賊と船酔いと獣精が交錯する時!
えぇ……何この賊遭遇イベント。というか帝都近郊は治安がいいのでついつい忘れがちになるけど、ちょっと地方に出ればそりゃ賊もいるか……。
「フ……そういうことなら見過ごすわけにはいかないな。よろしい、我々がきみの仲間を助けてあげようじゃないか!」
「ほ、本当かい!? ありがとう! こっちだよ!」
女性に先導される形で俺たちは道を外れて森の中へと入る。気分はまだわるいが、まぁこれもストライダーをやっている感が出てわるくはない。
走りながらジェルトは女性に確認を取る。
「賊の規模は? それと仲間の人数についても教えてくれたまえ」
「賊は5人くらいだよ! 仲間は2人で、とびっきりの美人さ!」
「ほう……。これは張り切らない理由がないねぇ!」
ジェルトは顔が青いままだが、元気が出てきたようだ。すごいな……俺はまだグロッキーなのに……。
しばらく走り続けていると、岩壁が視界に入る。そこに5人の賊に囲まれている2人の女性が確認できた。
「あ、あそこだよ!」
「フ……任せたまえ! そこまでだ、賊どもよ!」
「あぁん!?」
茂みから出て俺とジェルトは前に出る。同時にジェルトは背中の剣を引き抜いた。
「なんだぁ、てめぇらは!」
「邪魔しようってのか、あぁん!?」
だぁ……! 大声を出すなって……!
船酔いが収まりきっていない中で森を走り、その先で野郎のデカボイスを聞かされたら気持ちわるさに拍車がかかっちまう……!
「やっちまえ!」
5人が武器を構えてこちらに身体を向ける。しゃあねぇ、やるしかないか……!
袖に腕を入れて手早く〈蛇鎖の腕輪〉の先端部を刃物に換装する。そして左腕を前に突き出し、チェーンを射出した。
先制攻撃だ……! これで機先を制すれば、あとはジェルトがなんとかしてくれるだろ……! と、思ったのだが、ここで不運が重なる。
俺は今、かなり調子がわるい。そのうえ、まだあまり使い慣れていない〈蛇鎖の腕輪〉を射出したのだが……見事に狙いが逸れて、なんと襲われていた女性2人に向かって刃が伸びたのだ。
「レオン!?」
やば……!? このままだとあの2人に当たってしまう……!
という危惧は無用に終わった。なんと真っ直ぐ飛んできたチェーンの先端部を、女性は冷静に抜いたナイフで弾いたのだ。
「へ……?」
あれ……!? あの女性って、賊に襲われていたんじゃ……!? 突然の出来事なのに、ものすごく冷静に対処された……!?
だが俺の先制攻撃が場の空気を大きく変える。なんと賊たちはもちろん、2人の女性も俺を大きく警戒するような目を向けてきたのだ。
そして後ろから俺たちをここまで案内した女性の声が響く。
「バカな……!? あたしたちが全員グルだって気づいていたのかい……!?」
「っ!?」
なにそれ!? え、お前らもしかして全員賊ですか!?
「ちっ……! 船酔いでフラフラしているから、カモだと思ったんだけどねぇ……!」
女性が指笛を吹くと、さらに5人の賊が森の中から姿を現す。
これ……もしかしなくても、嵌められた……!?
「く……! まさか罠だったとは……!」
「あっははは! まぁバレちゃ仕方がないが、取り囲んでしまえば一緒さ! あんらた、命が惜しければ金とその立派な武器を置いていってもらおうか! とくにチェーンを飛ばす武器なんて珍しいからねぇ! 高く売れそうだよ!」
おいおいマジかよ……! なにこの展開!? あとまだ吐きそう!
しかしここでジェルトが顔は青いまま不敵な笑みを浮かべる。
「フ……きみたちは運がない」
「なにぃ……?」
「私はそこらのストライダーとは違うのだよ! 〈精鋭〉ランク、仙勁レベルは6! 帝国で名を馳せた〈歩く大剣〉のジェルトとはこの私のことだ! だっ!」
「な……!? 〈精鋭〉ランクの仙勁レベル6だって……!?」
え、ガチ? 仙勁レベル6って、めちゃくちゃ上位実力者じゃん。才があって努力した者の実質到達点とも言われているレベルだし。
さすがに賊の中にも仙勁レベル6に届く実力者はいなかったらしい。わかりやすく動揺している。
「あ、姉御! どうする……!?」
「レベル6の実力者相手じゃ、さすがにこの人数でも敵わねぇ……!」
「く……! あんなにザコそうだったのに……!」
うん……船から下りてまだ酔いが回復していなかったからね……。
こりゃ俺の出番はないな! ジェルトに全部お任せでオッケーだ!
「さぁどうする!? いや……聞くまでもない! 賊はここで成敗する! はあぁぁぁぁぁ、ふ、おげえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「っ!?」
ジェルトが大剣を力強く振り回した瞬間、彼は剣の重量に振り回されてそのまま片膝をつき、ゲロを吐き出した。
きっと今まで耐えていたのだろう。もともと船酔いが弱点と言っていただけあり、俺よりもダメージは大きかったはず。
そのうえでここまで走り、さらに無理して笑顔で話し続け、剣をブンと振り回したのだ。もはや体力はとっくに限界を迎えていたのだろう。
「はぁ、はぁ……! すまない、レオン……! 私の体調が万全であれば、このような賊ども1人で……んげろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
レベル6が肝心なときに頼りにならねぇ!
いくらなんでも仙勁レベル3の俺ではこの人数を1人でどうにかできねぇぞ!?
「は……はは……! ビビらせやがって……! お前たち、チャンスだよ! 今のうちにこの自称レベル6を仕留めちまいなぁ!」
「おおおお!」
「く……っ!」
えぇい、無茶でもなんでもやるしかねぇ……! というかまだ王都に着いてすらいないのに、こんなところで殉職とかいくらなんでも笑えなさすぎる……っ!
覚悟を決めて〈蛇鎖の腕輪〉を射出させようとしたその時だった。なんと俺たちの周囲で火柱が上がる。
「あっつ!?」
「なんだ!?」
「これは……魔術か!?」
いや熱っ!? なにこれ!? 魔術ってマジ!?
火柱は収まったが、賊どもは全員が警戒しており、俺たちから距離を取る。そこにどこからか高らかに女の子の声が響き渡った。
「そこまでよ!」
「あなたたちの悪事……見過ごせません……!」
「だれだい!? 姿を見せなぁ!」
女の子の声が……2人……?
そんな疑問に答えるように、右手から2人の女の子が姿を現す。2人はちょっとかっこいいポーズを決めていた。
そのまま軽快な動きと笑顔で口を開く。
「さあさあ! 困ってる人はどこかな〜?」
「見つけたら最後、私たちがパパっと解決しちゃうよ!」
「光より速く、風より軽く!」
「そして誰より可愛く!」
「ツイン☆ルミナス、ただいま参上〜っ!」
名乗りを終えたタイミングで2人の背後に派手めな火柱が上がる。森、燃えない……? 大丈夫……?
いろいろ思うところはあったが、それよりも驚くところがあった。それは2人の外観だ。
「な……!? 獣精の……魔術師!?」
そう……2人は妖精族の血が入っていることが確実な外観をしていた。
まず髪色が違うだけで顔が同じなので双子なのだろう。これも珍しいが、2人には頭部にケモ耳が生えていたのだ。それに尻尾も見える。
これは妖精族の1つ、獣精の血を引いていることを意味する。帝国では妖精族の血を引く者は珍しいが、こうして見ると異国に来たのだと強く実感できる。
というかなんだあの名乗り。ぜったい何度も練習してきただろ。振り付けもやたら息が合っていたし。
「そう! わたしたちは獣精の魔術師、ツイン☆ルミナス!」
「姉のルナと……」
「妹のルミア! 2人合わせて~……」
「ツイン☆ルミナス! ただいま参上~っ!」
再び2人の背後に派手な火柱が上がる。それにさっきとは微妙に異なる決めポーズをとっていた。
もしかしたらいくつかバリエーションがあるのかもしれない。まさかこんな短期間で2回も同じ名乗りを上げるとは……!
2人は賊たちにビシッと指をさす。
「弱いものイジメは許せない!」
「さすがに黙って見過ごせない!」
よ……弱いものイジメ……! あ、ジェルトがショックを受けてる。ちなみに俺もである。
「わるい大人たちは」
「わたしたちがお仕置きしちゃう!」
「そう、わたしたちは……」
「獣精の魔術師、ツイン☆ルミナス!」
2人の背後に3度目となる派手な火柱が上がる。そしてふんわりと飛んだ火の粉が森へと飛び……火が回り始めたのだった。
「……ちょおぉぉぉぉぉい!?」




