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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
4章 学院で軽く調査するだけの任務ですよね?

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帝都の地下に潜むもの

 古代文明期の遺跡……アヴィエスは名前だけは知っているが、具体的にどういうものなのかはわからない。ここで声を上げたのはフリックスだった。


「約2000年ほど前より以前の時代に建設され、今も残っているものを古代遺跡と総称します」


「うん、さすがによく学んでいるね。ではその時代はどういう文明が築かれていたと思う?」


 この問いに対してフリックスはむずかしい表情で無言。代わりに答えたのはセレーネだった。


「一説では、妖精族が世界中で覇権を握っていたと言われていますね」


「ほう……」


「各地に残る遺跡は、当時の妖精族の持つ技術や魔術で建造されたのだとか。しかし妖精族含め、詳細な文献や言い伝えはないので、詳しいことはわかっていません。……いかがですか?」


「すばらしい。いや、さすがはセレーネ様だ。3年生の1組にふさわしい頭脳をお持ちですね」


 話を聞いてアヴィエスは「そうだったのか」と感心した。


 ヴァルツァー領でも歴史についてはほとんど学んでこなかったので、古代史ともなればまったく予想がつかない時代になる。


「帝国は国土が広いわりに、遺跡の数は少ない……これはもともと、帝国のあった土地は妖精族もあまり進出していなかったためではないかと言われております。結果として人種が多く住む土地になったのでは……とも」


「へぇ……帝国って他国より妖精族が少ないと言われているけど、歴史的な経緯とかも関係しているのかしら?」


「あくまで学説の1つですよ。ただそんな帝国にも、実はかなり大きな遺跡があるのです。どこかご存じですか?」


 再びトラヴィンの問い。しかし今度は答えられる者はだれもいなかった。


「何を隠そう、実は帝都の地下には古代遺跡が広がっているのですよ」


「え!?」


「そうなんですか?」


「はい。まぁ古代期の魔獣が生息している危険性もあるため、全容は解明されていないのですが……こういう場所に喜んで飛び込むのは、帝国には少ないストライダーくらいなものですし」


 ストライダー……これはアヴィエスもよく知っていた。幼少の頃にレオンが憧れていたからだ。


 たしかにストライダーは、魔獣討伐のプロでもあり、危険な古代遺跡の調査も行うと聞く。専門家としての技術も持ち合わせていることだろう。


「実は何を隠そう、この階段が地下遺跡へ向かう道なのですよ」


「へ!? せ、先生、だいじょうぶなの!? 地下遺跡って……」


「はは、心配いりません。学院の地下にあるのは、あくまで大きな地下遺跡のごく一部。それに調査も終えているので、魔獣が出るといった心配もいりませんよ」


 トラヴィンの話を聞いてアヴィエスは疑問が浮かんでいた。せっかくなのでそれを正面からぶつけてみる。


「どうしてそんな遺跡の上に都を作ったのでしょう?」


 わざわざそんな場所を選ばずともよかったのでは……そう思ったがゆえの疑問だ。


 昔の話だし明確な答えを期待していなかったが、アヴィエスの疑問についてトラヴィンはしっかりと答える。


「これも所説ありますが、1つは都合がよかったのだと思いますよ」


「都合がいい、ですか? 地下遺跡の上に都を作ることが?」


「はい。現在も地下遺跡の一部は下水道としても活用されています。わざわざ地下を掘って工事を進めるより、もとからあるものを活用したほうが効率がよかったのではないでしょうか。とくに大規模な都市を建造するときは……ね」


「なるほど……」


 あらたな事実を知ってアヴィエスは驚く。まさか普段の生活で地下遺跡を活用しているとは思っていなかったのだ。


「それともう1つ……なんといっても地脈の影響が大きい」


「そういえば帝都は、とくに太い地脈の上に築かれていると聞くわね」


「はい。まぁ地下遺跡も地脈があったからこそ作られた可能性があるのですが……そこは今はおいておきましょう。知っての通り地脈から吹き出る龍気ドラグマは、文明的な生活を送るのに欠かせません。人が多く住む大都市であれば、それだけ豊富な龍気ドラグマが吹き出る場所に築く必要も出てきます」


 龍気ドラグマ……地脈を流れるエネルギーの奔流。人は龍気ドラグマを活用することで動く道具をいくつも生み出してきた。照明装置もそうだ。


 他に冷暖房機能を有する道具や調理具にも活用されているし、通信局では手紙の配送だけでなく、限定的ではあるが遠く離れた場所にメッセージを送る機能にも龍気ドラグマを使用している。


 その他、龍気ドラグマを活用した乗り物や兵器の研究も進んでいると聞く。現代の人の生活に欠かせないものだ。


「豊富な龍気ドラグマが確保できる場所は、大都市を築く絶対条件……このような状況がそろったからこそ、帝都は大陸最大の都市に発展したのだと思いますよ」


「広大な地下遺跡に龍気ドラグマか……」


「古代期の魔獣とやらと遭遇しないのを願いたいですわね……」


 トラヴィンは古代史の講師だが、話を聞いているうちにアヴィエスも古代史に関心を持った。学生生活は3年あるし、腰を据えて学んでみてもいいかもしれない。


 ここで次の疑問をぶつけたのはセレーネだった。


「でもトラヴィン先生。どうしてわたしたちをその地下遺跡に? 学院長はここでわたしたちに何を見せたいのでしょう?」


「それは行けばわかりますよ。……ほら、見えました」


 いよいよ地下へ続く階段の終わりが見えてくる。階段を下りきった先には広大な……ここが地下だというのを忘れるくらいの広大な空間が広がっていた。


「これ……は……!?」


「な……なんですの……!?」


 どこかツルリとした見た目の床や壁。部屋全体が淡く輝いており、地下室という雰囲気がまったくない。また太い柱が等間隔で並んでおり、神殿のような印象もあった。


 だが何よりも驚いたのは、少し離れたところに巨大な騎士がいたことだ。


「大きな……甲冑……!?」


 その巨大な騎士は3階建て校舎と同じくらいの大きさがあるように見えた。見えた……というのは、立っていなかったからである。


 その騎士は大きさに見合った巨大なイスに座っており、その正面には騎士が振るうにふさわしい剣が床に刺さっていた。


「驚きましたか?」


「トラヴィン先生……あれはいったい……?」


「我々は〈アーク・ガルダ〉と呼んでいますが……これが見つかったのは、実は5年ほど前なのです。当時はここではなく、さらに奥深くに存在していたのですよ」


 アヴィエスたちは驚きながらも、トラヴィンについて足を進め、巨大騎士……〈アーク・ガルダ〉の近くへと移動していく。


「別の場所にあったのに、ここまで運んだのですか?」


「えぇ。この遺跡、一部が可動式になっておりましてね。解析などにかなりの時間がかかったのですが、ようやくここまで動かすことができたのです」


〈アーク・ガルダ〉の周囲には大量の白いモヤが浮いていた。


 それらは〈アーク・ガルダ〉に吸い込まれていっているが、一部は吸い込まれずに天井へ上っていき、そのまま突き抜けていく。


 それを見てアヴィエスは先日地上で見かけた白いモヤを思い出した。


「地上で見かけたモヤの正体は……もしかして……」


「えぇ、その通りです。幽霊騒動と言われていますが、実は地上に吹き抜けた龍気ドラグマ、その一部なんですよ。だいたいが〈アーク・ガルダ〉が吸収するのですが、ちょこちょこああして地上に逃げていく龍気ドラグマもあるのです」


 帝都に来て驚くことはたくさんあったが、アヴィエスは間違いなく今が最も驚いていた。いや……おそらく人生で最大の驚きを覚えている。


 地下遺跡にたたずむ巨大騎士。おとぎ話の世界に入り込んだような錯覚すら覚えている。


 それに龍気ドラグマをまとう〈アーク・ガルダ〉はどこか幻想的に見えた。


 セレーネも〈アーク・ガルダ〉を見上げながら口を開く。


「学園の地下に……このようなものが……。お父様から聞いたことがございませんでしたので、驚きました……」


「あぁ……まぁご存じないでいしょうね」


「…………? トラヴィン先生、それはどういう……?」


 セレーネがさらなる疑問をぶつけるよりも前に、〈アーク・ガルダ〉の影から1人の男性が姿を見せる。


 その顔を見てアヴィエスだけでなく、全員が両目を大きく見開いた。


「わしがあえて隠しておったからだ。よく来たな、セレーネにアナスタシア」


「が……学院長!? どうして……」


 学院長は今、講堂に生徒たちを集めて講義を行っているはず。


 絶対にここにいるはずのない人物が姿を見せたという、ありえない状況。これにアヴィエスは学院長の表情と合わせて不穏なものを感じ取る。


 ほぼ同時に後ろについてきていた兵士たちが自分たちの来た道……階段の出入口を封鎖するように移動した。


 反対に学院長の後ろからは、新たに4人の兵士が姿を見せる。


「いよいよだ……いよいよこのときがきたのだ……! わしの帝都崩壊計画が実行に映し出される時がな!」

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