獣精の魔術師 ツイン☆ルミナス!
魔術による火は普通の火とは異なるのだろうか。それなりの勢いで森に火が回っていく。
いや、ガチでやべぇだろこれ!?
「あ、姉御……!」
「く……! えぇい、あんたら引き上げるよ! このまま火が回ったら厄介だ!」
「り、了解っす~!」
俺たちを取り囲んでいた賊どもはさっさとその場から去っていく。
これは……俺たちも早く逃げたほうがいいよね!?
「ちょっとルミア! 逃げちゃったじゃないの!」
「ルナが森に火をつけたからでしょ!」
「でもイジメられていたおじさんたちは助けられたし」
「ツイン☆ルミナスとしては満点ね!」
「どこがやねん!」
ハッ……! 思わず突っ込んでしまった……!
というかジェルトだけならともかく、俺まで“おじさん”のくくりに入れるんじゃねぇ!
「どぉすんだよこの火事!? 俺たちもさっさと逃げないと……!」
あと大事になっても、俺はまったく火事には関係がないと言い張りたい。実際そうだし!
「そんなに慌てなくてもだいじょうぶよ。ルミナ、お願いね!」
「仕方ないなぁ。…………しっとりいきますっ! アクア・ドロップ!」
妹ルミナが杖を前に掲げると、先端部に水球が現れる。最初は小さかったのにぐんぐん大きくなっていき、巨大な水球になったところでパチンと弾ける。
すると火は広がる森に勢いよく水が放たれ、みるみるうちに消火が完了した。
「えぇ……すご……」
オルディア領の港でちょっとしたショー代わりに魔術を使っている人は見たけど……! これだけの規模で発動する魔術は初めて見た……!
帝国人……とくに帝都近郊に住んでいる者であるほど普段の生活でなかなか魔術なんて見ないのではないだろうか。
「森が燃えつくされる危機は去ったわね!」
「これくらいの危機、なんとでもないよね!」
「だってわたしたちは……」
「獣精の魔術師!」
「ツイン☆ルミナス!」
ここで2人は決めポーズを取り、背後からまた火柱が上がる。
だからここでやるのやめろ! たった今、火事が広がりそうだっただろ!
ジェルトはまだ気分がわるそうに地面にうつ伏せになっていたので、俺が双子との会話を引き受ける。
「と、とにかく助けてくれてありがとう……」
「どういたしまして!」
「わるい人は見過ごさないもの、当然です!」
あらためてしっかりと外観を見る。姉のルナは薄い赤色の髪をしており、一部に赤いメッシュが入っている。
後ろ髪を右側の高い位置で長いサイドテールでまとめており、赤い火をイメージした髪飾りがよく映えているな。
妹のルミナは水色の髪色をしているが、一部に青いメッシュが入っているのが見える。
後ろ髪を左側の高い位置でやはり長めのサイドテールを垂らしており、こちらは水滴をあしらった髪飾りがよく目立つ。
そんな2人は着ている服も色違いだった。下はミニスカートにサイハイソックス、上はフリルのブラウスにボレロジャケットを羽織っている。
ルナが赤~橙のグラデーションになっており、ルミナは青~水のグラデーションになっている。軽装だが動きやすそうな恰好に見える。
だが杖はおそろいのようだ。身長のわりに少し長いような気もするが、魔術師の持つ杖とはそういうものなのかもしれない。俺、魔術師のことほとんど知らないし。
しかしケモ耳……オルディア領でも見かけたけど、基本的に他国から来た船員たちであり、ごつい男しか見かけなかった。
双子の女の子によるケモ耳は……もしかしたら世界が気づいていないだけで、なかなか素晴らしいものなのかもしれない。
「俺はレオン。こっちでダウンしているのはジェルト」
「ルナよ!」
「ルミアです」
「よろしく。俺たち、王都ラブルリアを目指しているんだけど、2人は?」
ここで双子は互いに視線を合わせる。そして俺に対して背中を向けて小声で話し始めた。
「ちょっとルミア。思っていたのと反応が違うくない?」
「よね~。普通ならもっと、歓声を上げてツイン☆ルミナスに助けられたと喜ぶ場面なのに……」
「それに応援もなかったよね。ツイン☆ルミナス、がんばぇ~! みたいな」
「守るべきものの声援がわたしたちの力になる……その条理を理解していないのかしら?」
め~っちゃ聞こえるように言うやん……。
え、なに。もしかして何度も名乗りを上げていたのって、俺たちからの歓声を期待していたからなの?
初見でそれはハードルが高いと思う……。ただただ茫然と見ていることしかできなかったし。あと体調もわるかったし。
ここでふらつきながらもジェルトが剣を杖代わりにして立ち上がる。うん、まだ顔色はわるいな。
「フ……助かったよ、獣精の魔術師殿。あの程度の賊、万全の私であればどうとでもなかったのだが……」
「わ、聞いたルミア」
「聞いたルナ」
「おじさんが美少女魔術師に助けられたという事実を仮定の話で矮小化しようとしているわ」
「きっとプライドが許さないのよ」
「オーケー! わるかった! 助けてくれてありがとう! ツイン☆ルミナスの2人がいなければ、我々はここで全滅していた! あとおじさんではない、ジェルトだ!」
う……う~ん……まぁ実際俺たちだけでは危なかったのも事実。助けられた……ことには違いないか……? 森に火をつけておっぱらったようにも思えるけど……。
あらためて互いに自己紹介を済ませたところで、みんな一緒に森を出て街道を目指して歩き出したのだった。
■
「へぇ。それじゃ2人も王都ラブルリアを目指していたのか」
「そうよ! 少し前まで別の国でストライダーとして活動していたんだけどね~」
「最近、ラブルローン王国がさらにストライダーを優遇し始めたときいて~」
「それでわたしたちも活動の拠点を変えようと決めたの!」
驚いたことに2人はストライダーだった。つまり先輩である。
これまで他国でパーティを組んで活動していたらしいが、2人はそのパーティを抜けてラブルローン王国で新たに活動することにしたのだとか。
「フ……私も同じだね! もともと帝国生まれということと帝都という大都会にいたくて、長らく帝都中心に活動をしていたのだが……今後もストライダーとしてやっていくのならラブルローン王国がいいと判断したのさっ!」
ジェルトもすっかり元気になっていた。今ならばきっと仙勁レベル6としての実力を発揮してくれるだろう。賊が襲いかかってきても安心である。
「ふぅん。レオンはどうしてラブルローン王国に?」
「え!? あ……まぁ、俺も同じような理由かな……」
「2人とも帝国から来たんでしょ? もともとパーティを組んでいたの?」
「いや、たまたまレオンがギルドでストライダー登録証を受け取る場面に遭遇してね。彼もラブルローン王国を目指すという話だったから、一緒に行こうと私が誘ったのさ!」
そういやどうしてストライダーとしてラブルローン王国に行きたいのか、表向きの理由を考えていなかったな……。
まぁ俺もみんなと同じく、よりストライダーとして優遇される環境を求めたということにしておこう。一番自然な理由っぽいし。
「へぇ! それじゃレオンはまだ新米ストライダーなのね!」
「何か困ったことがあったら、登録からわずか3ヶ月で〈従士〉ランクになったわたしたち」
「ツイン☆ルミナスに聞くといいわ!」
「ほう……! 3ヶ月でランクを1つ上げるとは、なかなかの実力者だね……!」
なんだかんだみんな目的地は王都ラブルリアなので、道中は一緒に向かうことになった。まだ距離もあるし、1人旅を続けるよりは賑やかでいいと思う。
ちなみにジェルトの〈精鋭〉ランクというのは、ストライダーの中ではかなり上位に位置するらしい。
双子魔術師も情けないところを見せたジェルトが実は高ランクストライダーだと知って驚いていた。
まぁその驚きは「え……本当に〈精鋭〉……?」というものであったが。
「しかしレオン、きみの洞察力はなかなかのものだな!」
「へ……?」
「賊を見つけた時のことだ。あの時、瞬時に襲われている女性が賊の仲間だと見抜いて攻撃していただろ? 見抜いてから攻撃に移る判断のはやさといい、なかなかやるではないか! かっ!」
うん、事故だったんだけどね!
まだ体調がわるかったし、使い慣れていないアタッチメントを装着して〈蛇鎖の腕輪〉を放ったし……!
決して意図したものではない。そう訂正しようと思ったが、ここで双子が声を上げる。
「あ! 街道が見えてきたわ!」
「結構人が歩いているのね!」
ちなみにこの2人も、俺たちが船を下りた村に滞在していたらしい。
なんでも途中までは街道を使っていたらしいが、脇道にそれてあっちこっち行っている間に村に到着したのだとか。
旅慣れているがゆえの余裕なのかねぇ……。
「よし……このまま街道を南に下れば、どこかで宿場町とか見つけられそうだな」
「そこで乗合馬車でも捕まえようではないか」
「えぇ? お金もったいなくない~?」
「でもそのぶん早く王都に着けば、それだけたくさん仕事ができるかも」
わいのわいのと話しながら歩き続けることしばらく。街道を挟むように建物が並ぶ宿場町が見えてきたのだった。
■ジェルト
青色が好きな長身男性。刃先の長いグレートソードを好んで使用するストライダー。
帝国の辺境生まれで都会に憧れがあり、長らく帝都で活動を行っていた……が、〈精鋭〉ランクに到達したのを機にいろいろ思うところもあり、活動の拠点をラブルローン王国に移すことを決意する。
基本的にソロで活動してきたが、それは帝国で活動するストライダーが少ないという事情もある。またジェルト自身、ソロでも活動できるほどの実力が十分にある。はず。
■ルナ
身長142センチのAカップ。妖精族、獣精の血を引く魔術師で火の扱いが好き。得意と好きは別物。
髪型はサイドテールかツインテールのどちらか。どっちにするかは毎朝ルミナと相談して決めている。
■ルミナ
身長142センチのCカップ。姉のルナ同様に魔術師であるが、水を扱うのが好き。こちらも得意と好きは別物。
双子コンビネーションによる掛け声と決めポーズは常に2人で研鑽を積んでおり、バリエーションも豊富。細かくマイナーチェンジを行っている。
■獣精
純血の獣精は顔も完全な獣であり体毛もフサフサ。人種と交わることでケモ耳を世に広めることとなった。
獣精に限った話ではないが、時代が進んだことで今は純血の妖精族はほとんど見かけなくなっている。




