キリバ遺跡の断崖熊レベル5
食後のお花摘みから帰ってきた3人に詳しい話を聞く。
「2階層へ続く階段から、断崖熊が出てくるのを見たのさ!」
「4体いたね!」
「4体いたよ!」
「とにかく静かに後を追ってみよう! 場合によっては先制攻撃で仕留めにいく!」
「わかった!」
来た道を戻って断崖熊の姿を確認しなければ。意識を切り替えたところでジェルトが声をかけてくる。
「レオンくん、きみが先頭で様子を探ってくれたまえ!」
「え!? 俺!?」
「ああ。きみは相手に気取られずに様子を探るのが得意だろう? 深く聞くつもりはないが、そうした訓練を受けている者特有の動作がにじみ出ているからねぇ」
え、マジか……!? ぜんぜん知らなかった……!
たしかに紋影官として、諜報員がやるような訓練は一通り受けているけど……!
でもそういうのって普段の動きとかでわかるものではないんじゃないの……? いったいジェルトはどこからそんな気配を感じ取ったんだ……。
まぁ今は変に否定して余計な時間を使ったり、よりあやしまれるような行為は避けるべきだな。
俺は黙ってうなずくと皆の先頭に立って足を進める。
曲がり角で一度立ち止まってしゃがみ込み、懐に入れた小さな鏡を手に取って反射で曲がった先を確認する。
そうした動作を繰り返しつつ出入口を目指していると、たしかに複数体の断崖熊の背中が確認できた。俺は小声で後ろにいる仲間たちに話しかける。
「断崖熊の姿を確認した。だがあいつら……2階層へ続く階段から出てきたって言ったよな?」
「言ったよ!」
「この目で見たよ!」
「一切の迷いなく、出入口を目指していないか……?」
外への道順を理解している……? 魔獣が?
そもそも外との出入りを繰り返していなければ、遺跡に生息する魔獣は出入口の場所なんて理解できないんじゃ……?
十分に距離を空けてソロソロと後をついていく。そして俺たちがキリバ遺跡に入って最初に入った部屋に断崖熊がたどり着いた時だった。
急に叫び出すとそのままダッシュで出入口に向かい始める。
「な……!?」
「突然走りだした……!?」
断崖熊はこれまで二足歩行でゆっくりと歩いていたが、どういうわけか四足歩行でものすごい速度で走っている。
かなりの速度だ、ここから追いつくにはジェルトでないとむずかしいだろう。
いや……もし今が夜ならば、〈夜影疾走〉も発動できるか……!?
「どうするジェルト!?」
「危険な魔獣をこのまま放置はできないねぇ! 私が先陣を切って気を引くから、きみたちは……」
「ブロオォォォォオォォォォォ!」
「っ!?」
後ろから魔獣の叫び声が聞こえる。振り向くと少し離れたところから、断崖熊が走って俺たちに向かってきていた。
「な……!?」
「あれは……!?」
いや……普通の断崖熊とは違う……! 一回り大きいし、目も赤く光っている……!
どう見ても断崖熊レベル5といった感じなんだけど!?
「く……! さすがに背中を向けるには危険な相手だ! ここで迎え撃つ!」
「了解だ!」
「やるよ~!」
慣れた動作でジェルトが正面に出て双子姉妹は後ろに下がる。
そして俺とセリスはその間に入りつつ、左右に回り込めるようにポジションを調整した。
「くるぞ!」
「ブオオォォォォ!」
勢いよく突進してくるが、その前に障壁が現れる。
セリスが起動した障壁魔術だ。それにぶつかったことで断崖熊は一瞬動きを止めた。
だがほぼ同時に障壁が割れる。相当な負荷がかかったていたのだろう。
「ナイスだセリスくん!」
しかし勢いを止められたのは事実。ジェルトはすかさず正面に飛び出しグレートソードを振るう。
「私に任せたまえよ! おおおお、〈大剣散歩日和〉!」
一見でたらめに見えて、実はわりと的確にグレートソードをブン回し続けるジェルトの武技が炸裂する。
たっぷり遠心力が乗った連撃を断崖熊は鋭く振るった爪で弾いていた。
俺はその左側面に回り込み、断崖熊の腕に目掛けて左手の〈蛇鎖の腕輪〉からチェーンを射出する。
チェーンは見事に断崖熊の片腕を絡めとった。動きを封じたところにジェルトが強力な一撃をお見舞いし、右側面に回り込んだセリスが追撃を行う。
「離れて!
」
「すごいのいくよ~!」
双子姉妹の合図に応えるようにジェルトとセリスは断崖熊から距離を取る。同時に後方から双子姉妹の声が響き渡った。
「火と水のハーモニー! ツインエレメント・コンチェルト!」
毎回名前が違うが、これまで何度も見た火と氷の合体魔術である。
素人だと「お互いに威力を相殺し合うんじゃ……」と思ってしまうのだが、なかなかどうしてこれがすごい威力なのだ。
「ブルォォォオ!」
まともに魔術を受けた断崖熊だが、まだ立っていた。
しかし隙は十分。俺は右手を断崖熊に向けて、〈蛇鎖の腕輪〉を射出する。
この1ヶ月で俺も〈蛇鎖の腕輪〉の使い方にアレンジを加えていた。
基本的に左手は先端を重りに、右手は先端を刃に変えている。とっさにパーツを換装せずとも両方使えるようにしたのだ。
勢いよく射出されたチェーンはまっすぐに断崖熊の目へと向かって飛んでいく。狙いはバッチリ、刃は深々と目に突き刺さった。
「ブオオルルルゥゥゥゥオオオ!?」
「今だ! かあぁぁぁ、〈歩行大爆斬〉!」
ジェルトは助走をつけた最強の一撃を叩き込み、後ろに回り込んだセリスが足を切って完全に動きを封じる。そこに後方から火の槍と氷の槍が降り注ぐ。
断崖熊はかなりの生命力を誇っていたが、とうとう床に倒れ込む。
その頭部を目掛けてジェルトが思い切りグレートソードを打ち込んだ。
「ふうぅぅぅぅ……! よし、勝った……!」
「わたしたちツイン☆ルミナスの前に!」
「敵はなし!」
「はぁ、はぁ……! な、なかなかしぶとかったですね……!」
うん……やっぱりこのパーティ、めちゃくちゃ相性いいな……。
たぶん並のパーティなら、この断崖熊はなかなか倒せなかったと思う。
すっかりこのメンツで戦い慣れたこともあり、連携も隙がなく今回も無傷で倒すことができた。だが……。
「さすがに今から外に出た断崖熊の行方は探れそうもないな……」
「ふむ……ギルドに報告して注意を喚起してもらうしかあるまい。だがこの断崖熊の変異種を外に出さなかっただけでも上出来と言えるのではないかな?」
断崖熊の変異種か……。
とりあえず証拠も兼ねて爪などの素材は持って帰ろう。ついでにノア先輩のお使い任務も済ませられればなおよし。
ここでセリスはジェルトに視線を向ける。
「ジェルト、どうする……? キリバ遺跡、異常があるのはたしかみたいだけど……」
「ふむ……だが今からその異常の原因を探るのも危険だ。やはりギルドへの報告を優先し、王都に戻ろう」
「わかりました」
俺もジェルトの意見に賛成だ。それに俺たちはパーティとしてはなかなかのものだが、継戦能力に優れているというわけではない。
凶悪な魔獣を相手にずっと戦い続けられるほど体力や精神力に余裕があるわけでもないのだ。
これまで無傷で生き残れてきたのも、常に5対1の状況で戦ってきたからこそ。連戦や5対2といった状況になる可能性は避けるべきだろう。
ジェルトも同様の考えのようだ。俺たちはキリバ遺跡を出て王都へと帰還する。ギルドに到着したころにはかなり遅い時間になっていた。




