新たな任務は他国潜入工作……?
今回はどんな厄介な調査任務、あるいは戦闘任務を回されるのかとドキドキしていたけど……!
そもそも紋影官として活動する必要がない……!?
「えっと……どういうことでしょう?」
黒仮面を持っていかなくていいということは、黒入りに対処する可能性もないということだ。
それならそれで紋影官がやらなくてもいい仕事なのでは、と思ってしまうのだが。
「まず今回のお前の任務だが、隣国ラブルローン王国へ赴き、そこでストライダーとして〈王立古代遺物研究院〉に接触。そこの研究員に〈アーク・ガルダ〉の情報を流すというものになる」
「…………へ? じ、情報量が多すぎて何がなんだか……」
隣国へ行って情報を流すというのはわかった。
だがなぜにストライダー? なんで〈アーク・ガルダ〉の情報を流すの? あと〈王立古代遺物研究院〉ってなに?
「順を追って話そう。まずベイルオール元学院長が〈黒曜聖団〉と組み、〈アーク・ガルダ〉を使って帝都を崩壊させようとしていたのは、お前が突き止めた事実となる」
「はぁ……」
突き止めたというか、勝手に話されたというか……。
「〈アーク・ガルダ〉だが、現在は帝国技術管理局にて解析が行われている」
「ええ、技管局に回収されたのももちろん知っています」
あれ運ぶの、ものすごく大変だったらしいけど。というか同期たちとの飲み会でも出てきた話題だ。
「古代の巨大アーティファクトだ、技管局の研究者たちも大いに興味を引き付けられている……が、ここで問題が起こった」
「研究者が古代遺物を解析するのに問題が……?」
「そうだ。帝国は古代遺物の解析や研究ノウハウが十分に培われていないのだ」
どういうことだ……と思ったのは数秒だけだった。理由についておおよそ理解できたからだ。
「帝国にはそもそも古代遺跡が少なく、これまで遺物の調査や研究が十分に行われてきていないからですね?」
「その通りだ。薬物類やお前の〈蛇鎖の腕輪〉といった道具の開発力は優れているが、こと古代遺物関連になると、帝国の研究者は他国の研究者に劣る」
帝国と他国では文化的な違いの他、妖精族の多さや古代遺跡の数などにも大きな違いが見られる。
また古代遺跡には強力な魔獣が生息していることも多く、ストライダーの活躍の場も多い。
帝国ではあまり馴染みがないが、古代遺跡はとにかく金になるのだとか。
ストライダーは魔獣を狩ったり遺物を見つけて金を儲け、研究者たちは買い取った遺物を研究して金になる道具の開発などを行い、また金を儲ける。
黒夢晶なんかもその過程でできた闇道具だ。
それに魔獣の肉や骨なんかも金になるらしく、とにかく古代遺跡の多い国は治安もわるいが、ストライダーをうまく活用して経済を活性化させているのだとか。
そのため国によってはストライダーに対して優遇政策を取ることもある。
一方で帝国はそこまで古代遺跡が多くないので、それらを活用した景気の循環にはあまり期待できない。まぁそのぶん、人種を中心とした巨大国家に成長を遂げられたのだろうが。
「技管局の研究者どもは、〈アーク・ガルダ〉を解析したくともノウハウが蓄積されていないため、ずいぶんと効率のわるい研究しかできていないようでな。しかし極上の素材が目の前にあるのに、このまま遅々として進まない解析を続けるのもストレスになる」
「はぁ……」
「そこで古代遺物の研究に慣れた他国の研究者たちを招聘し、共同で〈アーク・ガルダ〉の解析調査を行い、ついでにそのノウハウを盗もうと考えた」
「えぇ……」
ま、まぁ……お互いにとってもわるい話ではない、のか……?
共同研究によって、両者にはそれぞれメリットがある。
他国の研究者は〈アーク・ガルダ〉なんていう巨大アーティファクトに触れられるし、帝国の研究者たちもその解析ノウハウを学ぶことができる。
というかヴァネッサ室長も“盗む”ではなく“学ぶ”と言ってほしい。イメージが違いすぎる。
「幸い、隣国であるラブルローン王国は古代遺跡の数も多く、ストライダーの活動も活発な場所だ。しかも〈王立古代遺物研究院〉という、古代遺跡の解析と研究に特化した機関まである」
「で……ラブルローン王国に入って〈王立古代遺物研究院〉の研究員に接触し、〈アーク・ガルダ〉の情報を流せと……?」
「そうだ。兵士や紋影官としてではなく、帝国のストライダーとしてな」
………………?
うん、一見筋が通っているようで通っていないな。おかげで今回の任務についてまだ理解を深めることができていない。
「やることはわかったんですけど……いくつか不明な点があります」
「言ってみろ」
「まず〈アーク・ガルダ〉の情報を流して、何になるんです……?」
言ってしまえば他国の研究者に〈アーク・ガルダ〉の話をするだけだ。
調査任務でもなんでもないし、戦闘も起こりようがない。距離はあるが楽な仕事ではあるだろう。
だが〈アーク・ガルダ〉の情報を流すことが、どう今回の目的……帝国の遺物研究ノウハウを蓄積することにつながるのかが見えてこない。
「古代の巨大アーティファクトだぞ。その話を聞けば、〈王立古代遺物研究院〉としてもぜひ話を聞かせてほしいと帝国に打診してくるだろう」
「そう、そこなんですよ。なぜこんな回りくどいことを? 技管局から直接〈王立古代遺物研究院〉に打診すればいいじゃないですか。一緒に巨大アーティファクトの研究をしませんか、と」
なぜわざわざ他国に赴いて、一度〈アーク・ガルダ〉の情報を流すという面倒なことをするのか。
そんなことをせずともこちらから打診すれば、簡便かつ最速で研究ノウハウとやらも学べるだろう。
この疑問に対してヴァネッサ室長はむずかしそうに眉根を寄せた。
「まぁお前ならばそこに疑問を抱く可能性はあると思っていた」
「はぁ……何か理由でもあるんですか?」
「ある。大国としてのプライドだ」
「………………はい?」
「大国としてのプライドだ。なぜこちらから頭を下げて共同研究の打診を行わねばならん。向こうから一緒に研究させてくださいと頭を下げさせるべきだ」
「え……ええぇぇぇ…………」
ガチだ……冗談でもなんでもなく、ガチで“大国としてのプライド”が原因でこんな回りくどいことをさせられそうになっている……。
というか俺がそこに疑問を覚えると思っていたって……。まるで帝国人としてのプライドがないかのように……いや、実際ないかもしれない。
たしかに帝国は大国だが、それで隣国に対して頭を下げないという発想には思い至らなかったし。
これもヴァネッサ室長と俺の間で、視座の高さに違いがあるからだろう。
庶民目線では気にもならないところだが、帝都でそれなり以上の役職に就いている以上、大国としての品位を落とす判断や行動が取れないのだ。
きっと過去の偉人たちもそうしたプライドを持って政治を動かしてきたことで、今日の帝国の地位を築き上げてきたのだ。たぶん。きっと。
「つまりそのプライドのために、向こうから共同研究の打診をさせることが今回の目的だと……」
「最終目的はそこだな。まぁ〈王立古代遺物研究院〉も技管局と同じような変人……いや、優秀な研究者ぞろいだろう。〈アーク・ガルダ〉の話を聞けば自ずと向こうから接触してくるはずだ。もしそれがむずかしそうであれば、共同研究の打診をさせるところまでがお前のミッションになる」
マジかよ……。




