ダブル祝いとジェルトの提案
先ほどまで大きな騒動となっていた街道だが、今は一転してお祭り騒ぎになっていた。
それというのも紅殻魔蠍の死骸に多くの行商人たちが群がっているからだ。
「魔獣素材を俺に売ってくれ!」
「いいや、ぜひこちらに売っていただきたい!」
「わたしはハサミだけでいいから、ここで買い取らせてちょうだい!」
うわぁ……魔獣素材はとにかく金になると聞いてはいたが……。
どうやら紅殻魔蠍は相当レアかつ討伐難易度も高いということもあり、素材としての価値がかなり高いようだ。
こうした事態にも慣れているのだろう、ジェルトが前に出る。
「フ……たしかに我々としても、これだけ大きな魔獣を街まで運んで売るのも大変だ。ある程度解体してここで売るのもやぶさかではない」
「おお……!」
「だが条件がある! まず部位ごとに入札を行い、最も値段をつけた商人に売る! また売るのはあくまで我々が不要だと判断じた部位だ!」
商人たちもジェルトの言葉に納得を示し、それで構わないと了承する。手慣れているなぁ……。
「そんなわけだ。きみたち、どこか優先してほしい部位などはあるかね?」
「気持ちわるいしいらない~」
「虫っぽいのはいや~」
「わたしは……お金を作ってレオンに返さないといけないので……。素材を確保するより、売ってお金にしたいです」
「ふむ……まぁ私も今は素材よりもお金かな。レオンはどうだ?」
どうやら魔獣素材の優先権を確保したものの、ジェルトたちは売ってお金にするつもりのようだ。
べつに俺もそれでいいのだが、偶然とはいえノア先輩のお土産リスト、その1つをクリアした状態だしな……。
俺は行商人たちに視線を向ける。
「この中で帝都アイゼンスタッドに向かう者は?」
この質問に1人の男性が手を上げる。
「ちょうど帝都を目指しているところだ。俺は帝都の商会で働いていてな。仕入れから帰るところなんだよ」
おお……まさかの帝国人。ならば話がはやい。
「なら紅殻魔蠍の尻尾をレオン宛で東エリアにある黒熊の巣穴亭に送ってほしい。運送費は払うし、受けてくれれば残りはすべて入札にかけて構わない」
「わかった。荷馬車に積ませてもらおう」
物流が発達した世の中でよかった……。
メリンさんのことだ、そのまま俺の部屋に入れておいてくれるだろう。あとは帝都に戻ったタイミングでノア先輩に渡せば完璧だ。
そんなわけで商人たちの入札が進んでいく。解体した魔獣素材を商人たちがホクホク笑顔で運んでいるところで、馬に乗った巡回の騎士たちがやってきた。
「お前たちが紅殻魔蠍を倒したのか?」
「フ……その通りさ! このような魔獣が街道に出るとは……諸君らが警備を怠っているのではないかな?」
「なんだと!」
「よせ。……いち早く紅殻魔蠍を倒してくれたこと、感謝する」
隊長っぽい騎士が馬から下りてジェルトに礼を述べる。どうやら俺たちのリーダーだと認識したようだ。
「なぁに、ストライダーとして無視もできなかったからね!」
「失礼だがランクは?」
その言葉を待っていましたと言わんばかりにジェルトは懐から銀色の登録証を取り出す。それを見て騎士たちは明らかに驚いていた。
「フ……〈精鋭〉ランク、〈歩く大剣〉のジェルトさ!」
「〈精鋭〉ランク……! なんと、それほどの実力者が……」
おお……未だに〈精鋭〉がどれくらいのランクなのかはわからないけど、やはりすごいようだ。
どうでもいいけど、そういや初めてジェルトがまともに戦っているところを見たな……。
「王都に行くのか?」
「その予定さ」
「そうか……ふむ。実は最近、紅殻魔蠍のような脅威度の高い魔獣が王都近郊や街道に多く現れるようになっていてな……」
「ほう?」
「〈精鋭〉ランクなら、きっと魔獣の討伐依頼を多く請け負う機会もあるだろう。騎士団からの依頼も出るから、よければ積極的に受けてもらえると助かる」
王都近郊に危険な魔獣が多発している……?
そういうことってあるのだろうか。まぁ帝国とは事情が異なるんだろうけど。
しかし騎士がこうも堂々とストライダーに魔獣討伐で頼りにするとは。これも文化の違いか。
ラブルローン王国はストライダー優遇政策が多く取られているというが、裏を返せば優秀なストライダーをそれだけ求めているということだ。
きっと騎士団だけでは、紅殻魔蠍といった魔獣の討伐に手が足りていないのだろう。
ちなみにジェルトが真面目に騎士たちの相手をしている間、ルナとルミア、それにセリスの3人は旅人や行商人たちから歓声を浴びていた。
「本当に助かったぜ、嬢ちゃんたち!」
「的確に魔術を操る姿に見とれちまったぁ!」
「こんなに愛くるしい見た目なのに、紅殻魔蠍をやっつけちゃうなんて!」
双子は満足そうな笑みを浮かべて賞賛を受け入れており、セリスは少し戸惑っている。
「うふふふふ……! 気にすることはないわ!」
「困っている人を助けるのは当たり前!」
「だってわたしたちは」
「獣精の魔術師! そう! 2人は!」
「ツイン☆ルミナス!」
決めポーズ付きの名乗りと同時に2人の背面に派手な火柱が上がり、旅人たちは拍手喝采で盛り上がる。
えぇ……そこは受け入れるんだ……。ノリにも文化の違いを感じる……。
とまぁ、いろいろあったが騒動も収まったところで俺たちは馬車に乗る。そして臨時収入を得て街で少しいい部屋を取ってみんなで飯に出かける。
さすがに規模の大きな街だけあって、宿場町よりもたくさんのお店がある。それにどこの酒屋も広い。
その中でも一際大きな店を選んで中へと入り、次々と料理と酒を注文していく。
「ははははは! 今日は王都到着の前祝いと魔獣討伐のお祝い、つまりダブルお祝いといこうじゃないか!」
「さんせ~い!」
「激辛!」
「お金を返せてよかった……!」
ちなみに紅殻魔蠍は実際、かなりの金になった。これもジェルトが手早く話をまとめてくれたおかげだろう。
運ばれてきた料理を食べ、酒を飲んでいく。
いい……すごくいい……! 俺は今、ストライダーをやっている……!
みんなも「やりきった」という達成感と「明日は王都だ」というワクワク感があるのだろう。普段よりもテンションが高いように思える。
……まぁジェルトと双子はいつでもテンション高い感じもするけど。
話が一通り盛り上がったところでジェルトが少し真剣な表情になった。
「ところで……皆は王都に着いたら、そのままストライダーとして活動をしていくつもりなのかい?」
「ん……? まぁ俺はそうだな」
ついつい忘れそうになるけど、今回のミッションは帝国から来たストライダーとして〈王立古代遺物研究院〉の研究員に接触、そしてそれとなく〈アーク・ガルダ〉の情報を流して技管局に共同研究の打診をさせることだ。
いわば明日からが本番と言える。……うん、ここまで来るの長かったなぁ。
「わたしたちもそのつもりよ!」
「王都で大活躍して、はやくランクも上げないとね!」
ルナとルミアも他国でストライダーとして活動していたけど、そこで組んでいたパーティを抜けて王都ラブルリアを目指していたんだっけか。
長くストライダーとしてやっていくなら、はやいうちによりストライダーとして優遇してくれる土地に拠点を移したいと考えたのだろう。
ジェルトも似たような理由だったはず。そしてセリスは。
「わたしも……そうですね。まだ新米ストライダーですけど、しばらくは王都で活動していくつもりでいます」
そういやセリスはどこから来たんだろう……? まぁ深く立ち入るのも無粋か。
みんな自分たちから話すのならともかく、だれも個人の事情には深く突っ込んできていない。
もしかしたらストライダーとして暗黙のルールみたいなものなのかもしれないな。
「そうか……ではあらためて私からの提案だ! 王都に着いたら、この5名でパーティを組もうではないかっ! かっ!」




