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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
4章 学院で軽く調査するだけの任務ですよね?

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あやしさ満点の男

「は……は、はは……はははは……」


 フリックスは感情のジェットコースターについていけていなかった。


 地下で見た巨大な騎士人形、そして学院長とトラヴィン講師による恐るべき罠と帝都崩壊計画。その犠牲者として選定された2人の皇女。


 無理だ、ただの学生がどうにかできるレベルを明らかに超えている。退路は塞がれているし、兵士たちも明らかに戦い慣れている。


 わざわざ学院長と共にここに控えていたのだ、仙勁オーラも相当レベルが高い実力者だろう。


 詰んだ。もはや自分たちにできることは何もない。たとえここで口封じに殺されなくとも、〈アーク・ガルダ〉が暴れ出したら間違いなく無事ではいられなくなる。


 ところが。


「んぶぎぇっ!?」


 それは華麗なる閃光だった。どうしようもないこの状況で、アヴィエスは恐ろしくシンプルな解決方法を見せつける。


 そう……この場にいる関係者たちを倒せば解決だろう、と。


「な……なんだよ、それは……」


 なぜいつもアヴィエスは何事にも動じることなく、堂々とした態度を取れていたのか。だれが相手でも気遅れすることなく接していたのか。その答え合わせができた。


 単純にめちゃくちゃ強いのだ。自分の実力に自信があり、しかも付け焼き刃でないぶん、余裕の表れにもなっている。


 これだけの実力を持っていたのだ、そりゃフリックスに対して恐れるはずもない。


 フリックスはこれまでアヴィエスにしてきた数々のいやがらせ……いや、アヴィエスはそもそもいやがらせとも受け取っていないだろうが。とにかくそうした行為の無意味さを強く実感していた。


「あ、あぁ……どうりで入学式初日のときも……」


 あの時、アヴィエスはこう言っていた。仙勁オーラや武術、馬術といった科目が見当たらない……と。


 まず間違いなくアヴィエスはヴァルツァー領で自らも魔獣と戦ってきていた。


 だからこそ「貴族たるもの、戦う力はあって当然なのだろう」という認識でおり、自然と出てきた疑問だったのだ。


「みなさん、事件は解決しました」


 なんでもないかのように軽い口調で話すアヴィエス。退路を断っていたはずの兵士2人もすでに姿がない。


 おそらくアヴィエスの実力と学院長がやられたのを見て、逃げ出したのだろう。


 リュシアとリスティナも茫然とした表情のまま口を開く。


「や……やだ……アヴィエス、かっこいい……」


「アヴィエス……今日ほどあなたと友達でよかったと思った瞬間はないですわ……」


 皆もフリックスと同じく、予想外だったのだろう。アヴィエスがここまでの実力を兼ね備えた強者だったということが。


 仙勁オーラの扱いもかなりのものだった。フリックス自身はそこまで仙勁オーラを扱えないが、素人目に見てもわかる。長年の研鑽で習熟した武技が振るわれていたということを。


 アナスタシアとセレーネもアヴィエスへと駆け寄る。


「だ……だいじょう、ぶ……? アヴィエス……!」


「だいじょうぶですよ。相手が油断していたので勝機は十分にありました。最初からわたしに意識を払われていたら、こうもあっさり決着がつかなかったでしょうけど……」


 簡単に言ってくれる。たしかに学院長や兵士たちは2人の皇女に意識を向けていたし、アヴィエスなど田舎娘と思って視界に入っていなかっただろう。


 それがわかっていたからこそ、奇襲で一気に決着をつけにいったのだ。こうなるとわざと田舎娘を演じていたのかと疑いたくもなる。


「学院長の計画を聞いた時はどうしようかと思ったけど……アヴィエスがいてくれてよかったぁ!」


「こんな伏兵が潜んでいたなんて、予想していなかったでしょうね。というかアヴィエス……あなた1組どころか、1学年を支配できるポテンシャルを持っていますわよ……」


 フリックスもそう思う。だれとでもすぐに打ち解け、友人関係を構築する。いやみがなくどこか泰然とした態度。皇女や大貴族の娘を友として側に置く大胆さ。


 なによりこの戦闘力だ。アストラ学院にはそもそもそこまで仙勁オーラレベルの高い者は入学しない傾向がある。


 もちろんゼロではないが、そうした者は故郷で騎士になったり、軍学校を目指すことが多いのだ。


 おそらくアヴィエスは全学年総合でもトップ3に入る実力を有している。もはや田舎娘だからどうとかいうレベルではない。


 これこそが家格や資産では測れない、人としての格なのだろう。


「あ……アヴィエス」


「どうしました、フリックス?」


「…………これまでのこと、謝罪する。許してほしい」


 そう言うとフリックスは頭を下げる。結果的にアヴィエスは帝都を救ったのだ。英雄に対して頭を下げられないほど、フリックスは自分を狭量な男だとは思っていない。


 きっと謝罪してもアヴィエスはとくに何も感じないだろう。彼女が真に怒るのは友人をけなされたとき。フリックスの謝罪など求めていない。


 だがそれはそれとして、フリックスは自分の中の気持ちに決着をつけたかった。


「フリックス……アヴィエスの力を見たあとだと、ダサく見えるわね……」


「タイミングを見計らうにせよ、今ではなくないかしら?」


「う……うるさいな!」


 リュシアとリスティナが茶々を入れてくる。そんな自分たちの姿を微笑ましく見ていたセレーネが手をパンと叩く。


「ふふ……アヴィエスには帝都を救っていただいたお礼をしなくてはなりませんね!」


「お……お姉さま…………。こ……皇宮に……し、招待、したい……です」


「アナスタシア、いい考えですね! よかったらレオンさんも一緒に……」


 緊張感が解けていく。もはや〈アーク・ガルダ〉はもう動かない、帝都が崩壊する危機も去った。今はとにかくここから出るのが先決だろう。


 そう考えたときだった。


「なんやぁ? なんでこないなことになってるんや?」


「っ!?」


 その声は自分たちが来た方向とは真逆から聞こえた。視線を向けると、部屋奥の暗闇から1人の男性が姿を見せる。


 その男性は垂れ目で覇気を感じさせる風貌ではなかった。しかし顔には刺青が入っており、服は黒を基調にしたものを着ている。


 デザインだけでいえば礼服に見えなくもない。そして背中には長方形の金属……変わった形状の剣を背負っていた。


 いったい彼は何者なのか。学院長の雇った傭兵だろうか。少なくとも学院の講師でああした特徴的な外観を持つ男はいなかったはず。


 そしてそんな彼を見たアヴィエスは、顔に汗を流しており、強く警戒心を滲ませた声色で告げる。


「みなさん、ここから急いで逃げてください」


「…………え?」





 その男を見たとき、アヴィエスの背筋に悪寒が走った。


 これまでも魔獣から強い殺意を向けられたことはあるが、どういうわけか目の前の男からはそうした負の感情を煮詰めたような印象を覚える。


 間違いなく相当な実力者。先ほどのような不意打ちなどきかないだろう。


 男は周囲に倒れる兵士やトラヴィンに視線を向けて気だるげな目をアヴィエスたちに向ける。


「もしかしてやけど……これやったの、おたくら?」


 目をそらせない。そらした瞬間、それを隙と見て接近を許す可能性がある。


 アヴィエスは警戒心を最大限に高めながら口を開く。


「そうです。あなたのお仲間でしょうか?」


「ん? はっはっはぁ……まぁこの中で仲間と言えるのは1人だけかな? なぁ導士トラヴィン?」


 男が壁際で倒れているトラヴィンに声をかける。すると彼は震えながらも立ち上がった。


「うぐ……聖徒ザルカー、遅かったですね……」


「まぁいろいろあってなぁ。んでぇ? 予定では今ごろ、〈アーク・ガルダ〉が動いとるはずなんとちゃうんか?」


「見てのありさまですよ……みんなあの女子生徒にやられてしまいました」


「ほぉん? やるやん嬢ちゃん。んで……どうするんや、トラヴィン? このまま帰るか?」


 アヴィエスが兵士たちを倒したと聞いても、その男はあまり関心を示さなかった。


 それにアヴィエスから視線をそらしてトラヴィンに対してこれからの方針を聞いている。


「まだ〈アーク・ガルダ〉は起動していません……少なくともこいつを起動させるまでは、僕の目的は果たせませんよ」


「ほな引き続き皇女様の確保か。しゃーない、他にだれもおらん以上、俺がやるしかあらへんなぁ」


 そう言うと入れ墨の男は背中から剣を引き抜く。その剣は刀身が長方形の形状をしており、剣というよりは金属板という印象が強かった。


「まぁわるぅ思わんといてや。これが俺らの仕事やねん」


「仕事ではありません、使命ですよ」


「へぇへぇ。それじゃ、さっそく……」


 来る……! そう直感したタイミングで今度は後方から声が届く。


「そこまでだ……」


「うん……?」


 新たな参入者は後ろにある地上へ続く階段から現れた。


 黒いローブにフードをかぶり、顔には黒い仮面をつけた人物。それを見てリスティナが驚愕の表情で口を開く。


「ま、まさか……紋影官シジル・シャドウ……!?」

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