ギルドマスターと副ギルドマスターとくしゃみ
遅い時間ではあったが、副ギルドマスターのジスレットは〈無名の灯火〉からしっかりと報告を受ける。
そして自身の姉でありギルドマスターであるトロメーラにキリバ遺跡での経緯を報告した。
「そう……キリバ遺跡“でも”魔獣が出入口から出てくる様子が確認できたのね……」
「はい。これで4つの遺跡、すべてで同様の現象が確認できました」
王都近郊には4つの遺跡がある。実はジスレットは、キリバ遺跡を除く3つの遺跡にストライダーを派遣し、出入口を見張らせていた。
なお遺跡内部に入って直接調査させたのは〈無名の灯火〉だけである。それだけ彼らのパーティとしての戦闘力を評価してのことだ。
そしてこの日、4つの遺跡すべてから高難度魔獣が出入口から出てくるという現象が確認されたのだった。
「どれも日が沈むタイミングで起こっているわね……」
「やはり何か異常が起こっているのは間違いありません。姉さん、もう一度城に掛け合って〈王立古代遺物研究院〉との合同調査を本格的に検討すべきです」
「そうしたいのは山々なんだけれどね……おそらく明確な証拠を叩きつけないと、引っ張り出すのはむずかしいわ」
「そんな……」
以前までは国もここまで非協力的ではなかった。良くも悪くもラブルローン王国はストライダーたちの活躍で潤っている国だ。
ギルドと国は共生関係にあるし、またギルドの意向も簡単には無視できない。
しかしここしばらくはずっとギルドの意向が聞き入られることはなかった。
いや……ないというわけでもないのだが、こと〈王立古代遺物研究院〉関連になると、あまりにも腰が重いのだ。
すでに1年近くに渡って〈王立古代遺物研究院〉の研究員と接触していない。遺跡の多いラブルローン王国において、こんなことはこれまでなかった。
「ハァ……こうなると例の手紙の信憑性も出てくるわね……」
「ノーマン・マイカース……どこぞの貴族によく似た名前で送られてきた手紙ですね」
少し前、ギルドマスターのトロメーラ宛てに謎の手紙が届いた。
差出人の名はノーマン・マイカース……マイカークス領の領主次男、ノーマンド・マイカークスととてもよく似た名前である。
その手紙には要約するとこう記載されていた。
『城は宰相によって乗っ取られている』
『地下には古代の魔獣が封じられている』
『宰相はその封印をすでに半分解いている』
『近年の魔獣の異常発生とも関係している』
『ギルドとしても国と宰相の動きには注意すべし』
最初は荒唐無稽なものだと考えていた。そもそも宰相ヘルカントはラブルローン王国をここまで発展させた名宰相でもある。
さすがにこの手紙だけで宰相に話を聞くわけにはいかないが、こうして魔獣が異常発生しているのも事実。
ギルドとしてもいつまでも何もしないわけにはいかない。
「もし本当に城の地下に古代の魔獣が封じられているとすれば……」
「〈王立古代遺物研究院〉の研究員たちはその研究と調査に使われている可能性が高いですね」
「どうにか残り半分の封印を解く方法を研究させている……? これが〈王立古代遺物研究院〉がしばらく表に出てこない理由……?」
国王が長らく療養中だというのはすでに周知の事実。
これも実は宰相が国王を軟禁し、裏で実権を握っているのでは……という疑いを加速させる要因になっていた。
「ギルドとしても城に探りを入れていいかもしれないわね……」
「危険では?」
「このまま原因もわからずにストライダーたちを危険にさらすわけにもいかないわ」
今後も魔獣が遺跡から出続ければ、いずれストライダーたちも疲弊する。
ただでさえもともと騎士たちで対処できていなかったぶんをストライダーたちが請け負っていたのだから。
「とはいえ城に入る大義名分がないとむずかしいわね……」
「やはり遺跡調査を進めて異常の原因と証拠を確保させるほうが先では?」
「……もう少し様子をみましょう。今の遺跡は調査させるにも、ストライダーたちに大きな負担をかけることになる」
とくに遺跡に入り込んだ〈無名の灯火〉からは気になる報告もあった。
魔獣たちはまっすぐに出入口を目指していた……と。
「念のため、〈無名の灯火〉には王都近郊で片付く依頼を中心に振り分けといてもらえる?」
「魔獣が大量発生した際にすぐ使えるようにですね?」
「ええ。彼らの実力は確かだし……それに1人、気になるストライダーがいるわ」
「だれです?」
「レオンよ」
その名を聞いたとき、ジスレットは首を横にかしげた。
〈無名の灯火〉で一番存在感の薄いストライダーだったからだ。
リーダーのジェルトは個の戦力がかなりのものだし、獣精の双子魔術師もかなり優秀だ。
そして見た目で注目を集めやすいセリスがいる中で、レオンというストライダーはいまいち個性に欠ける。
最初にパーティを抜けるとすれば、おそらくレオンだろう。ジスレットはこれまで多くのパーティを見てきた経験則からそう考えていた。
だからこそギルドマスターである姉からその名が出てきたことに違和感を覚える。
「不思議かしら?」
「はい。おそらく戦力としては、〈無名の灯火〉で最弱かと……」
「ふふ……彼、帝国で推薦登録されたストライダーなのだけれどね? 推薦人に4名もの貴族が名を連ねているのよ?」
「…………っ!? よ……4人もの貴族が!?」
貴族がストライダーの推薦人になることはないわけではないが珍しい。
推薦したストライダーが何か問題を起こすと、それは貴族の顔に泥を塗る行為にもなるからだ。
とくに貴族は外からどう見られるか、体面を気にする。その貴族が4名もレオンの推薦人になっているというのは、彼がただものではないことを示している。
「しかも4名のうちの2人は現役の外務卿と軍務卿ときたものよ」
「え……!? 現役の!?」
「普通のストライダーがそんな大物貴族に推薦されるはずがないでしょう? 能力面はもちろんだけど、絶対に下手な騒動や問題行動を起こさないという確信もあるに違いないわ」
「た……たしかに……」
ギルドとしてもレオンという人物の人格を疑わずに済む。
問題のある人物であれば、4名もの貴族が推薦するはずがないのだから。
「気性の荒いストライダーが多い中で、〈無名の灯火〉はおそらく使いやすいパーティよ。とにかく今は事態を見守りつつ、機をうかがいましょう」
「……わかりました」
■
〈無名の灯火〉が遺跡調査を終えてから1週間後。ノーマンドの前には1人の男性が立っていた。
「ほう……きみが仙勁レベル8の傭兵にして、ジャスリンの昔馴染みの知り合いかい?」
「せや。まぁ実力のほうは期待してくれてええで」
その男は顔に入れ墨が入っており、背中には金属板のような剣を背負っていた。
ノーマンドも一目見て彼が尋常な使い手ではないと感じ取る。
「高い契約金のぶんの仕事はするでぇ! あ、俺はザルカー言います。よろしゅう」
「ああ、よろしく頼むよ……! ふふ……マクシミリアンに対抗できる駒もそろった! 行こうではないか、この国を正しき王女の手に取り戻すために……! 王都ラブルリアへ……!」




