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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
4章 学院で軽く調査するだけの任務ですよね?

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エピローグ 2

「い、いや……そうは言いましても……」


 俺の表情を見てヴァネッサ室長はハァとため息を吐く。きっとベイルオール学院長の帝都崩壊計画とやらの後始末が大変なのだろう。


 お、俺のせいじゃないよね? おのれベイルオール……! 皇族でありながら国際手配犯と手を組んで校舎を半壊させるなど、絶対に許せないぜ……!


「この3日であらかたの事情は整理できた。例のヴァルカ商会から流れていた資金の行方や幽霊騒動についてもな。まさかこの2つの調査がすべて帝都崩壊計画につながっていたとは思わなかったが……」


「あ、資金の流れについても判明したんですね」


「ああ。意識を取り戻したベイルオールから多くの事情を聞き出せている」


 学院長、意識が戻ったのか……。最後のインパクトが強すぎて、全裸初老の印象しか残っていないんだけど……。


「経緯はどうあれ、ベイルオールの計画を食い止めた手腕は見事だった。経緯はどうあれな」


「は、はぁ……どうも……」


 めちゃくちゃトゲがある言い方だ……! そんなに経緯を強調しなくてもいいじゃないですか……!


「単なる調査だと考えていたわたしにも油断はあった。皇族で学院長であるベイルオールからすれば、アストラ学院は秘密裏に事を進めるのに絶好の環境だっただろう」


「まぁあれだけの巨大アーティファクトを確保していたんです、そうなんでしょうね……」


「しかしよくベイルオールの計画を嗅ぎ付けられたものだ。お前の紋影官シジル・シャドウとしての実力は評価している」


 えぇ……? 学院長の計画に気づいたのって、偶然に偶然が重なった結果なんだけどな……?


 もっと言えばリックが間抜けだったからだ。どういうわけかあいつ、俺を仲間だと思ってペラペラとテロ計画を話し始めていたし。


 最終的に起動した〈アーク・ガルダ〉を倒せたのもルード先輩のおかげだし。


 実は今回、俺の活躍らしい活躍といえば、黒曜聖徒ザルカーをノア先輩のジョークアイテムで撃退したことくらいである。


「しかし……だ。前にも言ったが、どうせ解決するならもっと穏便にしてもらいたい。そもそも地下空間にたどり着いたとき、最初にベイルオールの身柄を確保していれば、校舎が半壊することもなかったはずだ。お前であれば黒曜聖徒が相手でも、まずはベイルオールの身柄を押さえられただろう?」


「いやぁ……さすがにそれは買い被りがすぎますって……」


 ま、まぁ……たしかに学院長を最初に捕縛しておけば、結果は大きく変わっただろうけど……。


「ふぅ……今回はお前だけをどうこう言うつもりはないがな。そもそもルードが先輩としてもっとリードすべきだった」


「で、ですよね!」


 先輩と一緒に仕事をするときのメリットがこれだ。何かあっても、だいたいの責任が先輩に向くからな……!


「とにかく今後の任務はもう少し加減をして臨め」


「えぇ……いつも大事にするつもりはないんですよ? 気づいたら事態の方が勝手に大事になっているといいますか……」


 今回だって当初の任務からすれば、帝都崩壊計画やら巨大兵器やらまったく関係なかったはずだし! 


 俺が事態を大きくしているんじゃない、事態のほうが大きくなるのだ。


「というか今回の事件、そんなに大事になっているんですか……?」


「当たり前だ。ベイルオールの計画を察知できていなかったことで情報院は評価を下げ、巨大アーティファクトが現れたときに迅速な対応ができなかったことで騎士団や帝国軍は評価を下げた。校舎の工事をするための資金と業者の選定、セキュリティ体制の見直し、学院長の空席問題、学院地下の遺跡調査、帝都内に潜り込んでいた〈黒曜オブシディアン・聖団サンクトゥス〉の動向……帝都内部でどれだけの騒動が起こっているのか理解していなかったのか……?」


「あ……あはははは……」


 再びヴァネッサ室長からギロリと睨まれてしまう。たしかに事件は帝都のど真ん中で起こったのだ、いろいろ評価を下げた組織や人は多いだろう。


 ちなみに〈アーク・ガルダ〉については帝国技術管理局……技管局が回収したようだ。マッドサイエンティストの集う組織だ、徹底的に解析されることだろう。


「ギリギリのタイミングで事件を迅速に解決したことで、黒紋監察室ブラックシジルは評価を上げた……が、お前の強引な解決が原因で同じくらい評価を下げた。結果プラマイゼロといったところだ」


「ま、まぁ……マイナスじゃなくてよかったっすね……」


 いや本当に……。というかべつに俺も強引に解決したつもりがないんですけど!?


「とにかく今回はご苦労だった。経緯はどうあれ、お前の働きに満足しているのは本心だ」


「ど、どうも……」


「しばらくは休暇をやる。ゆっくりと休むといい」


「え。それ、もしかして休暇終わりに大変な任務をやらせる気じゃ……」


 前もそんなことがあったし! 具体的にはオルディア領に行く前のことだ。


 いや、あの時も最初はそんなに大変な任務じゃないはずだったんだけどね!?


「……なんだ。もっと刺激的な任務を回してほしいのか?」


「いえいえいえいえいえいえ! レオン、ヴァネッサ室長の言いつけ通りに休みに入らせていただきますっ!」


「ハァ……もういい。次も控えている、出ていいぞ」


「はっ! 失礼いたします!」


 ヴァネッサ室長の執務室から出るとすぐに廊下でルード先輩とすれ違う。どうやら次はルード先輩のようだ。


「ようレオン、10日間お疲れさん」


「先輩もお疲れ様でした」


「まぁ大活躍したお前に比べたら、大した疲れはねぇよ」


 だ、大活躍……ヴァネッサ室長の言うところの“加減しない”活躍のことを言っているのだろうか……。


「落ち着いたら〈陽気なる靴音亭〉に来いよ。特等席で俺のダンスを見せてやる。もちろん酒とツマミはおごらせてもらうぜ!」


「マジすか。行きます、行かせていただきます」


「おう、そんじゃまたな~」


 そう言うとルード先輩はヴァネッサ室長の執務室へと入っていく。俺はそのままノア先輩の調合室へと移動した。


 部屋を訪ねるとちょうどノア先輩も中にいた。いつものジト目無表情で口を開く。


「……後輩、今回も派手な活躍をしたと聞いた」


「いや……派手にするつもりはまったくなかったんですけど……」


 派手だったのは帝都崩壊計画なんていう物騒なことをやらかそうとしていた学院長だよ!


「とにかく今回はノア先輩に助けられました。あのジョークで作ったというくしゃみ薬、あれがなかったら危なかったです」


「…………ん。やはり調合しておいてよかった。素材がないからもう作れないけど」


「たぶんないほうが安全だと思いますよ……あれ、めちゃくちゃ効果えぐかったですから」


 万が一自分が吸い込んでいたら、死んでいたのは間違いなくこっちだ。無色無臭というのがおそろしい。


 どれだけ工作員やら暗殺者としての鍛錬を積んだ者でも、まったく気づくことがないだろうし。


「実はお礼の他にお願いもありまして……」


「……なに?」


「この間、妹へのお土産で髪にツヤが出る石鹼を作ってもらったじゃないですか。あれ、妹がかなり気に入りまして……友人にもあげているみたいなんですけど、また作ってもらうことってできますか?」


 前もヴァネッサ室長と話している時間で作っていたし、たぶん素材さえあれば手間ではないんだろうけど……。


「ん……構わない。その代わりアストラ学院にしか売られていない〈古樹茶〉と交換」


「……なんです、それ?」


「学院の敷地にある古樹の落ち葉を乾燥させて作る茶。すごく渋いらしい」


「はぁ……わかりました。妹に言っておきます」


 オルディア領のお土産を頼まれたときも思ったけど……ノア先輩の好みって、ちょっと独特だよな……。見た目通りなら甘いものとか欲しがりそうなのに……。


 とにかく石鹼は確保できそうだ。きっと髪ツヤ石鹼は3年に渡るアヴィエスの学院生活を彩ってくれることだろう。


 とりあえず明日、アヴィエス宛に手紙を出しておくか。





「今回は後輩に助けられたな、ルード?」


「はぁ……返す言葉もないっすよ」


 レオンが去った執務室で、ヴァネッサはルードと向かい合っていた。

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