街道に現れた賊! じゃなくて魔獣!
翌日。宿場町を出て馬車で王都を目指す。今日は街の宿に泊まり、明後日には王都に到着する予定だ。
水路よりは時間がかかったが、にぎやかなメンバーも集まって、結果としてよかったと思う。
ほんと時限ミッションじゃなくてよかった……。王都についても、しばらくはのんびり観光なんかもしてみたい……。
きっと妖精族やストライダーをたくさん見かけるだろうし。
「王都についたらギルドに行って~」
「さっそく仕事に取りかからないとね!」
「指名手配犯たくさんいるかな~」
「手配魔獣、たくさんいるかな~」
戦闘意欲マシマシだね! 俺はバトル専門じゃなくて、アカデミックな遺跡探索を専門とするストライダーとしてやっていきたいよ! ぜんぜん知識ないけど!
でもこの2人、初めて会ったときに賊相手にまったく物怖じしていなかったし。それに燃える森を冷静に消火した点といい、それなりに荒事は経験してきているのだろう。
荒事の経験値なら俺もそれなりだと思うけど……! ここまで図太くなれないのは、決定的に戦闘力に差があるからなんだろうか……。
「フ……しかしセリスくんの話していた賊、昨日は来なかったねぇ?」
「きっと今日か明日にはくるはずです!」
「いや……そんな来てほしそうに言わなくても……」
「ははは! まぁどのような賊が現れたところで、この〈歩く大剣〉ジェルトがいるのだ! 大船に乗った気でいてくれたま」
「うおおおおおおおお!? なんだありゃああぁぁぁ!?」
「っ!?」
御者のおっちゃんが大声を上げて馬車を止める。何かあったのだろう、俺たちは視線を前に向ける。
すると正面には逃げ惑う旅人や行商人たちと……見た目からして凶悪そうな魔獣がこちらに向かって走ってきていた。
「ま!?」
「魔獣♡」
「魔獣☆」
「まま。まじゅー!」
なんだあの魔獣……! 見たことがねぇぞ!?
その魔獣はサソリのような外観をしていた……が、まずでかい。大きさが馬車の荷台くらいはある。
全身を赤黒い外骨格でおおっており、6本の足で地面を駆けながら4本のハサミを掲げている。それにいかにも「僕毒でーす」と言っていそうな、凶悪な尻尾も見える。
セリスは魔獣を知っていたのか、驚愕の表情で口を開く。
「あ、あれは……!」
「知っているのかい、セリスくん!?」
「紅殻魔蠍! ラブルローン王国で凶悪度ベスト10に入り続けている魔獣です!」
何種類いるうちのベスト10なんだ!? あと何位!? それ次第で結構印象変わるんだけど!?
「なに……! あれがウワサに聞く紅殻魔蠍……!」
「え。有名な魔獣なの?」
「ああ……! ラブルローン王国に生息する魔獣だ! これまで数多の騎士やストライダーを屠ってきたという……!」
「それはマズい」
ん……? ラブルローン王国に生息する魔獣……?
そう聞いて俺の脳裏には、ラブルローン王国に向かう前にノア先輩と交わした会話がフラッシュバックしていた。
『ラブルローン王国へ行くならちょうどいい。後輩、お土産でほしいものがある』
『なんですか? ノア先輩にはいろいろお世話になっていますし、なんでもいいですよ?』
『風牙鳥の羽、断崖熊の爪。あと紅殻魔蠍の尻尾と黒角王の角がほしい』
「…………あ」
思いっきりお土産リクエストに入っている魔獣じゃねぇか! というか後輩にしれっと危険な魔獣の素材をお土産としてねだるんじゃありません!
俺は見たものであれば【心写記憶】で記憶できるが、話していたことに対する記憶力は人並みなのだ。むしろよくここで思い出せたものだと思う。
「わ、わたしの占いの正体は……! 賊ではなくこのことを指していたのね……!」
「え、ガチ?」
「ふむ……しかしストライダーとして、街道に現れた魔獣を放置することなどできはしない! いかに凶悪な魔獣であろうと私は行く! とぉっ!」
「あ、ジェルト!? ……ったく、しゃあねぇ!」
さすがに俺もジェルトだけを戦わせるのは気が引ける。そう考え、ジェルトを追う形で馬車を下りた。
まぁたしかに放置できないか……! このまま俺たちも逃げ出せば、街道を利用している他の人たちが餌食になるだろうし……! それに王都にもたどり着けない!
あとこういう魔獣トラブルに対して颯爽と戦おうとする展開、イメージしていたストライダーっぽくてなんかいい……!
俺についてくる形でセリスも馬車を下りて走ってくる。すでに両手には2本のショートソードを握っていた。
「無茶よ! 紅殻魔蠍と戦うなんて!」
「でもこのまま放置は……」
「騎士とか、近くを通るストライダーとか! とにかく戦力が整うまで気を引き付ける行為に徹するべきよ!」
きっとセリスは紅殻魔蠍の恐ろしさをわかっているから忠告しているのだろう。
だがすでにジェルトの勢いは止まる様子が見られなかった。
「ようやく私の実力をお披露目といこうじゃないか! はあぁぁぁぁぁ! 〈大剣散歩日和〉!」
仙勁を用いた武技なのだろう。ジェルトは紅殻魔蠍に接近しつつ、身体ごととにかくがむしゃらにグレートソードをぶん回す。
えぇ……いや、本当にブンブン回しているだけでは……と思ったのだが、やはりちゃんとした武技だったらしい。
一見でたらめに振り回しているように見えるが、ジェルトは紅殻魔蠍の攻撃をすべて的確に剣で弾いていた。
四本のハサミに尻尾が執拗にジェルトを狙うが、適当に振りまわしているように見えて全部弾いている。おかげで紅殻魔蠍の足がしっかりとその場で止まっているのだ。
俺はそのまま素早く紅殻魔蠍の左側面へと回り込む。
紅殻魔蠍の意識がジェルトに向いているので、回り込むのは容易だった。そこから4つある目の1つを狙ってナイフを放つ。
「ギギギギギイギイギギギギィイィィィィイ!」
命中。ナイフが目の1つを潰したことで、紅殻魔蠍は痛みを覚えたのか動きが激しくなっている。
そこに新たな声が響いた。
「危険な魔獣さんは許さない!」
「ツイン☆ルミナスは見過ごさない!」
「せーのっ! ――沸騰と冷却のツイン・ミラクル!」
左側面からは熱波が。右側面からが寒波がほとばしり、紅殻魔蠍の左右に温度の異なる攻撃が命中する。
熱波を浴びた部分は外骨格の一部が融解しており、また寒波を浴びた部分は。
「おおおお! これはどうかな!? 〈歩行大爆斬〉!」
助走をつけたジェルトが勢いを利用してグレートソードを叩きつける。
すると寒波を浴びて凍っていた外骨格がバキンと音を立てて割れ、その下に見える柔らかな肉を深々と切った。
「イイッギギギイッギイギィイィ!」
「よし……! はあぁぁ!」
普段ならば戦いたくないところだけど、チームで凶悪な魔獣と戦うという行為が楽しい……! 不謹慎だけど!
そんなわけで俺もテンション高く前へと突っ込み、握ったナイフを振るう。狙うは熱波を受けて外骨格が融解している部位だ。
俺のナイフも問題なく外骨格の下にある肉を切り裂くことができた……が。
「あぶないレオン!」
ジェルトの叫びが聞こえる。俺は目の前の魔獣に夢中になっており、気づくのが遅れてしまっていたが……なんと上から俺に向かって凶悪な毒針尻尾が向かってきていたのだ。
「やば……!」
あ、これ死んだ……? もう避けられない……!
と、思ったその時。ガキンと音が鳴って毒針尻尾の動きが止まる。よく見たら正面には透明な障壁が展開されていた。
視線を横に向けると、こちらに向かって2本のショートソードをかっこよくクロスさせているセリスの姿が見える。
「はやく離れて! 障壁は長くは展開できないの!」
「っ!」
そうか……! これが障壁の魔術……!
言われたとおりにその場から離れる。すると火の槍と氷の槍が幾本も紅殻魔蠍に向かって放たれた。双子姉妹の魔術だ。
急激な温度変化の影響を受けたのか、紅殻魔蠍の外骨格はビキビキと音を立ててヒビが入っていく。
「そらそらそらそらぁ! これで終わりではないぞ、魔獣よ!」
そこにジェルトもグレートソードを叩き込み、俺は少し離れたところから〈蛇鎖の腕輪〉を射出して紅殻魔蠍のハサミを絡めとり、その動きを封じ込める。
そこにセリスが2本のショートソードで斬撃を加え、またジェルトに向かう攻撃を障壁でガードするなど器用な立ち回りをしていた。
「うおおおお!」
そうしてそれなりの時間、戦い続けたことで……。
「フ……! 勝ったぞ! 我々の……勝利だ!」
「うおおおおおおおお!」
気づけば周囲に野次馬で集まってきていた旅人や行商人たちが拍手喝采で大盛り上がりとなっていた。
……もしかしてストライダーと魔獣のバトルショー的な感じで楽しまれていた?




