樹精〈エルネス〉のストライダー セリス!
さすがに看過できない。というかこれほど堂々と営業妨害および客を不安にさせるのだ、根拠があるのだろう。
実際、美人樹精のストライダーはその瞳に自信の色をのぞかせている。
「ふむ……気になるではないか。聞かせてみたまえよ、なぜこの馬車に乗れば盗賊が襲ってくると?」
「それは…………!」
「それは?」
「占いの結果でそうでたからですっ!」
……………………………………………………ん?
「間違いないです! 朝一番の運命磁場が右回りだったタイミングでの占い結果ですから! えぇ、きっとこの馬車は盗賊に襲われますっ!」
運命……右回り、え? なんだって?
言葉の意味をまじめに理解しようと解読を試みるが、如何せん新出単語もあってなかなかうまく解析を
進められない。
そんなタイミングで御者のおっちゃんは樹精を完全無視して俺たちに話しかけてきた。
「さぁ乗りな。客はあんたらだけだ、このまま王都まで運んでやるよ」
「ま……まぁ、それじゃ……」
「そんなっ!? せっかく占いで見えた不吉な予兆を教えてあげているのに!?」
「カーッ! だから商売の邪魔するんじゃねぇ! 王都まで続く街道だぞ!? 騎士団も巡回しているのに、賊なんぞ出るわけがねぇだろうが!」
うん……まぁそうだよね……。帝国も主要な街道はいくつかあるが、そのどれもが帝国軍や領地所属の騎士たちが細かく巡回している。
街道はいわば物流の重要経路。トラブルで滞ればそれだけ経済の循環を悪化させることになる。
その影響は金銭に換算するとすさまじいことになるので、重要な街道ほど警備体制はしっかりと敷かれているものだ。
ましてや御者のおっちゃんの言う通り、ここらは王都も近い。こんな場所でおいそれと賊は出てこないだろう。
出るとすればあれだ。俺たちが出あった奴らみたいに、脇道に逸れた小道からさらに森へ逸れたところとか、まぁ騎士がおよそ巡回しなさそうな場所である。
ルナとルミアの2人はさっさと馬車に乗り込んでいく。
「おもしろそうだから乗っちゃお!」
「賊かぁ~! 本当に出たらツイン☆ルミナスの出番だね!」
「ちゃんとピンチになってから登場しなくちゃね!」
ん……? もしかして君たち……俺たちを助けたときも、登場のタイミングを見計らっていた……?
「フフフ……安心したまえよ、お嬢さん! 私はこう見えても〈精鋭〉ランクのストライダー! 仙勁レベルは6認定! 船酔いさえしていなければ、そこらの賊などものの数ではないのだよっ! よっ!」
「〈精鋭〉ランク……! 仙勁レベル6!?」
美人樹精に驚かれたことで気分がよくなったのか、ジェルトはものすごく満足げだ。
そう……ジェルトの言うとおり、船酔いさえしていなければ俺たちの中で最高戦力だろう。船酔いさえしていなければ!
俺もさっさと馬車に乗る。今回のミッションは王都ラブルリアに着いてからが勝負だ。
まだ王都にすら着いていないし、水路をあきらめた以上、あまりゆっくりとしていられない。
……いや、待てよ? 多少ならゆっくりしてもいいか? そもそも今回の任務、とくに期限とか設けられていなかったし。
任務をこなすまで帰ってこなくていいという遠回しなメッセージの可能性については、怖いのであまり考えないことにする。
美人樹精はしばらく視線を下に落として拳を握り込んでいたが、決意をしたように顔を上げる。
「わかりました……! わたしも同行いたします!」
「へ……?」
「もともとわたしも王都を目指していた身。不本意ではありますが……どうしても行くというのなら、わるい運命が見えている馬車をこのまま放置することもできませんっ! 不吉な未来を占ってお伝えしたという責任もあります! それにもしかしたら、みなさんの力を合わせることで新たな未来を切り開けるかもしれませんし……」
みなさんの力を合わせてというか……きみ、ジェルトの武力を当てにしているよね?
美人樹精もため息を吐きながら馬車に上がる。それを見て御者のおっちゃんは無表情で口を開いた。
「んじゃ金払ってもらおうか。王都行きはタダじゃねぇんだ」
「んひゅっ!? …………………………あ、あの」
「はい、なんでしょ?」
「お金……貸してくれませんか……?」
「………………………………」
■
街道は奇麗に整備されており、馬車の乗り心地も思っていたよりもわるくなかった。
「今日も宿場町での宿泊だが、明後日はそれなりに規模のある街で泊ることになる。金はちゃんと残しておけよ」
「どうも」
御者のおっちゃんから王都までの行程をざっくり確認しつつ、俺たちは自己紹介を順番に行っていった。
いよいよ最後、美人樹精の番が回ってくる。
「わたしの名は……セリス。少し前にストライダーに登録した新米ストライダーです」
「へぇ! もしかしたらとは思っていたけど……あ、俺もこの間登録したばかりのストライダーなんだ」
「フ……いいねぇ! これだけ将来大成しそうな若手ストライダーがいると、私も負けていられないと刺激を受けるというものさ!」
ベテランストライダーに樹精の二刀流剣士、それに獣精の双子魔術師……。
いいねぇ! 本格的に異国でストライダーとして旅をしている気分になってきた……!
しかし樹精は男女問わず、人種の基準では美男美女が多いとは聞いていたけど……セリスを見れば納得だな。実際、これまで俺が見てきた女性の中でもとびきり上位に入る美しさだし。
この外観で二刀流というのもポイントが高い。というかセリスも妖精族の血を引いているんだよな……。
「なぁセリス。セリスも魔術が使えるのか?」
双子姉妹の話だと、魔術が使えるからといっても必ずしも戦闘に使用できるわけではないという話だったけど……。
俺の問いに対してセリスは真面目な顔つきのままうなずく。
「はい。わたしは障壁の魔術が得意です」
「障壁の……魔術?」
「へぇ珍しい!」
「多彩な魔術の素養があると言われる樹精らしい……」
双子魔術師は今のセリスの説明でおおよその理解ができているみたいだ。俺とジェルトはさっぱりである。
「その……障壁の魔術というのは?」
「少し離れた場所に文字通りの障壁を展開させられるものです。障壁は破られない限り、あらゆる攻撃や対象の突進など物理的に食い止めることができます」
「え……すご……」
「ただし展開できる時間は限定的なのと、あまりにも強力な衝撃には耐えられません……」
ワンチャン、ジェルトの全力攻撃ならば破れるかもしれないといったところか。
というかよく考えたら俺はまだジェルトの実力を見てねぇ!
「樹精が多彩な魔術の素養があるというのは……?」
「そのままの意味よ!」
「妖精族は種族によって適性のある魔術に違いがあるの!」
「鉄精は金属や土を操る魔術が得意とか、そういう感じね」
「その中でも樹精は、水や雷の魔術だったり、結界を張る魔術とかにも適性があるの」
へぇ……種族によって魔術適性にも差異が見られるのか……。勉強になるなぁ……。
そんな話題の中心セリスは今、ジッと床を見つめていた。
「……どしたの?」
「しっ! 静かに……! こ、これは……!」
なんだ……床にそんなおもしろいものでもあったのだろうか。
「今、木目占いの結果が出ました!」
「…………はい?」
「今日の夕食は肉料理を食べると吉! とのことです! これはもう宿場町についたら、お肉を食べまくるしかありませんね!」
「……いちおう聞くけど。お金ない中で俺たちに肉を食わせてもらおうとか思ってないよね?」
「失礼な! おおお、思ってるわけないでしょう! これは厳然たる占いの結果! ですっ!」
うん……まぁなんだ。道中賑やかなのはいいことだな!
結局この日は賊に遭うこともなく、無事に宿場町へと到着する。そして「ちゃんと後で返しますから!」と泣きつかれ、セリスに肉代と宿代を渡したのだった。
……こいつ、そもそもどうやって宿場町までたどり着いたんだ?




