王都に舞い降りた期待しかないルーキーたち
スタッフから説明をすべて聞き終えるころには、双子姉妹は完全に眠っていた。うん、最初から聞く気と覚える気がなかったよね。
他のストライダーたちが部屋から出て行く中、俺たちは個室に残る。セリスと一緒に双子姉妹を起こしたところで、いよいよパーティ登録が進められた。
「ではこの場でパーティの登録も済ませます。リーダーは……」
「私だね! ジェルトだ! 〈歩く大剣〉のジェルトだよ!」
「はい、ジェルトさんですね。続いてパーティの皆さんのお名前をおうかがいします」
俺とセリス、ルナとルミアも名を名乗り、スタッフさんがスラスラと紙に記載していく。
やっぱり手馴れているなぁ……。
「ではパーティ名をお願いします」
「フフフ……! 我々のパーティ名は〈無名の灯火〉だ!」
〈無名の灯火〉……これが俺たちのパーティ名になった。
みんな王都には来たばかりで、まだまだ名前が知れ渡っていない。
まだ大きな影響力はないが、そこに確かにある光。灯火はいずれ周囲を照らし、影響を与えていく……的なイメージらしい。
らしい、というのはパーティ名が決まったときのことをよく覚えていないからだ。
昨日はトリプルお祝いで気分よくたくさん飲んでいたからな……!
というか王国に名が知れ渡ったら、パーティ名を変えるのだろうか。よくわからない。
まぁ一つ確実なのは、そのころには俺はこの国を去っているだろうということだ。
「はい、〈無名の灯火〉ですね。パーティとしてのランクは1からのスタートになります。これからの活躍に期待しております」
「フ……任せたまえよ! 我々以上に相性のいいパーティなど、そうあるものではないからねっ! ねっ!」
■
ラブルローン王国の宰相であるヘルカントはバルコニーから城下を見下ろしていた。
その背後には穏やかな笑みを浮かべた女性が立っている。
「計画のほうはいかがですか、ヘルカント様?」
「ふん……忌々しいが順調とは言えんな。地下のアレはずっと〈王立古代遺物研究院〉の研究員どもを使っているが……お前のほうでもう少しまともな情報はないのか? え? エーヴィスよ」
「言ったはずですよ、ヘルカント様。封印にかかわるカギには王族の血と〈星霊珠〉が必要だと……」
「えぇい……っ! 未だに〈星霊珠〉の場所がわかっていないというのに……っ!」
表沙汰にはなっていないが、ラブルローン王国は2年前に政変が起きていた。
宰相であるヘルカントが主犯として国王に反旗を翻し、その身柄を捕縛したのだ。
城内にいる多くの貴族を味方につけ、秘密裏に国の実権を握ることに成功したが、そうしたのも理由があってのことだった。
「落ち着いてくださいな、ヘルカント様。カギの1つはこちらが確保しているのですから」
「逆に言えばもう1つが見つかった時に何が起こるかわからんということだ。それにいつまでも今の状態を続けられるものでもない。領主の中には長らく表舞台に出ていない王に不信を抱いている者もおる」
実権を握ったヘルカントは「陛下はご体調が優れず、しばらく政務を控えられる」と方々に説明していた。
その間の政は宰相のヘルカントに一任するという書状を添えて。
すでに王の印璽も確保できていたので、書類を偽装することは容易かった。
ヘルカントは王の印璽を使ってあらゆる公的書類を作成し、国王が実は不在であるという今の状況を可能な限り外に漏れないようにと細心の注意を払っていた。
また王の筆跡を真似できる書記官も押さえていたので、国王としてのサインが必要な書類の作成も問題がなかった。
しかしいつまでも隠し通せるものではないということは、ヘルカントにも理解できている。
「〈星霊珠〉……やはり行方不明のセリアリス王女が持ち出しているのでは?」
「その可能性は十分に考えられる。……王女の行方もまだわからんのか?」
「えぇ。この2年、まったくその足取りが掴めていませんわ。もともとあまり表舞台に出ていなかったこともあり、顔を知っている者も少ないですから」
「く……!」
国王には1人の娘がいた。普通であれば幾人かの妻を娶って子を多く成すものだが、事情があって国王は妻を1人しか娶っておらず、しかも子も1人だけだったのだ。
それでも国王の事情を知るヘルカントからすれば、1人でも子ができたのは奇跡のようなものだと考えているのだが。
「2年前、王女にもしっかりと言い含めておくべきだったな……まさか城を出るほどの度胸があったとは……」
「とはいえ当時の状況をそのまま理解していれば、セリアリス王女もいつまでも王都を放置できないはず。厄介なのは地方の領地に逃げ込んで、そこの領主と手を組むことですが……」
「たしかにそれは厄介だが、可能性は低い。そもそもあまり表舞台に出ていなかったぶん、自分の身分を証明するのもむずかしいだろうからな」
またセリアリス王女は城から出たこともないので、世間というものをあまり知らない。
もしこの2年、生き延びていれば多少は世の中というものを学べているだろうが、ヘルカントとしては賊や魔獣に襲われて死んだ可能性のほうが高いと読んでいた。
「厄介なのはマイカークス領の次男だ」
「ノーマンド様ですね」
「ああ。あいつめ、婚約者としてセリアリス王女に会わせろと何度も言ってきておるからな」
マイカークス領はラブルローン王国でもかなりの力を持つ領地である。
正式な婚約が交わされたわけではないが、領主の次男であるノーマンドはセリアリス王女の婚約者最有力候補として当時から名を馳せていた。
長らくノーマンドのほうからセリアリス王女に対して何もコンタクトは働きかけていなかったのだが、半年ほど前から「婚約者としてセリアリス王女にお目通り願いたい」と言ってくるようになっていたのだ。
「2年前から王女との婚約にまったく興味がなさそうな素振りをしておったというのに、どうして急に今になって婚約者面をするようになったのか……!」
「マイカークス領の意向で、本気で国王の座を狙い始めたのでは?」
現状、国王の直系は王女のセリアリスのみ。その彼女と結婚するということは、王位に手をかけられるということだ。
影で実権を握って政治を支配している宰相ヘルカントからすれば、ノーマンドは邪魔で仕方がない存在だった。
「もし地下のアレを自由に使えるのであれば、マイカークス領を滅ぼしておるところだ」
「あら……ヘルカント様。本気でお望みですか?」
「………………ふん。どちらにせよカギがそろわぬ限りは関係がないのだろう?」
「今の調査段階ではそうですわね」
とにかくラブルローン王国には時間がない。
最近王都近郊で多く見られるようになった凶悪な魔獣の数々も、きっと地下に封印された存在と無関係ではないはずだからだ。
「〈王立古代遺物研究院〉の面々には引き続きアレの……幽牢獄晶の調査を進めさせろ。いいな? エーヴィスラボ長?」
「ええ、ヘルカント様」




