかける。
「やぁレディ、今日も爽やかな朝だね。ところでギルドが少し騒々しいようだが?」
「あ、ジェルトさん。実は貴族様が現れて、ギルドマスターに会いたいとおっしゃられまして……」
「ほう。何か緊急の依頼かな?」
「どうでしょう……それで今、ギルドマスターと貴族様たちがお会いになられているんです」
へぇ……さすがに貴族が直接ギルドに出向いたともなれば、ギルドマスターが直接対応するのか。
しかし困ったな……そうなると少し待たされそうだ。
「レディ、実は我々もギルドマスターに急ぎ会いたいのだが……」
「えっと……それは……」
このタイミングで奥の個室から副ギルドマスターのジスレットが姿を見せる。
彼女は俺たちの姿を見るとすぐに近くにやってきた。
「〈無名の灯火〉、今少しいいか?」
「ふむ……? もしやギルドに来たという貴族絡みかね?」
「察しがいいね。ちょっと腕の立つストライダーを探していてね……あんたたちであれば信用できる。ついてきて」
なんだ……腕の立つストライダーを探している……? 荒事の匂いがプンプンするぜ……!
ジスレットに先導されて俺たちは個室に入る。中には初対面の男女が5人いた。
「ノーマンド様、こいつらは〈無名の灯火〉。これまで数多くの高難度魔獣を無傷で倒してきたパーティだ」
「ほう……それは心強い! ぜひ協力いただきたい!」
「落ち着いてください。まずは初めまして、わたしはギルドマスターのトロメーラです」
「ちなみにわたしの姉だ」
マジか……。姉妹でギルドのナンバー1と2を牛耳っているのか……。
「私はノーマンド。マイカークス領の領主、その次男だ」
ノーマンドに対して俺たちも順番に自己紹介をしていく。そしてノーマンドの隣にいる女性が自己紹介をしてきた。
「わたしはジャスリン。商人です。ノーマンド様にさまざまな面でご協力させていただいております」
おお……ちょっとミステリアスな雰囲気のある人だな……。
続いてノーマンドを挟んで反対側にいた男が前に出てくる。そしてその顔を見て俺の背筋には衝撃が走っていた。
「俺はザルカーや。ノーマンドさんに雇われた傭兵ってとこやな。よろしゅう!」
うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉい! もしかしなくてもこいつ、〈黒曜聖団〉の聖徒ザルカーじゃねぇかよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
え、なんでここにいんのおぉぉ!? つかモロに犯罪者じゃねぇかぁぁ!
ザルカーとは数カ月前、学院の地下でやり合ったばかりだ。
俺の正体がバレる……! と思ったが、冷静に考えてみる。
そうだ……あのとき俺は裏声を使っていた……! それに黒仮面で顔は隠していたし、〈蛇鎖の腕輪〉も使っていない! 正確には使う余裕がなかったんだけど!
き……奇跡的に俺の正体がバレていない……!
どれか一つでも欠けていたら、ここで「てめぇ! あのときはよくもくしゃみ地獄に叩き落としてくれたなワレぇ!」と、復讐の刃を向けられるところだった……!
違うんです、ジョークで危ないクスリを作ったのはノア先輩なんです!
「ほう……なかなかの腕前のようだ」
「そっちこそ、かなりの腕前っぽいでぇ」
ジェルトが何も知らずに話している……! つかこれ、マジでどういう状況!?
と、とにかく落ち着け俺……! ここで下手に騒ぐと何をされるかわかったもんじゃねぇ……!
それにザルカーやノーマンドの目的もまだ何もわからないし……!
ここで騒動を大きくして俺が帝国の紋影官であると発覚するリスクは避けなければならない。
〈王立古代遺物研究院〉がどうのと言っている場合でなくなるし、国際問題にも発展しかねん……!
だがこれ以上はないだろうと思っていた驚きが、さらなる衝撃で上書きされる。原因となったのは最後に前に出てきた女性の樹精だ。
「そしてこちらのお方こそが……!」
「わたしはセリアリス。この国の王女です」
「へ?」
「え?」
「ん?」
「は?」
「な?」
…………………………んんんんんんん!?
「驚いて声も出ないようだね。王女は名こそ知られているが、見たことのある者は少ないから無理もない」
え……いや、ちょっと……。な、なんか……いろいろおかしく……ないです……?
それとなく5人で視線が交差する。この事態を突くかどうか、突くとしてだれがいくんだと探り合っている視線だ。
え、マジでどうしよう?
「その……まぁなんだ。ほ、本物の王女様であるという証拠とかは……?」
セリスに証拠を求めなかったのは、そんなことを確認するまでもなく真実であると判断したからだ。
そう思いたい、彼女の言うことを信じたいという気持ちもたしかにあったが、2年前に起こったという具体的な出来事も知っていたので疑う余地はないと思う。
俺の問いかけに対してザルカーは不機嫌そうな目を向けてくる。こわい。
「なんや自分、ノーマンドさんと王女さんがウソ言うてると思うんか?」
「いやぁ……そ、その……」
「落ち着いてくれ、ザルカー。ストライダーたるもの、当然の注意力と言える。そこのきみ、安心してくれ。彼女は正真正銘のセリアリス王女だ」
ノーマンドは自信満々の笑みを崩さない。彼はセリアリス王女を名乗る人物がつけている首飾りを指さす。
「これこそ王族に伝わる〈星霊珠〉の首飾り! ここまで美しい樹精であり、そして〈星霊珠〉の首飾りこそが何よりの証拠さ!」
再び俺たち5人は視線を交差させ合う。しかしみんな様子見カードを選んだようだ。ここで「そいつは偽物よぉ!」と叫ぶことはなかった。
というか状況もわるすぎる……! なんか本物っぽいアクセサリー持っているし!
ノーマンドの言葉を補うようにギルドマスターであるトロメーラは口を開く。
「〈星霊珠〉の首飾りは王家に伝わる秘宝だというのはギルドでも関知している。そしてその首飾りが本物であるということも証明できる」
「は……はぁ……」
「彼女がセリアリス王女であることは疑いようがない。そのうえで申し訳ないが、ノーマンド様。もう一度彼らに先ほどの話をしてもらえないだろうか」
うん……やっぱりこの場で「この偽物がぁ!」と、バトルを仕掛けるのは得策ではないな。
少なくともセリスから声を上げない限りは、様子を見るのが一番だろう。もちろん彼女がバトルを仕掛けたら全力で乗っかるけど。
それに個人的な事情を交えて言うと、ザルカーの目的は把握しておきたい。
幸いこいつは俺が学院地下で戦った紋影官だとは気づいていないし。マジであの時の俺グッジョブ!
「ではあらためて話させていただく。早い話が今のラブルローン王国は、宰相ヘルカントによって支配されているのだ」
「へ?」
「え?」
「ん?」
「は?」
「な?」
再び全員の口から謎の音が出る。昨日セリスから教えてもらったことそのままの話だからだ。
もしかしてセリス、生き別れの姉妹とかいた?
「驚くのも無理はない。……セリアリス王女、お辛いでしょうがお話しいただけますか」
「ええ。宰相ヘルカントは城の地下に眠る古代の魔獣を呼び起こし、この国に混乱をもたらそうとしています……! 昨今の王都近郊で多発する魔獣騒動も、無関係ではないのです!」
な……なんだってええぇぇぇぇぇ!? というかきみ、セリスよりも事情に詳しくない!?




