宿場町 新たな出会い
宿場町……整備された大きな街道ではこうした旅人の休める場所が点在している。通りに並ぶのは二階建ての建物が多く、たぶん宿屋が多いのだろう。
露店も並んでおり、パンや肉を焼く音と匂いが鼻腔を刺激してくる。……お腹空いてきた。
人通りは多いし、水筒に水を入れている者たちも目立つ。きっと俺たち同様、どこかへ向かう途中の旅人なのだろう。
「もう日が暮れるし、今日はここで休んでいこうか」
「さんせーい!」
「お腹空いたぁ……」
適当に宿に入り、部屋を2つ取る。確保した部屋に荷物を置くと、俺たちは食事に出かけた。
選んだお店はオーソドックスな酒場である。旅人が多いためだろう、店内はとても盛況で活気があった。
「へぇ……こういうのもいいな。帝都の酒場とはまた雰囲気が違う」
「フ……数々の旅人を満足させてきたであろう酒とツマミ。ぜひいただこうではないかっ!」
「なに食べようかな~!」
「激辛がほしい」
運ばれてきた料理と酒をさっそく味わっていく。ちなみにルナとルミアはお酒を飲まないとのことだった。まぁ見た目的にもまだ早かろう。
俺たちは談笑しながら、あらためてこれまでの話などをしていく。
「レオンの武器って変わってるよね!」
「チェーンを飛ばす腕輪なんて初めて見た! どこで買ったの?」
「買ったというか、作ってもらったというか……」
「どうしてチェーンを選んだの?」
「かっこいいから?」
「いやいや。俺は仙勁レベルも3だし、下手に剣を持って戦うよりもこっちのほうが立ち回りやすくてさ……」
ちなみにジェルトがグレートソードを得物にしている理由は、かっこいいからだった。
その理由だけで何年も使い続けているうちに、一番しっくりくるようになったらしい。
「フ……帝都にいた私たちは逆に魔術が珍しい。妖精族の血を引く者は皆、2人のような魔術が扱えるのかい?」
おお……たしかに気になる……!
皇族や一部の大貴族にも妖精族の血は流れているはずだけど、外観は人と変わらないので、おそらく相当血が薄まっているのだろう。
何かしらの魔術は使えるのかもしれないが、少なくとも俺は帝都で貴族が魔術を使っているところを見たことがない。
「そんなわけないでしょ!」
「妖精族の血を引いていても、魔術を戦闘に扱えるかは資質に影響されるの!」
「ちょっとした氷は出せるけど、戦闘にはまったく役に立たない……という程度の人なんてゴロゴロいるのよ!」
「でもわたしたちは2人そろって」
「戦闘用にいろんな魔術を使えるの! そう、だってわたしたちは……」
「獣精の魔術師、ツイン☆ルミナス!」
「火柱を出すなよ!?」
名乗りを上げられるたびに火柱が上がらないかとヒヤヒヤしてしまう……!
でもそうか。魔術が使えるからといって、必ずしもその全員が戦闘にも応用できるというわけではないのか。
仙勁と少し似ているかもしれないが、こっちは本人の努力次第でいくらか伸ばせる余地がある。
一方で魔術に関しては2人の言っていた通り、資質……才能によるところが大きそうだ。
ちなみに今いる酒場にはルナとルミア以外にも、妖精族の血を引いている者たちがいた。とがった長い耳を持つのは樹精の血を引いている特徴だな。
少し背が低くてヒゲと体色が濃いのは鉄精か。
側頭部に生えている角が前へとせり出ており、巻きかけのツルのように緩やかに曲がっているのは夢精の血を引く者に見られるものだ。
さすがに潮精の血を引くものはいないか……? 彼らは普段、海に暮らしているからな。
「帝都暮らしが長かったから、こんなに妖精族を見るのは初めてだ……」
「私もだよ! 異国に来たという感じがあってわるくないねぇ!」
「わたしたちからすると、ほぼ人種しかいない都市というのが想像つかないわ」
「どこの国に行っても、妖精族との混血は多く見かけるし」
帝国と他国の違いだなぁ……。まぁいくら帝国が大国といっても、妖精族が極端に少ないのは事実。
わざわざ外見的特徴から目立つことがわかっているのに、積極的に帝国に行こうと考える者も少ないのだろう。
ある意味で帝国は魔術後進国なのかもしれないな。俺含め、魔術について深く理解できている奴は少ないだろうし。
「そういや武器の話をしてきた時に聞きそびれたんだけどさ。魔術師ってやっぱり杖で魔術の威力とか変わったりするの?」
魔術師といえば杖……というのは万国共通のイメージだと思う。
ジェルトも気になる話題だったようだが、双子はどこかあきれた目を向けてきていた。
「何を言っているの?」
「そんなわけないでしょ?」
「もし杖で魔術の性能が変わるのなら」
「今ごろたくさんの人たちが杖の研究をしているはず」
「え……えぇ……」
正面から否定された……!
「それじゃなに? ファッション?」
「そうよ」
「そうなのか……」
「あとは個人差もあるんだけど~。杖を持っていたほうが魔術の発動をイメージしやすいとか、そういう効果があるの!」
「人によっては本や指輪なんかを魔術発動のイメージ、その起点に使用しているわ」
「わたしたちの場合は杖ね! 高級そうな杖ほど、すごくいい魔術が出せそうなイメージがあるわ!」
知らなかった……。たぶん魔術師からすれば常識なのだろう。
そんなことも知らないくらいには、やはり帝国は魔術後進国なのだ。とりあえず主語をでかくして俺だけが無知ではないと予防線を張っておく。
せっかくの機会なので他にも魔術を発動するときの感覚とか聞きたかったが、時間も遅くなってきたので今日はこのまま宿で眠ることにした。
そして翌朝。宿を出て4人で乗合馬車の停留場へと向かう。双子の今日の髪型は、高い位置でツインテールを作っている。いつも髪型を変えているんだろうか……。
気になりつつもしばらく歩いていると、すでに馬車がとまっているのが見えた。
「すみません、王都まで行きたいんですけど……」
「あいよ、こいつは王都ラブルリア行きだ。3日も乗っていれば王都に行けるぜ? 金はあるのか?」
「問題ないです」
「なら乗りな。どうやら朝一の客はあんたらしかいなさそうだし」
周囲を見渡してみると、たしかに他に客はいなさそうだった。
「フ……いつも客は少ないのかい?」
「いんや? この街道は上りも下りも午前と午後でいくつか乗合馬車が走っているが……まぁ朝一は客が少ないな。あとここまで来れば王都まで歩いて向かうって奴らもいるんだよ」
まぁたしかに乗合馬車は結構値段を取られるからな……。
ある程度王都の近くまで来たら、あとは安宿に泊まりながらのんびりと向かう者も多いのだろう。
「わたしたちは別に歩きでも構わないんだけど~」
「王都まで近いのに、高いお金を払うのもったいないし~」
「ははは! 安心したまえ、君たちは我々の恩人だ! 王都までの馬車代くらいは払わせてもらおうじゃないかっ! かっ!」
「ジェルトったら太っ腹ぁ~!」
「計算通り!」
「え。何が計算通りなの……?」
馬車に乗るのを渋ったら、ジェルトが金を出すと計算していたのだろうか。うん、そんな気がしてきた。
支払いを済ませ、馬車に乗ろうとしたその時だった。1人の女性が俺たちに近づいてくる。もしかしたら乗合馬車に乗る予定の人かな……?
「お待ちを。馬車ですが、出さないほうがいいです」
「あん……? 嬢ちゃん、いきなりやってきて商売の邪魔かい?」
その女性は白に近い長い金髪をしていた。まつ毛も同じ色でどこか神秘的な雰囲気を感じる。
それに長い耳……樹精の血を引く者に見られる特徴だ。
年齢は俺とそう変わらないくらいだろうか。顔つきからはどこぞの令嬢かという雰囲気が漂っているが、軽装鎧にミニスカート、足には防具としてのグリーブ。腰の後ろにはクロスさせる形でショートソードを2本挿している。
まぁ間違いなくストライダーだろう。王国の兵士が身に着ける正規品っぽさはないし。
「いいえ。ただ聞いてほしいのです。この馬車……きっと盗賊に襲われます!」
「なにぃ!?」
「盗賊……!?」
な……なんだってえぇぇ!?




