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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
5章、他国でフワッとウワサを流すだけの任務ですよね?

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歩く大剣とストライダー レオン

 いろいろ衝撃はでかかったが、今さらヴァネッサ室長に「その恐ろしい推薦人連名、やめてくれません?」とは言えない。


 もう俺は「謎に複数名の大貴族に推薦された新人ストライダー」としてやっていくしかないのだ。


 ただしそれも帝国内の話。ラブルローン王国に入ってしまえば、とくに気にしなくてもいい点に……はならないか。


 やべぇ、ストライダー規約をきっちり守って品行方正、模範通りのストライダーとならなくては……!


 もし事件など起こしてしまうと、大貴族様とリシェルに迷惑をかけることになる。……ハッ。まさかこれがヴァネッサ室長の狙い……!?


 いや本当に勘弁してくれよ! そんな黄金に輝く首輪をつけられなくても、ちゃんと仕事はこなしますって! 


 ストライダーとして浮かれて厄介事になるような騒動を起こしたりなんかしません!


 と、とにかく気を取り直して……もうストライダー登録は終わってしまったのだ。あとは細かな準備を整え、テレシム運河を伝ってラブルローン王国の王都を目指すだけである。


 そう考え、ギルドを出ようとしたところで1人の男性が前に立ちはだかった。


「フ……待ちたまえよ、新人ストライダーくん。きみがたった今、ストライダー登録証を受け取ったのは見させてもらったよ」


 ルード先輩ほどではないが、背の高い男性だ。軽装鎧に背中には刀身がかなり長い剣……グレートソードを背負っている。


 見るからに重そう……。年齢は30手前くらいかな? ランド隊長よりは若く見える。


 顔つきはまぁまぁ男前に入るだろう。あと鎧の色や服など、全体的に青色で統一されている。こだわりが強そうだ。


「それとバッチリ聞かせてもらったよ。ラブルローン王国に向かうとね……!」


「あ、はい。っすね」


 なんだろう……新人ストライダーに心構えとかを教えてくれるつもりなのだろうか。


 規約にも上位のストライダーは新人に対する指導や教育をするようにという条項があったし。


「フ……きみは実に運がいい……。何しろストライダー登録を終えたその瞬間に、この〈歩く(ウォーキング・)大剣グレートソード〉ジェルトがいたのだから!」


〈歩く大剣〉……! その二つ名、もはやジェルトではなく、剣が本体なのでは……!?


「ちょうど私もアイゼンブルク帝国を出て、ラブルローン王国に活動拠点を変えようとしていたところなのだよ……! ここで会ったのも何かの縁だ、この私がラブルローン王国まで同行してあげようじゃないかっ! かっ!」


 おお……! なんだかよくわからないけど、どうやら親切心で言ってくれているっぽい……!


「そ、それじゃ……お願いしようかな……」


「任せたまえよっ! だがラブルローン王国……それも王都まで行くとすれば、それなりの日数と資金が必要になる。そのあたりは問題ないのかね?」


「ええ。テレシム運河で船を押さえていまして……」


「んなぁんとっ! それは素晴らしい……! すでに船を押さえているとは……! なるほど、昨今の新人若手ストライダーは事前準備を入念に、データを活用した者が多いとは聞いていたが……!」


 え、そうなの? というか移動手段も金も上が用意してくれているんですけど。任務遂行に使った金は経費として請求もできるし。


「しかしそうなると困ったな……私は陸路を予定していたし、今から同じ船を押さえるのもむずかしだろうしね……」


「あ~……たぶんあと1人くらいなら、頼めばなんとかなるかもしれません」


「なんと!? それは本当かい!?」


「た、たぶん……? もしダメそうだったらそこでお別れになるかもですけど……」


「ははは、構わないとも! 船を使えるのであればそれにこしたことはないからねぇ! ただ私は船酔いしやすいので、陸路を希望していたにすぎないのだよっ! よっ!」


「それ、結構重要なのでは……?」


 つかこの人、テンション高ぇな!


「とりあえず明日の朝、帝都の南門で待ち合わせします……?」


「ああ、構わないとも。あらためて……私の名はジェルト! 〈歩く大剣〉のジェルトだ!」


 そう言うとジェルトは手を差し出してくる。俺も手を差し出して互いに握手を交わす。


「俺はレオンです」


「フ……レオン。我らの間に敬語など不要だ。気を遣うことなく楽に話してくれたまえ!」


「はぁ……どうも」


 続けてジェルトはストライダー登録証を見せてくる。ジェルトの登録証は俺のとは異なり、銀色に輝いていた。


「驚いたかね? そう……私のストライダーランクは〈精鋭ヴァリアント〉! そんな私が同行するのだ、大船に乗ったつもりでいてくれたまえ! よっ!」


精鋭ヴァリアント〉……! すごそうな名前だ……! おそらく相当上位のストライダーなのだろう。


 それにジェルトからはまごうことなき強者としての風格を感じるし。たぶん仙勁オーラレベルもそれなりに高い方だと思う。


 まぁ道中で賊やら魔獣に出くわす可能性もあるし。王都までのボディガードとして頼りにさせてもらおう。あとストライダーとしての冒険談や注意すべきことなど、いろいろ教えてもらえそうだし。


 そんなわけで俺はジェルトと一緒にラブルローン王国の王都ラブルリアへ向かうことになる。その日は黒熊の巣穴亭で夕食を済ませ、メリンさんにしばらく帝都を留守にすることを伝えた。


 俺が留守の間、俺宛てに届く荷物や手紙はメリンさんが管理してくれているからな……。


「レオンくん、お仕事大変そうねぇ」


「まぁ……それなりには。でもセレーネ皇女のおかげで黒熊の巣穴亭も忙しくなったんでしょ? バイトも増やしたみたいだし、メリンさんこそ仕事が大変そうだけど……」


「もうこの忙しさに慣れてしまったわ」


 一時の行列ができるほどの込み具合は解消されているとはいえ、一躍人気店になったのは間違いないもんな……。


 ちなみに今日の「特別予約席」には鼻息の荒い男性が座っていた。


 食べているものは俺と同じく一角ウサギのステーキだろう。すっかり店の看板メニューになっちまった。


「でもこの間の仕事には緊張したのよねぇ……」


「ん……? どんな仕事だったんです?」


「実はね……主人が皇宮に料理人として呼ばれたのよ。わたしもその手伝いで行ったんだけど、皇女様や他の貴族様も多くて、もう緊張して緊張して……」


「へ……!? こ、皇宮に!? り、料理人として!?」


 え、なにそのビッグイベント。ビッグすぎない?


「そうそう、アヴィエスちゃんもいたわよ」


「ふぇ!?」


「なんでも皇女様が皇宮内での食事会を企画されたみたいでね。そこで主人が料理を振る舞うことになったんだけど……2人の皇女様に3人の貴族令嬢。その1人がアヴィエスちゃんだったの」


「マジすか……!」


 ああ……そういえば学院勤務最終日に、アヴィエスから皇宮での食事に誘われていたっけ。きっとその時の話が、今回の話にリンクしているのだろう。


 しかし黒熊の巣穴亭の店主を呼んで直接料理を作らせるとは……! さすがロイヤルパワー……。


 まぁトーマスさんも有名店にしてもらった恩があるだろうし、ちょうどいい機会だったのかな……?


「でもその時に思ったわ。レオンくんもそういえば領主様の息子だったな、て」


「まぁうちは北の山奥、そこにある村を治めている程度の家ですから……」


 少なくとも親父も“領主様”なんて呼ばれるような存在ではないと思う。まだ村長様のほうがしっくりくる。


「ま、うちは一番上の兄が家を継ぎますし。俺自身は貴族位を継承しないただの庶民ですよ」


「ふふ……そうよね。でもアヴィエスちゃん、すごく立派な貴族令嬢という雰囲気になっていて……びっくりしちゃった」


 さすがアヴィエス……皇女に食事に誘われているくらいだし、アストラ学院でどんどん貴族令嬢として磨きがかかっていっているのだろう。


 そういやせっかくラブルローン王国に行くんだし、アヴィエスに何かお土産でも買って帰ろうかな……? 

 エグシス兄さんや実家と違って、帝都に帰ればすぐにお土産を渡せるし。


 新たに「ラブルローン王国でやることリスト」の項目を増やしたところで家に帰って準備を整える。


 さて……いよいよ明日から本格的にストライダーレオンの冒険が始まるな……!

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