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普通の兵士になりたかったのに、皇帝直属の隠密として帝国の闇を任されすぎている  作者: ネコミコズッキーニ
4章 学院で軽く調査するだけの任務ですよね?

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帝立アストラ学院 アヴィエスの入学初日

 帝立アストラ学院。ここは軍人を目指す軍学校や文史官を育てるための学府とも違う、貴族のための教育機関。


 アヴィエスがアストラ学院入学の話を両親から聞いたときは驚きが大きかった。


「実は帝都の知り合いが、よかったら娘を通わせないかと提案してくれてな。そいつの推薦があれば、学費はほとんどかからないんだ。このままヴァルツァー領から出ないというのももったいないし、3年間帝都で暮らしてみていろいろ学んできたらどうだ?」


 突然の話にアヴィエスは最初、戸惑っていた……が、結論はすぐに出す。


「わかりました。せっかくの機会です、その学院でいろいろ学んでこようと思います」


 アヴィエスは今でこそ貴族の娘だが、もともとはただの領民の子として生まれている。


 母のエリーがアヴィエスを連れて領主であるノックスと再婚したので、そのまま貴族という身分に変わったのだ。


 といっても領民たちとの関係まで変わることはない。ヴァルツァー領では領主一族が領民を率いて勇猛果敢に魔獣と戦うし、村の規模も広大というわけでもないので、そもそもの距離感が近いのだ。


 だが他の領地ではそういうわけではないということをアヴィエスは知っている。


 本当の意味で貴族の娘としての教育はおそらく受けられていないし、それをアヴィエスに教育できる者もここにはいないのだ。


 自身もヴァルツァー領に貢献するため、少しでも貴族としての教育を受けるべきだろう。両親の話を聞いてアヴィエスはそう考え、アストラ学院への入学を決意した。


 それに帝都には兄のレオンもいる。基本的にアヴィエスは三兄弟と仲がいいが、とくに年齢の近いレオンは最初から話しやすかった。


 またレオン兄さんに会える。その期待感がアストラ学院入学の後押しになったのも事実である。


 そしていよいよ入学式を迎えたその日。アヴィエスは寮を出ると講堂に向かって歩き出す。


 道のあらゆる場所に、講堂への案内が立てられていた。新入生が迷わないようにという気配りだろう。


「この敷地ぜんぶが学院だなんて……建物も大きいし、ずっと上ばかり見てしまいそう……」


「ふふん! やっぱりあなた、田舎から来たみたいねっ!」


 急に後ろから話しかけられる。振り返ると、そこにはオレンジの髪をした元気そうな女性が立っていた。


 制服を着ているので自分と同じ学生だということがわかる。


「あなたは?」


「……ハッ!? このわたくしとしたことが、一瞬とはいえあなたの美しさに気を取られるとはね!」


「はぁ……」


 美しさで言えば、目の前の女性はなかなかのものだと思う。何よりオレンジの派手な髪色はどこか煌めいていて目を引くし、女性自身も奇麗な顔をしているのだから。


 それに胸がものすごく大きい。制服越しでもその大きさがまったく隠せていない。


 それに比べると、胸はともかくアヴィエスの髪色は少し地味である。


 だが今日はレオンからもらった石鹼を使ったので、普段よりも艶がすごいことになっている自覚はあった。


「わたしの名はリュシア・ウィンチェスター! ふふ……そう、ウィンチェスター家の娘よ!」


「あ、はい。わたしはアヴィエス・ヴァルツァー。ヴァルツァー家の娘になります」


 きっと目の前の女性は自分よりも貴族令嬢としての教育をしっかりと受けてきている。


 そう考え、アヴィエスも彼女の言葉をなぞるように自己紹介を行う。


「……ヴァルツァー? 聞かない名前ですわね……」


「地方の小領地なので」


「ふぅん……? まぁ帝国にもたくさんの領地があるのだもの、そのほとんどは目立たない領地なのだから気にすることはないわ!」


 なるほど……たしかにだれもが知る有名な領地というのは限られるだろう。


 それに帝国は広大な版図を誇っているだけって、領主の数も他国よりも多いのだ。埋もれる領地名なんていくらでもあるに違いない。


「ところで……あなたも新入生かしら?」


「そうです。……リュシアも?」


「ええ! ……って、あなた今、わたしのことを呼び捨てにしませんでした!?」


「……まずかったでしょうか? すみません、故郷では年齢の近い者はみんな呼び捨てで呼び合っていたので……」


 もしかしたら初対面では貴族令嬢としてバッドマナーだっただろうか。アヴィエスは少し不安になる。


「その……だいたいみんな仲のいい友人になるので、さん付けだとかえって違和感があると思って……」


 そもそもヴァルツァー領では年齢の近い者は全員顔見知りかつ友人である。


 同い年が多い学院において、アヴィエスははじめから同級生全員が友人みたいな感覚を持っていた。


「ふ……ふぅん? 仲のいい友達ねぇ? ま、まぁ……そういうことなら、特別に呼び捨てにしてもいいわよ?」


「そう? よかった、リュシアもわたしのことはアヴィエスって呼んで」


「ええ! アヴィエス、あなた田舎から出てきてわからないことも多いでしょう? この友達のリュシアがなんでも教えてあげるわ!」


「ありがとう、リュシア。とっても助かるわ」


 そうして2人は並んで講堂を目指す。すると今度は別の道から1人の女性が姿を現す。


「げ……」


 リュシアは思わず「げ」と口ずさんだが、アヴィエスはそんなことが気にならないくらいにその女性に見惚れていた。


 黒い髪は前髪をぱっつんに切りそろえており、両サイドはあご下まで伸ばしている。腰まで伸びる髪も真横に奇麗に切りそろえられており、白い肌と黒い髪のコントラストが美しい。


 その娘は美女と美少女の中間にいるような外観をしていた。


 制服を着ていることから生徒なのはわかるが、アヴィエスの目をもっとも引き付けたのはその髪である。リュシア同様、少し煌めいているように見えるのだ。


 黒髪の美しい女性はアヴィエスたちに視線を向けると、ニッコリと邪心のない笑みを浮かべる。


「あらぁ。リュシアさんじゃないですかぁ」


 女性が聞いても甘い刺激を感じる声色。これもヴァルツァー領にはいなかったタイプの女性である。


 アヴィエスは「まだ講堂にすらたどり着いていないのに……これが帝都……」と小さくつぶやいた。


「入学初日から早々に取り巻きの確保ですかぁ? ご苦労なことですね」


「ち……! ちがうわよ! アヴィエスはそんなのじゃなくて、わたしの友達なの!」


「まぁ……あなたに友達が? ふふふ……おもしろい冗談ですね」


 どうやらこの2人はもともと知り合いらしい。まったく知っている人がいない状態で学院に入った身からすると、顔見知りがいるのはとてもうらやましく思えた。


 それはそれとしてアヴィエスは訂正しなくてはならない。


「冗談ではありません、リュシアはわたしの友達です」


「…………あなたは?」


「アヴィエスです。ヴァルツァー領から来ました」


「ふふ……あぁ、ヴァルツァー領ですか。よくあんな遠い田舎から帝都までやって来られましたね」


 感心したようにうなずくと、黒髪美少女はスカートの裾を掴んで笑顔を向ける。


「わたくしはリスティナ・ノーグレスト……ノーグレスト家の娘です」


「わかりました。よろしくお願いいたします、リスティナ」


「えぇ、よろし……あなた、今わたくしのことを呼び捨てにしました?」


 まただ。リュシアと同じく呼び捨てに反応を見せる。


 もしかしたら初対面だと、いくら年齢が近くても「さん」をつけたほうがいいのだろうか。


 少し戸惑いを覚えていると、リュシアが慌てたように訂正を入れてくる。


「アヴィエス! こんな奴に呼び捨てはしなくてもいいの! ノーグレスト“さん”と、しっかりと距離を置いて呼んであげなさい!」


「え……でも……。年齢も近いし、リュシアと同じように友人に……」


「ならない! こいつはあなたの友人にはならないわよ! 笑顔の下で何を考えているのかわからないような奴なんだから!」


 どうやらリュシアはあまりリスティナのことをよく思っていないようだ。だがリュシアが悪感情を持っているからといって、自分が友人にならない理由はない。


 ここでリュシアの反応を見ていたリスティナが「なるほど」とつぶやく。


「……えぇ、いいわ。アヴィエス、どうぞわたくしのことはリスティナと呼び捨てにしてちょうだい」


「ちょ!?」


「わかりました、リスティナ。これからよろしくお願いしますね」


「こちらこそ。フフ……アヴィエスとは仲良くできそうね」


 こうして3人は並んで講堂を目指す。そしていよいよ目的地が見えてきた……というタイミングでアヴィエスは足をとめた。


「ん?」


「どうかしましたの、アヴィエス?」


「…………人の隠れている気配がする」


「え……?」


 ヴァルツァー領にいたころ、茂みに隠れた魔獣が急に飛び出してきて襲撃してくるということは珍しくなかった。


 そのためアヴィエスをはじめとした領民たちの中には、自然に周囲の気配を探りながら生活を送っている者がいる。


 そのアヴィエスの気配センサーにはたしかに人の気配があった。


 どうして学院の敷地内で、わざわざ隠れる必要があるというのか。そういえば兄は巡回兵士として学院に配属されたと言っていたけど、もしかしたら不審者の類を警戒しているのかもしれない。


 そう考えたアヴィエスはその気配を無視してだれかに伝える……ということはせずに自らずんずんと歩いて近づいていく。


 背中を向けた瞬間に友人のリュシアとリスティナが襲われたら大変だ。


「だれ……?」


 バッと茂みを回り込む。そこにいたのは、淡く輝く薄緑の髪を持つ美しい美少女だった。

■リュシア・ウィンチェスター

 身長162センチのEカップ。大蔵卿にして第一皇子派筆頭、ゴドウィン・ウィンチェスターの娘。

 愛人との間にできた娘だったが、ゴドウィンが認知したためウィンチェスター家の娘として育てられた。

 先祖に妖精族の血が混じっており、明るいオレンジの髪は淡く輝いている。またリュシア自身も火の魔術が使用できる。


■リスティナ・ノーグレスト

 身長158センチのDカップ。内政卿にして第二皇子派筆頭、ガルフォード・ノーグレストの娘。黒髪ぱっつん、姫カットが目をひく美少女。

 帝国の高位貴族の中には妖精族の血が混じっている家系があり、ノーグレスト家もその1つ。黒髪は淡く煌めいており、リスティナは氷の魔術が使用できる。

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― 新着の感想 ―
リュシアちゃん、いいですなあ。 ノクターンじゃなくて残念。
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