気づいたら1ヶ月くらい夢中で打ち込むこともある
いよいよ〈無名の灯火〉としての活動が始まった……!
俺たちは宿屋〈剣と荷袋亭〉を拠点に決め、ストライダーとして本格的に働き始めていた。
ちなみにこの宿屋はストライダー御用達であり、武器と荷袋がやたらと持ち込まれることからついた名前らしい。
「ははははははは! この〈歩く大剣〉、ジェルトに任せたまえよ! とうっ!」
「今日も元気に着火するよ~! フレイム・オン!」
「ひんやりどうぞ! アクア・ブリーズ!」
魔獣との戦いになると、だいたいテンションの高い3人が叫びつつ攻撃しまくり、そこを中衛の俺とセリスがサポートする流れがすっかりできあがっていた。
うん……想像以上にうまく嚙み合ったパーティかもしれない。
〈蛇鎖の腕輪〉で的確に魔獣の動作を封じ込め、セリスが障壁魔術と直接攻撃でしっかりと援護をする。
そこにテンション高い組が存分に攻撃しまくるのだ。おかげで俺たちはこの1ヶ月で何体もの凶悪魔獣を討伐していた。
「勝利~!」
「ツイン☆ルミナスは悪に負けないっ!」
「ふぅぅ……これで黒角王討伐依頼は達成だな!」
「ほ、本当に無傷で倒せた……! 脅威度ランキング上位常連なのに……!」
こうして狩った魔獣は基本的には王都の魔獣素材専門店に売り払う。
この間のように街道で解体して行商人に売るという行為は、どうやらグレーなものだったらしい。
ちなみに黒角王の角はノア先輩のお土産リクエストに入っていたので、宅配業者を手配して帝都の〈黒熊の巣穴亭〉にいるメリンさんに送っておく。
「黒角王討伐の報酬はかなりのものだったねぇ! 今宵も祝杯といこうじゃないか!」
「おお~!」
この1ヶ月で俺たち〈無名の灯火〉はそこそこ有名になっていた。手強い魔獣を無傷でかつ確実に倒すという評判が広まっているのだ。
それにリーダーのジェルトが〈精鋭〉、双子の魔術師もいるということで、話題になりやすいらしい。
セリスの美貌も有名になっているらしく、この中で目立っていないのは俺くらいなものだった。
い、いや……別にストライダーとして目立ちたいというわけではないけどさ!
そうしてみんなで食事を楽しんだ後は宿屋〈剣と荷袋亭〉に戻り、ベッドで横になる。
稼ぎが安定してきたので、今やルナとルミア以外は個室になっていた。
「ストライダーとして税制面や公衆浴場などの公営施設で割引が効くと、こんなにも暮らしやすいもんなんだなぁ……」
そう……ここでの暮らしはなかなかわるくなかった。
といってもソロだとやはりキツかったと思う。パーティで行動しているからこそ、ここまで余裕のある生活を送れているのだ。
これまでストライダーとしていろんな仕事をこなした。近くの街まで商人の護衛をしたり、夜間巡回のサポート、行方不明者の捜索やらトラブルを起こしたマフィアと庶民の仲介、貴重品の荷運びなんかもやった。
いやぁ……ストライダーなんて魔獣討伐と遺跡調査で飯を食っている連中だと思っていたけど、けっこういろいろやる事があるもんだなぁ……!
「明日はどんな仕事を引き受けようかね……」
脅威度の高い魔獣を多く討伐してきたので、実は金にはかなり余裕ができている。
明日は収入重視ではなく、おもしろそうな仕事を引き受けてみてもいいかもしれない。
俺自身は大した戦闘力はないが、このメンバーだとこれからもうまくやっていけそうだ。そう、俺は王都のストライダー……。
「じゃねぇ! しまった! ストライダー業が楽しすぎて、本命のミッションを忘れていた……!」
やっべぇ! ついついストライダー・レオンの活動に本腰を入れすぎてしまっていた……!
そうだ、俺は紋影官のレオン! ストライダーは本質じゃない!
いや、決して完全に忘れていたわけではないのだ。ない……はず。なかったはずだ。
これまでの1ヶ月を振り返ってみる。
うん、しっかりストライダーとしては楽しませてもらったけど……! だが少し気になることがあった。
「〈王立古代遺物研究院〉がかかわるような仕事、見たことなかったよな……?」
この1ヶ月、しっかりとストライダーとして働いてきたからわかる。
思い出す限り、〈王立古代遺物研究院〉が関与していそうな依頼は何もなかった。
そもそももしあったのなら、その時点で俺の頭はストライダーから切り替わっていたはず。
まったく〈王立古代遺物研究院〉という名を見かけなかったので、そのまま本命のミッションを失念してしまっていたのだ。
「どういうことだ……? ヴァネッサ室長の話によると、遺跡調査などでストライダーと〈王立古代遺物研究院〉の研究員がかかわる機会があるという話だったけれど……」
〈王立古代遺物研究院〉は国の公的機関だし、そこが依頼に出すストライダーともなれば、ある程度社会的な信頼を得ている必要があるだろう。
ジェルトの〈精鋭〉というランク、それに彼の率いる〈無名の灯火〉というパーティはこの1ヶ月でそれなりに信頼を得られたとは思うが。
「何か……やっぱり変、だよな……?」
具体的に何が変とは言葉にできないのだが。
いや……そうだ。なんでこんなにも手ごわい魔獣討伐依頼が多いんだ?
俺たちの名が知れ渡り始めたきっかけは、手ごわい魔獣を無傷で倒し続けているからだ。騎士団からの討伐依頼も多い。
つまり王都近郊でやたら魔獣が出ていなければ、そもそも俺たちはまだそこまで名が知られていなかった。
偶然か……? だが思い出してみると紅殻魔蠍を倒したとき、騎士は「最近脅威度の高い魔獣が多く現れるようになった」と話していた。
騎士たちからしても今の状況は違和感があるのだろう。
「ストライダーの優遇政策を取ったのは、有能なストライダーを王都に集めて騎士の手に余る魔獣討伐をさせるため……?」
うぅん……まぁここで考えていてもわからないか。
とにかく明日はギルドに行ったら、〈王立古代遺物研究院〉に関する依頼がないかを確認してみよう。
そう考えをまとめ、その日は眠りにつく。そして翌日。
宿で朝食を済ませた俺たちはすっかり慣れたストライダーギルド王都支部を訪ねていた。
「おい……見ろよ……」
「グレートソードに双子の魔術師……」
「あれが〈無名の灯火〉か……」
「昨日は黒角王を討伐したらしいぞ」
おお……日に日に注目度が上がっていっている……!
「フ……帝都に続いて、王都でもこの〈歩く大剣〉ジェルトの名が響き渡る日も近そうだねぇ!」
その二つ名、何度聞いてもグレートソードが本体なんだよな……。
「今日もわたしたちの魔術で!」
「どんな依頼も解決しちゃう!」
双子の魔術師もいつも通りだ。ジェルトは受付に行って依頼の確認を行う。
依頼を請け負う方法はいくつかあるが、オーソドックスなものとしては二階にある掲示板を確認するというものだ。
それから気になるものがあれば受付に詳細を聞いて受けるかどうかを決める。
だがジェルトはやはりストライダーとして手馴れており、いつも最初は受付に行って今日の依頼の傾向などの確認を行っていた。
依頼内容は毎日変化があるので、その日はどのような依頼が多いのかをまず受付に聞くのだ。
それから二階に上がってどの依頼を受けるのかを決める。はじめから掲示板を確認すると、あまりにも依頼事が多すぎてやりたい仕事を見つけるまで時間がかかる。
なのでどういう仕事を引き受けるのか、あらかじめ本日の傾向を確認してから見に行ったほうが効率的らしい。
たしかに「あれ気になる、これも気になる」と迷うよりも、方針を固めてから確認したほうがはやそうだ。
「やぁレディ。今日はどういった仕事が多いのかな?」
「ジェルトさん、おはようございます。今日も騎士団から、凶悪な魔獣討伐依頼が出ていますよ」
「フ……またかね。たまには変化も欲しいところだが……」
どうやらジェルトも依頼内容をもう少し選びたいという気持ちが出てきたようだ。
ならここでちょっと〈王立古代遺物研究院〉絡みのものがないか、聞いてみようかな……と思ったときだった。
俺よりもはやくセリスが前に出て口を開く。
「あの……! 魔獣や遺跡の調査依頼というのはありませんか……!?」




