キリバ遺跡の探索 レオンとセリス
これまで洞窟の岩壁が続いていたのに、突然直線的な壁が現れる。それに伴い、壁が不自然なほど滑らかな材質に変っていた。
床のタイルは規則正しく並んでおり、少し進むと広い空間に出る。
そこには等間隔で柱が並んでおり、副ギルドマスターが言っていた通りどこか神殿を思わせる印象があった。
「ふむ……王都を出る前にいくつか情報を確認したのだが、キリバ遺跡は地下へ続く構造になっており、現在は6階層まで調査が進んでいるらしい。残念ながら地図は高くて買えなかったがね」
「まぁ今回の依頼は調査が主目的で深く潜る必要もないしな……」
「そうですね。何よりストライダーが目撃したのは、キリバ遺跡の出入口から断崖熊が複数体出てくるというものでした。もしその話が本当であれば、浅い階層を調べるだけでも意味があるはずです」
さすがに今回は地下深くまで潜る準備はしてきていないし。セリスの言ったとおり、基本的には浅い階層を重点的に調べるだけでも十分だと思う。
また床や壁には親切にも、地下へ続く道が矢印で彫られていた。
きっと遺跡に潜ったストライダーが道に迷わないように、何かあったときは迷わず出口に出られるようにとつけた目印だろう。
これらの目印をうまく活用すれば、無理に高い地図を買う必要もない。副ギルドマスターもそのあたりを考慮して俺たちに地図を買う金を与えなかったのかね。
「魔獣いないね~」
「わるいこいないね~」
「そんな出てきてほしそうに……」
ちなみに以前は遺跡内部でストライダー同士が出会うことも珍しくなかったらしい。
しかし昨今は魔獣討伐の依頼が増え、反対に遺跡調査の依頼はなくなったので、わざわざこうして遺跡に潜るストライダーがいなくなったのだとか。
断崖熊を見かけたストライダーたちも、遺跡の中ではなく外から目撃したというものだった。実際こうして依頼で遺跡に潜るストライダーは、俺たちがかなり久しぶりなのではないだろうか。
彫られた矢印を確認しながら足を進めていく。廊下と部屋をいくつか通過するが、地下へ下る階段が見えたところで一度引き返そうという話になった。
「まっすぐここまで来てしまったからね。この階層で行っていない場所もあるし、一通り巡ってみようではないか!」
「お~~!」
そんなわけで来た道を引き返す。しかし思っていたよりも何もないな……。
「もっと魔獣が出るもんだと思っていたんだけど……」
ふとした俺の疑問に答えたのはセリスだった。
「遺跡は深く潜れば潜るほど強力な魔獣がいると言われています。中には古代の魔獣が生息しているときもあるのだとか」
「古代の魔獣ねぇ……」
「はい。それにキリバ遺跡は実は奇数の階層と偶数の階層でも特徴があるのです。魔獣が出やすいのは偶数の階層だと言われていますね」
奇数の階層と偶数の階層でそれぞれ特徴がある……?
気になったのはジェルトも同様だったらしい、興味津々といった様子でセリスの顔を見る。
「ほう? ここは1階層だから偶数の階層に比べると魔獣が出にくいということかな?」
「はい。偶数の階層は洞窟の中のような外観になっていて、貴重な鉱石も採掘できるのですよ。なので以前までは採掘目当てでキリバ遺跡に訪れる者もいました」
魔獣の出る洞窟内部で鉱石の採掘か……おっかなくて俺にはできそうにないな。
「セリスくっわしぃ~!」
「どうしてそんなに知っているの~?」
「えっと……以前、学んだことがあって……」
「ストライダーとして事前に遺跡の情報を学んでいるとは、なかなかやるではないか! セリスくん!」
王都を出る前、コミュ力強めのジェルトでもそこまでの情報を得られていなかったのに……。
前々から思っていたけど、もしかしたらセリスはラブルローン王国の出身なのかな?
そんなことを考えながら休憩を挟みつつ、さまざまな場所を練り歩く。ここまで魔獣とはまったく遭遇していない。
「ねぇ~~!」
「たいくつ~~!」
「あきた!」
「帰りたい!」
双子姉妹も文句を言い始めた……。
だがけっこうな時間歩いたし、そろそろ外は暗くなり始めているころではないだろうか。
ここでジェルトもリーダーとしての指針を打ち出す。
「ふむ……ではいったん休憩を挟んで軽く水分補給と食事を済ませ、それからここを出ようか。明日はあらためて2階層まで潜ってみる……という方針でどうかな?」
「いいんじゃないか」
「賛成です」
不気味なくらいに何もないな……。
小部屋で簡単に軽食を取って水分補給も済ませる。今からここを出るとなると、王都に戻るころにはかなり遅い時間になっているな……。
俺としてはなんとかこの調査で〈王立古代遺物研究院〉と接触を図れる機会を作りたいところだが……。
一方でそれは俺の任務終了が近づくことを意味する。
それは〈無名の灯火〉を抜けて帝都に戻る時が近づくことでもあり、そこまで考えると少しのさみしさも覚えていた。
ある意味で今の生活はかつて憧れていたものになる。だがずっとこのままでいられないのもわかっている。
きっとジェルトたちはこれからも名をとどろかせていくだろうし、俺が抜けても〈無名の灯火〉としての影響はないだろう。
「どうしたの、レオン。なんだか考え込むような表情をしているけど」
「え!?」
気づけばジェルトと双子姉妹はどこかへ行っていた。部屋に残っているのは俺とセリスだけだ。
「あれ? みんなは……?」
「もう、やっぱり聞いていなかったんですね! 3人なら食後の運動に少し歩きに行かれましたよ!」
ああ……なるほど。食後の運動という名のお花摘みか。
こういう閉鎖空間で長時間活動する際にはどうしてもつきまとう問題でもある。
せっかくできたセリスと2人きりの機会だし、抵抗はあるけど少し踏み込んでみようかな……。
「なぁ。セリスはどうしてストライダーに?」
「え……?」
「あぁ、いや。答えたくなかったらべつに構わないんだ。まぁセリスほどの腕があれば、この国ではストライダーをやったほうが儲かるというのもわかるんだが……」
いきなり踏み込みすぎたかな……!?
でもこのまま2人で沈黙の時間が続くよりは、話題を振ったほうが場を和ませることができると思う。
セリスは俺の質問に対してとくにイヤな顔をすることなく答えてくれた。
「大切なものを……取り戻したいの」
「大切なもの……?」
「そう。世間知らずだったわたしはかつて、大切なものを取られてしまった……。いつかそれを見つけ出して取り戻したい。ストライダーとして有名になれば、その目的に近づけるんじゃないか……そう考えたの」
単にストライダーとして有名になりたいとか、そう単純な理由ではなさそうだな……。
これ以上はさすがに踏み込めないか。
「レオンは? どうしてストライダーに?」
おっと……まぁ俺が聞けば当然同じ質問も返ってくるか。
そして俺はこの質問がきたときの答えをすでに用意してある。
「実は帝都の学院に、妹が通っていてさ……」
「へぇ! レオン、妹さんがいるんだ!」
「ああ。ストライダーとして稼いだ金で妹の学費を払いたいのと……卒業後に仕事を見つける際にも何か手伝いたいと思ってさ。何をするにも金って必要だろ? だからストライダーとして稼ぎを作ろうと思ったんだ」
フ……これぞあやしまれない完璧な回答だ……!
妹が帝都の学院に通っているのは本当だし、すべてがウソというわけではない。
とりあえず何か理由をつけて「だからストライダーとして稼ぎたいんだ!」と思わせればなんでもいいと思っている。あと妹思いの兄という感じも出てわるくない。
セリスに顔を向けると、彼女は感動したかのような表情を浮かべていた。
「い、妹のためにそこまで……! すごい……!」
「あ……あぁ……。まぁ、その……ね?」
「わたしはあくまで自分のためにストライダーとしての道を選んだのに……! だれかのために過酷な仕事を選べるレオンはすごいわ!」
「あ、うん……はい……」
う……! な、謎に罪悪感が……!
すみません、ストライダーになったのは仕事です。妹は関係ありません。
「わかりました! レオンの未来を占ってみましょう!」
「んへ!?」
「この遺跡であれば、場の空気の流れを読む占い……環気占ができます! ではいきますよ……! んんんんんんん~~~~~~……っ!」
え……えぇ……!? なに、場の空気の流れを読む占いって……というか環気占なんていう流派? みたいなのもあるの……?
真剣な表情で目をつぶって手を広げているセリスだが、樹精の美女はどんな表情やしぐさをしていても美しさは損なわれていなかった。
見た目だけならだれも謎占いが趣味の樹精だと思わないだろう。
「え……!?」
ここでセリスは不穏な言葉とともに目を開く。
「え、なに……なにか不穏な未来でも見えました……?」
あまり占いを信じているわけではないが、それでも不吉なことは言われたくない……!
そう考えていたが、セリスの表情は真剣なままだった。
「あ、いえ……今、何か声が……聞こえたような……?」
「ん……? 声……?」
「はい……叫び声? 何かを……呼んでいる……?」
なんだろう……俺には何も聞こえなかったが。樹精は長い耳を持っているし、聴覚が人種とは異なる可能性もあるが……。
そこにドタバタと足音が近づいてくる。廊下から現れたのはジェルトと双子姉妹だった。
「レオン、セリス! 異常事態だ!」
「断崖熊がいっぱい出てきたの!」
「はい!?」




